21 1対2、そして……

 幸い、プリーヴィドのクロムネは墜落さながらの急降下の中でも、なんとかバランスを整えて射撃場からさほど遠くないガレージの屋根の上へと着地する事ができていた。


 だが、2機のミーティアは溺れた犬は叩けとばかりにクロムネに襲いかかる。


「クロ君ッ!? 今、行くから少しだけ持ちこたえてくれ!!」

「だ、大丈夫ですよ!! “黒子”が面倒かけるわけにはいかないでしょう!? それよりも……!」


 カマボコ型のガレージの屋根の上。

 クロムネは右手にピッケル状のウォーハンマー、左手にライフルを持ち、降下してくるミーティアに牽制射撃を行なっているが、敵機は空中でヒラリヒラリと軌道を変えながら迫り、効果は芳しくない。


 クロムネの機体は右脚の大腿部から下が欠損した状態。

 残る左脚と機体各所のスラスターでなんとか立っている事はできるものの、やはり旋回性能の低下は否めず、おまけに片足が欠損した状態ではライフルの連射も集弾性がダダ下がり。

 これでは高機動タイプの敵機に命中弾を期待する事はできないだろう。


 ヨーコもすぐさまクロムネの元へと駆けつけたいのだが、目の前のミーティアも並々ならぬ敵であり、さらに上空からもう1機のミーティアがライフルの連射を浴びせながら降下してきていたのだ。


「チィっ! この機体じゃそう弾を貰ってやるわけには……!!」


 上空からの火線と水平方向近距離からの火線。

 2機の敵はどちらも回避行動を優先しながらの射撃であるのでなんとか被弾はさけられていた。


 だがヨーコは焦れる。


 建御名方の機体傾向は“バランス型+トリッキー型”。

 バランスの取れた機体性能を持ちながら両の腕部を無線コントロール攻撃端末とする事でトリッキーな戦術を可能とするというもの。


 当然、純然たる高機動タイプのミーティアとは機動性、運動能力ともに水をあけられている状況、しかも2対1と数の上でも劣勢。


 ヨーコとしてはなんとか前に出て、敵を後退させ、虎Dに放棄した大型ガトリング砲を再び装備させて援護をもらいながら2機のミーティアを仕留めて、クロムネの援護に向かいたいところ。


「おい! 虎さんよ! なんか良い手はないか!?」

「も、もうしばらく耐えれば、中立都市防衛隊UNEIのホワイトナイトが来てくれるんじゃないかと思うっス!!」

「他力本願かよ!? クソが!!」


 虎Dがあてにしている中立都市防衛隊のホワイトナイトであるが、実のところヨーコはまるであてにしていない。

 射撃訓練場のある傭兵団地は市内とはいえ、中立都市の外縁部。市内からおっとり刀で白騎士が駆けつけてくるまで持ちこたえさせてくれる敵ではないだろうという実感があった。


 さらに一向に有効打を得られず焦るヨーコを警報音がさらに追いつめる。


「雲の中のスナイパーか!?」


 それは地上のミーティアのビーム・サブマシンガンのエネルギーパックが投棄された次の瞬間であった。

 弾切れとみて前に出ようとしたヨーコはコックピット中に響きわたる警報に反射的にフットペダルを踏んで後退。


 その直後、たった今までヨーコの建御名方がいた場所に火球が降り注いだとおもうと地面にクレーターができて、飛ばされてきた土の礫が装甲を叩いたのだった。


 さらにもう1発。

 雷のように降り注いだ火球は今度は大地に三脚で据え付けられていたセンチュリオンの大型ガトリング砲を粉砕。


 天から降る狙撃手の大口径砲弾はヨーコとミーティアの間を別ち、その隙に敵は弾倉交換を終えていた。


「……野郎、クロムネ君を落としてから大人しくしてると思ったら、支援のためのタイミングを見計らっていやがったってわけだ。いいねぇ~、余裕のある奴らは……」


 ヨーコは汗ばむ手で操縦桿を握りなおす。

 後席からアグが心配げに「ヨーコさん……」と声をかけてくるが、再び地上と空中のミーティアからクロスファイアが開始され、回避に専念するためにおざなりに返事を返す事しかできない。


 独立して飛ばしていた左腕も機体本体に戻して、腕部のスラスターも使わねば回避が間に合わないくらいなのだ。


 そして、ライフルの弾が切れたのは今度はヨーコの建御名方の方であった。

 だが、弾倉交換の余裕が無い。


 機体の足捌きにスラスター、それに左右の腕部を大きく振って慣性を付けなればとても回避しきれる状況ではないのだ。

 腰部やら大腿部に取り付けている予備弾倉に手をやるという事は即ち、機体の重心位置に腕部を近づけるという事であり、それは僅かな時間とはいえ運動性の低下に繋がってしまう。


 そして敵が弾切れになった時は上空のスナイパーがヨーコの接近を阻止していたが、ヨーコを守る狙撃手はいない。

 だが……。


「……この時を待っておったァッ!!!!」


 シールド内蔵のビームソードでケリを付けようと、地上のミーティアが建御名方に迫る。


 だが、その時、ビームソードを突き出しながら1発の砲弾のように加速するミーティアを横から鋼の巨人が蹴り飛ばした。


 その巨人はトヨトミ製らしい小型機ながらも、厚いフレームを持ち、見る者にずんぐりむっくりとした印象を与える。

 そんな機体でよくも今のような鋭い蹴りをと誰しもが思うだろうが、パイロットの老人から言わせてみれば、それがパイロットの腕の見せ所なのだという。


「総理さん!! 無事だったのか!?」

「ふん、奴らHuMo同士の戦闘で土煙が舞ったタイミングで距離を詰めて一気にケリをつけてこようとしおったからの。白兵戦ならこっちの望む所じゃ!!」

「ふふ、私もいますよ!!」

「マサムネ君も!」


 いつの間にか生身での戦いを制していた総理とマサムネは竜波に乗り込んで機会を窺っていたのだ。


 だが、何故、機会を窺う必要があったのか?


 いきなり横から蹴り飛ばされ、右腕を潰されたミーティアのパイロットにはそれを考える余裕など残されていなかった。


「ら、ランク6の竜波くらい一撃で……!!」

「駄目よ! 日の丸印の竜波は手強いのよ!?」


 空中のミーティアのパイロットが制止するも、逆上した地上のミーティアは聞く耳を持たない。


 先の跳び蹴りで右腕は潰され、ライフルは使えない。

 だが関係無いとばかりにシールド内蔵のビームソードを振りかぶって竜波に迫っていく。

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