49 最強を殺す刃
鈍い振動とともに壁面ディスプレーに光が溢れていく。
輸送機のハッチが解放されたのだ。
私は赤いランプが緑になるのを確認してから機体の拘束を解除してニムロッドをガレージへと進ませる。
いつもどおりに整備員に誘導されて駐機位置に移動してからコックピットハッチを開放。高所作業車の接近を待って機体を降りて整備員に愛機を預ける。
試合中に撃破されていたチームメンバーの機体は私よりも先にガレージに運び込まれていて既に整備を開始されていた。
「お疲れさん!」
プレハブ式のブリーフィングルームの前には中山さん、ヒロミチさん、それに補助AIの面々が待ち構えて私の健闘を讃えてくれる。
「1対4の状況の不利な状況からひっくり返してしまうとは、さすがでごぜぇますわ!」
「……ええ、ありがとう。サンタモニカさんがだいぶ良いトコまで削ってくれておいたおかげで随分とやりやすかったわ」
いつものお淑やかな表情から一転。満面の笑みを受かべている中山さんの言葉にも私はどこか上の空。
「サンタモニカさん、君のここぞという時の操縦技能は目を見張るものがあるね。アレは一体、どうやったんだ? あの後ろに回ってから無理矢理に敵に後ろを向かせてってヤツ!」
「え、いや、まあ、普通に……。ドーンとやってドカンと……」
「はあ……?」
中山さんほどではないにしてもヒロミチさんも満足気な笑みを浮かべてレインメーカーのやり方を聞いてくる。
戦闘後の倦怠感もあってか、長々と口で説明するのも面倒で私は後ろに回ってから彼の右腋を通すように右腕を差し入れて左手首を掴む。
「え、ちょっと……」
「ふんス!!!!」
右腕を思い切り引いてヒロミチさんに無理矢理後ろを向かせると私は彼の胸板にラリアートを見舞っていた。
さすがに背丈のある成人男性の首を狙う事ができなかった故に胸板へと叩き込んだのだが、足首に腰に肩としっかりと捻りを入れたトルクの太いラリアートを受けてヒロミチさんは叩きつけられるような勢いで倒れていく。
クシャ……。
「あっ……」
僅かに湿り気と帯びながらも小気味良い音を立てて硬いガレージのコンクリート敷きの床へとヒロミチさんは後頭部から叩きつけられ、その瞬間、彼の身体は掻き消えて少し離れた整備中の烈風の足元へと移動していた。
「……何か言いたい事はあるかい?」
「ハハハ……、サーセン!!」
忘れてた。
一般的な成人男性は私のレインメーカーに対して受け身が取れないんだった……。
結果、ヒロミチさんは即死してリスポーンする羽目になってしまったわけだ。
「俺としちゃこの技をどうやってHuMoで使ったのかを聞きたかったんだけど、まあいいさ。それよりも大事なのはライオネスさんのこの技をHuMoで使えばコックピット内のパイロットを直接的にGで殺す事ができるって事さ」
ヒロミチさんは自分の頭蓋骨がキチンとした形で存在する事を確認するかのように後頭部を撫でながら歩いてくる。
「つまりはホワイトナイト・ノーブルにだって通用するハズ。いかにノーブルが10万近いHPを持っていようとパイロットを殺してしまえば関係無い。ゲーム内最高値の装甲だってそうさ。数十トンのHuMoが繰り出す跳び蹴りが直撃した際に生じる衝撃をいなすような機構なんてHuMoには存在しないんだ。だってそうだろ? HuMoの複合装甲とか空間装甲ってのは砲弾とかミサイルを想定して作られている物なんだから」
ヒロミチさんが浮かべる笑みの正体は試合に勝利した事に対するものではなかった。
やはり彼も私と同じくその先、ホワイトナイト・ノーブルとそのプレイヤーとの再戦を見据えているのだ。
ヒロミチさんは私の戦闘能力、特に接近戦での能力を高く買ってくれている様子。
「ええ。でもさすがにノーブル相手に距離を詰めるのもそう簡単な事じゃないわよ。 手伝ってくれるんですよね?」
「そのつもりだ。幸い、俺の性分はチームで勝てれば良いって考えだからね。トドメ役の内の1人として考えとくよ」
「私も仲間外れは嫌でごぜぇますわよ? そんな面白そうなの他に中々なさそうですし」
「もちろん。トミー君とジーナちゃんにもキッチリ働いてもらうわ」
ノーブルとの再戦を思い描いて気焔を吐く2人に中山さんも加わってくる。
どうやら彼女も双月で空の上にプカプカ浮いてトミー君やジーナちゃんに戦わせていた頃から一転、自分で戦う事の面白さに気付いていたようだ。
私としてはヒロミチさんやクリスさんのようにノーブルとそのプレイヤーに対して別に因縁のあるわけでもない彼女が手を貸してくれるか気がかりであったのだけど、杞憂であったわけだ。
うん……?
「あれ? そういえばクリスさんは?」
「あ、そういえば、一緒の輸送機に乗ってきたのでは?」
「いえ、彼女のカリーニンは撃破されてたから別の輸送機だったみたいだけど……」
携行対HuMoランチャーでアシストをしてくれたクリスさんも帰ってきているハズだったがその姿は見えない。
その事に気付いた私たちが皆で思い思いに彼女を探してみると、巨大なガレージの遠くにやっと彼女の姿を見つける事ができた。
「オロロロロロ……!」
100歳近い老婆のように腰を屈めて排水溝のグリストラップに向けて口からモザイクを吐き出し続けているクリスさん。
「あ~……、あれはあれだな、うん。HuMo用の輸送機ってHuMoの衝撃を吸収するシートに座っていてもけっこう揺れるだろ? そんな輸送機の貨物室に生身で乗ってたらああもなるだろうな……」
結局、吐き気がそれなりに落ち着いてからクリスさんと私は疲労を回復するためにメディカルポッドに入ってから第4試合に向かう事になった。
(あとがき)
以上で第3章は終了となります。
引き続き本作をよろしくお願いいたします。
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