37 最初に脱落したのは……?
連続する地響き。
オライオン・キャノンと
共に駆け出した両機はまもなく激突の瞬間を迎えるだろう。
私の研ぎ澄まされた闘争心は私自身の鋼の肉体以上に意識を前のめりにさせていく。
コックピットブロックの中で壁面メインディスプレーを見ているハズが、まるで自分自身がオライオン・キャノンと対峙しているかのような限界まで研ぎ澄まされた集中力。
「そんな細身の機体でぶつかったらどうなるか考える頭も無いのッ!?」
オライオンキャノンのパイロットの少女が勝ち誇るかのように叫ぶ。
自身の勝利を確信した者特有の視野狭窄。
だが、私はこの少女が好ましく思えてしょうがなかった。
ランク差0.5とはいえ格上の私に対して1対1で勝利を確信できるとはなんともいじらしいくらいに可愛らしい子だろう。
そもそもが上空のF-15が戦力外である以上は4対3という状況なのだ。
それを彼女たちは拙いながらも戦術を組み立てて見事に立ち向かってきていた。
初手のF-15からの偵察情報を元に砲撃を仕掛けてアドバンテージを取るというのもそうだし、砲戦機で格闘戦を挑むというのもそうだ。
今回のステージのような援護射撃が難しいようなステージでも砲戦機を戦力として使うにはキャノンタイプであろうと背中に背負った取り回しの悪い砲以外の取柄が無ければならない。
彼女はそれを原型機よりも重くなった機体重量に見出したというわけだ。
なるほど。
ニムロッドと対をなし機動性よりも装甲に性能を割り振ったオライオンに大口径砲と砲撃の衝撃に耐えるためのカウンターウェイトを装着されたオライオン・キャノンと正面衝突すればニムロッドの方が当たり負けするのは道理。
ただ単に殴りつけられただけで痛撃を食らってしまうだろう。
それがスラスターと脚力で速度を付けた状態であるならなおさらだ。
初手は反撃を食らわないような間接射撃でアドを取り、中盤から終盤は特殊焼夷弾でダメージゾーンを作って1対1になれる状況を作って機体重量を活かした格闘戦で敵の数を減らす。
そこには確かなロジックがあった。
正直、随分と穴があるような気がしないでもないが、事実、キャタ君たちのチームは彼女のロジックに沿った展開を作ってきていた。
間違いなくこのチームの要はオライオン・キャノンとこの少女だ。
きっと試しにキャタ君や紫電改の少年を他の者と入れ替えても、上手くいくかは別として同じ戦術を取る事はできるだろう。
だが彼女は知らない。
私は体格に勝る相手と戦うのが得意なのである。
なにしろJKプロレスの選手というのは大概にして私よりもガタイが良いのだ。
駆けるオライオンのナイフが振るわれる。
走り続けたまま。
斬りつけるというよりは殴りつけるような勢いで。
斬撃を躱されても、そのまま機体ごとぶつかってこようという猪のようなまっすぐな強い意志を感じる。
だが私は飛び上がっていた。
ライフルもビームソードもその場に捨てて。
飛び上がるのと敵のナイフを握る手首を掴むのとどちらが先であっただろう。
「何ッ!? 飛び蹴り!?」
「違うわ……」
手首を取って飛び上がった私が飛び蹴りを狙っているものと思っても無理はない。
何しろ私の左足はオライオンの頭部を蹴り飛ばすのと良く似た軌道を取っていたのだから。
でもそんなものでは終わらせない。
終わらせるわけがない。
私の左足は背負い砲の砲身を蹴とばしながらも頭部の前を素通りして敵の胸の前へと押し付けられ、そして下からは右脚が同じように絡みつくように左足へと添えられる。
「これは……ッ!?」
「飛び付き
オライオン・キャノンといえどもニムロッドの機体重量に耐えられるわけがない。
それでも機体オートバランサーが懸命に倒れまいとしながらも虚しくゆっくりと私に組み付かれたオライオンは倒れていく。
だが倒れる前に私は敵機の手首を掴んで思い切り体をのけぞらせていた。
巨砲というべきライフルの重量と射撃の反動に耐えられるように作られているHuMoの関節機構といえども
オライオン・キャノンの右腕は肘の部分でポッキリと折れて、そのまま引っ張ると機械油を撒き散らしながら破断して折れた金属片やらコードやチューブ類とともに引き千切られてもげてしまう。
「ちょっ!? 今のどうやったって言うのよッ!?」
大地に倒れたオライオン・キャノン。
