48 大船団とともに
「はぁ……、はぁ……、はぁ……!」
私はコックピットの中でいつの間にか背を丸くしていた。
息が切れて苦しく、全身にかいた汗が気持ち悪い。
汗はツナギを濡らして急速に私の身体を冷やしていく。
コックピットの中は生命維持装置のエアコンによって適性な温度に保たれているハズなのだが全周壁面ディスプレーから見える外の吹雪が吹き荒ぶ雪景色は心情的にどうにも寒々しい。
それにいつもの虚脱感だ。
全力一心不乱に目の前の強敵と戦った後の全身の力が抜けていくかのような。
それにしてもアレは一体、何なのだろうか?
私は今も上空を飛んでいく空中船団を見上げた。
上空の船団は形式も類別もまるでバラバラの一段で、速度までバラバラ。
ただ揃って南から北へと真っ直ぐに向かっている。
中には火砲やミサイルなどで武装している船まであるのに互いに攻撃していないということは味方同士、あるいは敵対していない関係なのだろうというくらいしか分からない。
大体、イベント用に用意されたステージの上空を飛行していくなどどういうつもりなのだろうか?
多分、プレイヤーではなくNPCだろうかと当たりをつけてはみたが、なんでそんな事をするのか。
「これも『世界がそうある事を望んだ』というヤツなのかしらね……?」
私はふと以前に聞いた言葉を思い出していた。
試合にはちょっかいを出してこなかったとはいえ、イベント用ステージの上空をあんな大船団が飛行していくなど運営が狙ってやったこととは思えない。
そのせいで対戦相手の最後の1機はあからさまに気が散っていた様子。
多分だけど、敵プレイヤーは一流プレイヤーだったが故に周囲の状況の全てに対応しようとして自身のキャパを超えてしまったのではないか?
私ならばそんな事はしない。
目の前に倒すべき敵がいるのによそ見をするだなんてありえない。
先ほどの戦いを振り返っているとなんだかむかっ腹が立ってきた。
私を相手にしているというのに他の事に気を取られる敵ニムロッドもそうだし、トップランカーとの戦闘という千載一遇の機会をしょっぱい結末にしてくれた上空の船団に対してもだ。
「迎えが来るまであと30秒か……」
苛立ちのせいでなんだか落ち着かない私はサブディスプレーに表示されている迎えの輸送機の到着までのカウントダウンを読み上げる。
クリスさんも吹雪を避けるためにカリーニンの残骸に戻っているようだ。
それにしても何故か本当に落ち着かない。
なんだか試合が自分の思い通りにいかなかったからというよりは、何かよく分からない第六感が働いているかのような……。
いつもなら気晴らしにマモル君に話しかけたりもするのだろうが、生憎と後席は空席。
あと30秒で迎えが来るというのに私は忙しなくコックピット内に視線を動かしていた。
だがその時、レーダーセンサーが新たな反応を捉える。
「え……、速い!? それにコイツは……!!」
ニムロッドに後ろを向かせると、もう夜といってもよいような薄暗い空に青白い光条が伸びていた。
吹雪の中でもハッキリと分かるスラスターの噴炎。
レーダーに映る反応は明らかにHuMoのものだが空をこうも高速で飛ぶHuMoなどそうはいるハズもない。
グングンと近づいてくる青い光条は急降下して私がまだ事態を飲み込めないというのにその姿を現した。
「なんで……、なんでお前が……!?」
宵闇の中でもハッキリと分かる白いHuMo。
周囲の雪よりも白く輝くHuMo。
ホワイトナイト・ノーブル。
ホワイトナイト・ノーブルだ。
ホワイトナイト・ノーブルが私の前に姿を現したのだ。
なんで?
どうして?
まったくもって分からない。
ノーブルはハードポイントに取り付けた2丁のライフルを手に持たせるでもなく、ただ私に向かって軽く挙手の敬礼をしてから再び飛び立っていく。
「相手にもされなかったという事なの……?」
勝利!!
勝利報酬 600,000(プレミアムアカウント割増済み)
修理・補給 506,500
合計 93,500
バトルアリーナ勝利数 3
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます