20 強敵の正体は……

「んノオオオオオォォォォォっ!? ちょ、ちょ、ちょっと~!? マサムネ君、こっちに敵が来たっス~~~っ!!!!」

「少しだけ持ちこたえてください!! コイツら、腕っこきですよ!?」


 射撃場の敷地内に飛び込んできたミーティアはそのままビームサブマシンガンの連射を虎Dのセンチュリオン・ハーゲンに浴びせながら距離を詰めていった。

 左腕のシールドに内蔵されていたビームソード発生器より生じた摂氏数万度のプラズマの刃で一気にケリをつけるつもりか。


 虎Dもハーゲンの装甲を頼みに回避などせず敵弾をその身に受けながら、三脚に据え付けた大型ガトリング砲を敵に向けて射撃を浴びせる。


 だがミーティアの巧な足捌きと細やかなスラスター操作によって、敵は左右にスライドするようにして大口径砲弾の連射を躱しながらその速度が落ちるという事はない。


 しかも、どうせ低威力のものだろうと高を括っていたビームサブマシンガンがバカスカと自機の増加装甲やらガトリング砲の防盾を吹き飛ばしていくのを見て、ついに虎Dは自身のパートナーであるクロムネに助けを求める。


 だが、そのクロムネもまさに今、2機のミーティアと空中戦を繰り広げている最中。

 彼の駆るプリーヴィドはランク6ながらも高機動タイプ、おまけにそれを駆るのがユーザー補助AIの中で最高峰の戦闘能力を誇るマサムネタイプなのだから、本来ならば格上の敵が相手でも2機くらいどうとでもなるハズ。


 だが敵のミーティアはランク10の高機動タイプ。

 しかもパイロットの技量も尋常ならざるものである。


 強い。

 それ以上に戦い難い相手であった。

 個々の技量もさる事ながら、それ以上に連携が巧みなのだ。


「こ、コイツら、まさか……!?」


 まずはどちらか片方でも落とせればと遮二無二、突っ込んで戦槌ウォーハンマーを振るうも、もう1機のミーティアもそれに合わせるようにしてプリーヴィドの手首を蹴って不発に終わる。


 だが、その際に2機のミーティアの右肩部装甲に描かれていたエンブレムを見てクロムネは2機の、いや虎Dが戦っているのも合わせて3機のミーティアを駆る者たちの正体に気付いて思わず声を漏らした。


 白いミーティアに「交差する赤い薔薇と白い百合」のエンブレム。

 これまで気付かなかった方がどうかしているといってもいいだろう。

 クロムネは己の体たらくに舌打ちする。


「うん? これ、センチュリオンなのか? まさか運営の専用機? なんで運営が……、まあ、関係ない!」


 頼みのクロムネの援軍も得られず、ついに虎Dはミーティアのビームソードの間合いまで距離を詰められてしまっていた。


 その増加装甲も今はその半分以上が撃ち砕かれ、ベース機のフォルムが丸出しとなったハーゲンを見てミーティアのパイロットが怪訝そうな声を上げるも、そのまま構わずにビームソードを発生させたシールドを振り上げる。


「ま、まず……」


 さすがに虎Dもガトリング砲を放棄してスラスターを吹かし後退しようとするも、全ては遅きに失していた。


 背や脚から巻き上がるスラスターの噴炎はただいたずらに土煙を巻き上げるばかりで、機体自体はホンの僅かしか動いていない。


 そもそもがセンチュリオン・ハーゲンというHuMoはマトモに戦える機体ではないのだ。


 本来のパイロットはビデオゲームというものにこれまで一切触れてこないで生きてきたような人物で、ソリティアだとかマインスイーパーくらいしかやった事がないのだという。


 そのような者がHuMoに乗ってもマトモに乗りこなせるとは開発チームの誰しもが思ってはいなかったようで、センチュリオン・ハーゲンはとある施設の防衛のために増加装甲と大型ガトリング砲で機体自体を固定砲台とするように作られた機体なのだ。


 だがミーティアのビームソードはセンチュリオンに振り下ろされる事はなかった。


 右方向から飛び込んできたビームソードを払うために目標を瞬時に変える事ができたのはミーティアのパイロットの技量の現れであっただろう。

 武器を捨てたセンチュリオンを無視し、新たな敵に正対する事を選んだのは場数を踏んできたが故の判断の速さか。


 そこにいたのは左腕の肘から先が無くなった建御名方。

 つい先ほどまで大地に転がっていた機体であった。


「虎さん、下がってろッ!!」


 建御名方に乗り込んだヨーコの声が響き渡る。

 残る右腕のライフルの連射がミーティアに迫るが、火矢のように迫る砲弾をミーティアのパイロットは最小限の動作で躱してみせた。


「姑息な手を! 本命はこっちでしょ!?」


 跳びあがったミーティアの足のすぐ下を砲弾は駆け抜けていき、さらに空中で機体をふり回して後方から迫ってきていた建御名方の左腕にビームソードを合わせて弾き飛ばす。


 建御名方の両の腕部は神話に倣って肘から先が無線コントロール式の攻撃端末となるのだ。


 腕部に装備されたスラスターだけでは大質量の火器を持ったまま飛行する事はできず、拳銃程度のものか、あるいは標準装備として腕部に取り付けられているビームソードで体当たり紛いの格闘戦ができるくらい。


 だが奇襲効果は抜群の半ば初見殺し的な機能ではある。


 だが、そもそも戦闘中に自機の操作と独立して腕部の操作を行うのは非常に困難で、これを使いこなせるパイロットはそうはいない。


 ヨーコが初めて扱う建御名方で拙いながらも本体と腕部の連携攻撃ができたのは彼女の優れた才覚の故だろう。


 そして、それを見逃すミーティアのパイロットではなかった。


「3機目か……。うん、出し惜しみは無しといきましょう! 『天馬座』『射手座』! アンタたちも出なさい!!」


 オープンチャンネルで女性の声が聞こえてきたかと思うと、上空を目まぐるしく飛び回るクロムネ機の脚部が不意に上空の雲の中から飛んできた火線によって撃ち抜かれ、バランスを崩したプリーヴィドは高度を下げていく。


「ふふ……。さすがねぇ! それじゃ私たちも行きましょうか? さあ、小〇宙コ〇モを燃やすわよ!?」

「……伏字で喋るって、どういう声帯してんです?」


 新たに通信チャンネルに入ってきたのは、およそ戦場には似つかわしくない中年の女性の声と男の子らしき子供の声であった。

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