3 おかしなミッションとおかしな参加者
件名:助けてくだしあ(難易度qあwせdrftgyふじこlp)
依頼主:せかいいちのいいおんな!
内容:ようへいさん、へるぷ!
良いよ~( ´∀` )って人は参加申請のあとで添付の地図に指定したぽいんとまで来てね!
添付:地図データ
タグ:超高難易度ミッション
「……なんだコレ?」
マーカスが見つけてきたミッションを見て私がまず思った事は「子供のイタズラだろうか?」という事だった。
いや、そんな事などありえないという事は少し考えてみれば分かる。
このゲームでプレイヤーが受領するミッションは各個人傭兵に対して傭兵組合が斡旋しているという形になっている。
当然、傭兵組合が関知していないミッション依頼文など存在するハズも無し、そこに子供の悪戯が紛れ込むなどありえない話だろう。
「どうだい、どうだい? 随分と面白そうなミッションじゃないか! これならサブちゃんも満足できるんじゃないかい?」
「いや……、わけ分かんねぇよ……。なんで傭兵組合がこんなミッションを受けたんだか」
ニンマリと笑みを浮かべるマーカスだが、私は気が気ではない。
一応、私はゲーム内の設定的に傭兵組合から斡旋されて各個人傭兵へと派遣されてきたコーディネーターという立場なのだ。
もちろん他の一般NPCとは違い、私のようなユーザー補助AIは自分やこの世界が虚構の存在だと理解してはいるのだが、それでも自身が所属している傭兵組合という組織の信頼性が損なわれるような依頼文を見て平静でいられるわけがない。
「なるほど、サブちゃんが気になるのはそこか……。なら、たとえばこう仮定してみたらどうかな? 何者かが傭兵組合の募集掲示板に自らの依頼を勝手に潜りこませたとか」
「あん? それって……」
「ハッキングってところかな。そうでも思わないと不自然すぎるだろう」
確かに傭兵組合のNPCが目を通していたのならこんな依頼文は通さないだろう。それは間違いない。ならばこの依頼文に組合は目を通していないという事になる。
現実の世界ならば組合の職員がチェックミスで通してしまったというのも考えられるだろうが、このゲームにおいてはミッションはメインコンテンツみたいなものだ。
機械的に、ただ淡々と、それでいて完璧に、その上で多重のチェック体制を整えてそれを過信せずに己の職務を忠実にこなすというのが傭兵組合のNPCの性格パターンであるハズ。
つまりは真っ当な手段でこの依頼文が募集掲示板に掲載されるのがありえないのならば、真っ当な手段でない方法で乗せられたという事になる。
さらにマーカスは続ける。
「まあ、あくまでそれは仮定の話だけど、まあ遠からずってトコじゃないの? にも関わらずにこの依頼文の幼稚性はなんだい? まるで子供。ハッキングだとするならそんな技術を持ちながらも自らの幼稚性は隠す事ができない子供だ。だいたい、何だい? この難易度ふじこって……」
目を細めてパソコンのディスプレーを見つめるマーカスの視線の先にはまるで依頼を出した本人がいるかのよう。
文字と記号の羅列を見て、それを打ち込んだ本人の性格を見透かしてしまうかのような眼光の鋭さである。
「それじゃあさ、このタグに付いてる『超高難易度』ってのはどう見る?」
「さあてね……。超高難易度ミッションを受けるような一流の傭兵をからかうつもりのイタズラかもしれないし、ホントになんらかの仕事を頼みたいとしても本当に超高難易度だなんて言葉に見合った仕事なのかは分からない。ほら、子供にとっては大変な事でも大人にとっては大した事じゃないだなんてよくある事だろう? 何も子供と大人に限った話じゃあないけれど」
本来ならばミッションの難易度の指定は依頼者ではなく傭兵組合で設定するものである。
だが、この依頼文が組合を通していないものならばこの超高難易度というのも依頼者が勝手に付けたものなのだろう。
「でも、ほれ、添付の地図データを見てみると中立都市からだいぶ離れた何もないような所が指定されているだろう? これがただのイタズラなら騙されてやってきたマヌケをどこかで眺めて楽しみたくなるようなものなんじゃない?」
マーカスが開いた地図データを見てみると確かに指定されていたのは何もない荒野。
以前に受けたトクシカ氏の護衛任務の舞台であった難民キャンプから200kmほど北方、数十kmほど近くには険しい峡谷がある他は本当に何もないただの原野であった。
「もちろん、それでもイタズラの線は捨てきれないけどね。なんらかの手段でやってきた奴を眺めてられるような環境を整えているのかもしれないし、案外、今ごろになってこんなトコに来られても楽しめないって気付いて後悔しているのかもね」
マーカスが言う高いハッキング能力と隠し切れない幼稚性を併せ持つ人物ならばありえない事ではないのかもしれない。
「まっ、その辺は実際に確かめてみれば分かるだろうさ。実際にだまされてみたら傭兵組合にクレームも入れ易いだろうし、そうなったらアクセスログから依頼人を特定できるかもしれないだろ?」
そう言うとマーカスはオフィスチェアーから立ち上がる。
内線を使って常駐の整備業者に出撃準備を頼んでから私に向かってウインクを飛ばして見せた。
「おいおい、こんな依頼を受ける気か? 酔狂もほどほどにしておけよ……」
「そらぁ、このミッションはおかしいし依頼文から依頼人まで全てが不可思議だ。正直、まともに報酬を得られるかは分からない。でも心の中に沸き起こった不思議を解き明かすのも冒険だろう?」
つい先ほどまでの寝起きだというのに疲れが抜けきっていない様子のくたびれた中年男はどこへやら。
目にはギラギラと生気が宿り、口角は愉悦を抑えきれないかのように歪んでいた。
「ハイ、ハイっ! サブリナ探検隊、サブリナ探検隊!!」
「中年オヤジが、調子に乗ると~、腹立つ~♪」
「おっ、待てぃ、それは体操の方だぞ!?」
分かってはいた事だが、指定されたポイントに到着して輸送機を降りてもそこは何も無いただの原っぱだった。
赤茶けた大地と、ゴツゴツとした大きな岩、そしてところどころに群生した背の低い植物。
敵もいなければ、依頼人もいない。
試しに機体の胸部装甲とコックピットブロックのハッチを展開して肉眼で確認してみるも結果は何も変わらなかった。
「おいおい、ど~すんだ、これ……」
「サブちゃん、航空機が1機接近中、ハッチを閉じて警戒してくれ」
「おう、依頼人か?」
「いや、ご同好の士ってところじゃない?」
陽炎に乗るマーカスから通信で航空機が接近中との報告を受けて私は急いでハッチを閉めながらレーダー画面を見るとそこには傭兵組合の所属である輸送機がゆっくりと降下してくるところであった。
垂直離着陸タイプの輸送機は無骨なランディングギアを出しながら降下して着陸。
格納庫ハッチが開かれると中から大型のホバートレーラーが出てくる。
「なんでまたトレーラーなんかで?」
「似たような事してるお前が言うな! とはいえ、珍しいっちゃ珍しいな。よっぽど燃費の悪い機種にでも乗ってるんじゃないか?」
今回も陽炎の背部格納スペースにはホワイトナイト・ノーブルが搭載されている。おまけに強化ポイントを使って格納スペースは上方向に容量を拡大して陽炎は背中が張り出す形となっていた。
そのため後頭部のセンサー類を張り出した背中が塞いでしまう形になってしまっているため、後頭部も延長して元より異形のHuMoである陽炎はさらに人型からかけ離れた見た目となっている。
これは前回は容量不足で持ってくる事ができなかったノーブル用のライフル2種も搭載できるようにとの改良だ。
そんなわけで陽炎も見ようによってはノーブルの運搬用の機体とも言えるわけで、そんな機体を駆るマーカスにトレーラーがどうとか向こうも言われたくはないだろう。
そしてトレーラーの傭兵も依頼人の姿が見えない事にすぐに気付いたのか、ドアを開けて周囲を探し始めた。
「おいおい、何だよ? あの2人……」
「仮面の女に、マントを目深に被った……、ありゃ男か、それとも女か……?」
トレーラーの助手席から現れたのはマント姿の人物。
フードを目深に被って顔は窺い知れず、背の低い男とも女とも判別できない。
そして運転席から現れたのは白い仮面の女であった。
硬質の仮面のために顔は口元しか見えないが、仮面と同じく白のパンツルックのスーツ姿からでもハッキリと分かる出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んだ体のラインからこちらは女性だと分かる。
女性がトレーラーを運転するものと考えればトレーラーの荷台に搭載されているであろうHuMoを操縦するジャッカルはマント姿の方か?
いや、箱型のトレーラーは大型の武装を考慮しなければ2段ベッド式に2機のHuMoを搭載できるほどのサイズ感の物である。となれば2人とも傭兵というパターンもあるか?
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