パイロットの少女は悪態を付きながらも何とか機体を立ち上がらせようとするものの、瞬時にニムロッドの機体重量がかかってしまったためにどこかの機構がイカれてしまったようで足をバタバタと藻掻かせるもののその背が大地から離れる事はない。
私は引き千切った手から零れ落ちたナイフを拾い上げて敵にトドメを刺そうと近寄ると、そこで背後からの危険を告げる直感が脳裏をかすめる。
「後ろ!? いや、上かッ!!」
私は振り返ると同時にCIWSを作動させていた。
25mm機関砲の火線が昇っていく上空へ視線を向けると、そこには私目掛けて真っ直ぐに落下してくる流線形の物体が幾つもあった。
「ミサイル!? いや、爆弾かッ!! スマート誘導爆弾……!」
私のさきほどの危険を知らせる直感、その正体は私の後方警戒センサーがレーザー誘導照準を受けた事を知らせる警報であった。
CIWSの火線によって次々と空中で撃ち落とされていくスマート爆弾。
空中で黒と赤の大輪の花を咲かせていく爆弾たちのさらに上空に急降下してくるF-15の姿。
「F-15!? なんでF-15が爆弾を!?」
確か、私の記憶が定かならばF-15戦闘機というのは完全なる制空戦闘機であるハズ。
少なくとも数年前に完全に退役した自衛隊のF-15には対地攻撃能力を持ったものは存在しなかったハズ。
だが、そんな事は今はどうでもいい。
私目掛けて急降下を仕掛けてくるF-15のパイロットはCIWSの火線が怖くはないのか?
よく口の悪い人たちの間で「背の高い人型巨大ロボットは戦場では役に立たない」と言われている。
その回答としてこのゲームではHuMoに歩兵並みの地形適応能力と戦車以上の火力と装甲、そして艦船並みとも言える多数のセンサー類とCIWSからなる対空迎撃能力が与えられているのだ。
まさかF-15のパイロットは私のCIWSの火線を潜り抜けてくる実力があるというのだろうか?
「来るなら来い……」
私は散弾を装填してある拳銃を抜いてのっぴきならぬ殺気を放つ敵の出方を待つ。
まるで自身が1発のミサイルか爆弾、砲弾かと思っているかのような鬼気迫る突撃。
たとえF-15がランク0扱いの雑魚敵だとしても捨て置くわけにはいかない。
だが敵機はまだ散弾の有効射程に入るそのずっと手前で急に大爆発を起こして先ほどの爆弾とは比べ物にならないほどの大きな花を咲かせた。
「あれ……?」
「えっ……?」
「んん……?」
「あン……?」
「はぁ……?」
「おぅ……?」
「りょ……?」
まだこちらは何もしていないというのに勝手に爆散したF-15。
地上で戦っていた私たちは敵も味方も関係無く動きを止めてあまりに予想外の出来事に固まってしまう。
「りょ……、リョオオオオオスケェエエエエエっ!?」
ええと、リョースケというのはF-15のパイロットの事なのだろうか?
喉も張り裂けんばかりに叫ぶキャタ君の悲痛な声に敵でありたった今まで戦っていたヒロミチさんが穏やかな口調で声をかける。
「……えと、ちょっと良いかな? 君たち公式サイトのステージの説明って見たかい?」
「グスっ……、何の事さぁ?」
「うん、今回のイベントで廃都市ステージは1辺が3km四方のエリアになってるんだけどさ、この手のエリア制限ってさ、見えない硬い壁みたいなのがあるんだよね」
続けてヒロミチさんが説明してくれた事を要約すると、イベント中の戦闘エリアは見えない壁と地面を合わせて蓋の無い箱のような形状になっているのだという。
「多分だけど……」と前置きしながらヒロミチさんが言うには今回の“見えない壁”の高さは3,000mか5,000m。
F-15は降下の途中でその壁に激突して爆散してしまったのだろうとの事。
「ハハッ……、他のゲームタイトルとかだとエリア外に出ちゃうと負けになっちゃうのとかあるけどさ、てっきり君たちはこの辺のシステムを理解して上手く利用してやろうとしてたと思ってたんだけど」
「あ……」
「そういやゾフィーさんがリョースケに『高度を下げるな』って言ってた気がするさ~」
「てっきりマトモな操縦技術の無いリョースケが撃ち落とされないようにって話だと思ってたわ……」
F-15の謎の爆散の正体はただの自爆だった……?
って、なんじゃそら?
あまりに拍子抜けする真相に私の中で渦巻いていた闘争の炎は急激に萎んでいき、戦いの熱が冷めると同時に私は見慣れたコックピットの中へと戻ってきていた。
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