2 2人のスキル構成
背筋を伸ばしてパソコンに向かい始めたマーカスを見て私もタブレット端末を取り出してマーカスのパソコンの画面とミラーリングさせる。
だが、そこに映し出されていたのはミッション一覧ではなかった。
「うん? おい、ミッション受けるんじゃなかったのかよ」
「まあ、待ちなよ。ミッションに出る前にパイロットスキルでも整えていこうや」
「そういう事なら……」
マーカスが見ていたのはパイロットスキルの育成画面であった。
確かに難民キャンプやらVR療養所での戦闘で私もマーカスも随分とスキルポイントが貯まっている。
「ええと、私もスキル強化しておいたほうがいいのかな?」
「そうだね。その辺は任せるよ。サブちゃんには定められた戦闘の傾向が
あるんだろ? その辺を伸ばせるよな感じで」
「あいよ。でもパイドパイパーと陽炎とどっちに合わせればいいんだ?」
「いや、今持っている機種に合わせるとかよりも、もっと上を見据えて汎用性のあるスキルから取っておいた方が良いんじゃない?」
「それもそうだな!」
取得可能なスキル一覧を見ながら選択していくとなんだか嬉しくなってくる。
なんというか極々普通のプレイヤーの担当補助AIはもっと早くにやっていたような事をやっとやる事ができたからだろうか。
「ええと、やっぱ機動性を補強できるスキルに……、動き回りながらでも攻撃できるようなスキルが良いよな……」
私というAIに設定されている戦闘パターンは「機動力重視。防御、補助は苦手」というもの。
そもそも初期状態では虎代さんが相棒にしているマサムネのように高い総合能力を持っているというわけではなく、あくまでそこそこの能力しか持ち合わせていない。
それをパイロットスキルで補強していかなければならないのだが、マーカスのように伸ばすスキルを任せてもらえるというのは正直ありがたい。
たとえば砲戦タイプの機体ばかり乗っているプレイヤーがいたとして、その補助AIに砲戦機に敵を近づけない前衛の役割が求められるとしよう。
その場合、その補助AIに定められた思考パターンに基づいてある程度は担当ユーザーの意向を組んだスキル構成をするようになっている。
それがそのAIの性格パターンからまったくもってかけ離れた戦闘スタイルだとしてもだ。
まあ、私の場合はマーカスが任せてくれるというのだし、そもそもマーカスの場合はアイツ1人でいいんじゃないか? という気もするので気楽なものだ。
「うん、と……。こんなもんかな?」
サブリナ(残りスキルPt 0)
・照準補正Lv3(消費済スキルPt 7)
↳射撃兵装使用時の照準補正の精度を強化する
・スラスター制御Lv4(消費済スキルPt 15)
↳スラスター推力を上昇させる(推進剤消費量も上昇)
・操縦ノウハウLv3(消費済スキルPt 7)
↳機体の運動性を強化する
・反動制御Lv2(消費済スキルPt 3)
↳射撃兵装使用時、また白兵戦兵装使用時、格闘戦、接触時の反動を軽減する
・旋回マスタリーLv1
↳機体の旋回性能を上昇させる
私のスキルビルドは「スラスター制御」「操縦ノウハウ」「旋回マスタリー」で機動力を向上、動き回りながらの射撃でも命中弾を期待できるように「照準補正」と「反動制御」を追加という形。
また「操縦ノウハウ」と「旋回マスタリ」、「照準補正」と「反動制御」はそれぞれシナジーがある。
この構成ならばマーカスがいう汎用性のある形になっているし、大型機の陽炎や特殊兵装コンテナを背負っているが故に運動性にいささか難のあるパイドパイパーにもハマっていると思う。
「こっちはできたぞ~、そっちはどうだぁ?」
「うん。こっちもサブちゃん好みの構成にできたと思うよ!」
既に自分のスキル強化を終わらせていたのか、タブレットから顔を上げると私の横顔を見ていたマーカスと目が合った。
そこで私はマーカスと他のプレイヤーとの格差が広がらないように威圧スキルを取らせた時の事を思い出し、してやられたと思って慌ててタブレットのウィンドウを切り替えてマーカスのパイロットスキル画面を確認する。
マーカス(残りスキルPt 14)
・照準補正Lv2(消費済スキルPt 3)
↳射撃兵装使用時の照準補正の精度を強化する
・スラスター制御Lv2(消費済スキルPt 3)
↳スラスター推力を上昇させる(推進剤消費量も上昇)
・威圧Lv1(消費済スキルPt 100)
↳スキル効果範囲内の戦闘員に指定したBGMを聞かせる
・人たらし(消費済スキルPt 100)
↳NPCの好感度が上昇し易くなる
・わんわんパラダイス(消費済スキルPt 100)
↳犬に好かれ易くなる
・ねこまっしぐら(消費済スキルPt 100)
↳猫に好かれ易くなる
「……マーカスさんや、何を考えてこんなビルドにしたんで?」
「サブちゃん、犬とか猫とか好きかなって……。あと『人たらし』のスキルなんだけど、スキル名には『人』ってなってるけど説明文には『NPC』って書いてるから実は動物にも有効なんじゃないかなって……」
「あ、一応はスキルの相乗効果とか考えてたんだ……」
さて、私はなんと言うべきなのだろうか?
とりあえず私が危惧していたブッ壊れ機体を有するマーカスがパイロットスキルでさらに強化されて誰も手を付けられなくなるような事態は回避されたわけなのだけれど何故だろう。私がガックリと肩を落としているのは恐れていた事態が避けられたからだけではないと思う。
「うん……。NPCにはアシモフタイプみたいな人型ロボットとかもいるわけだし、『人たらし』スキルが人間以外にも適用されるんじゃないかってのは良い読みだと思うよ……」
「お、やっぱそう思う?」
私の言葉を聞いてニタリと笑う担当様を後目に私の肩はさらに落ちていく。
私がマーカスに威圧スキルを取らせたり強くなる事を防いでいるのは本来ならばユーザー補助AIとして越権行為ギリギリの行動である。
勿論、それには必要以上にマーカスが強くなり過ぎる事で彼がすぐにこのゲームに飽きてしまうのではないかという思いがあっての事だ。
私でなくともありとあらゆるユーザー補助AIは担当プレイヤーに末永くこのゲームを楽しんでほしいという思いを持っているハズ。
だからこそ私は担当プレイヤーを強くしないという方向性に舵を切ったのだ。
なのにコイツは私がキリキリと胃にダメージを与えながら選択した配慮など最初から必要なかったのだ。
「とりあえず言っとくけど、お前が犬猫に好かれ易くなってもそれはお前だけで私が近づいたら逃げてくんじゃないか?」
「あれ……?」
「ついでに言うと中立都市で野良犬、野良猫がいるのはスラム街ぐらいのもんだろうけど、私はそんなトコ行きたくないよ? 大体、あんなトコにあるのは場末の呑み屋くらいなもんだろうし」
今度はマーカスの方ががっくりと肩を落とす番であった。
「ま、気を取り直して今度こそミッション選ぼうぜ!!」
「ああ、サブちゃんがスキル選んでる間に良いのを見つけたんだよ」
私はマーカスに対して意趣返しができた事で、マーカスは自分が見つけた良いミッションとやらを披露する機会が巡ってきた事でそれぞれ笑顔を浮かべていた。
(あとがき)
対プレイヤー用ではなくNPCを暗殺する用途に状態異常「狂犬病」を付与した犬をけしかけるという戦法はどうだろうか?
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