36 乱戦
《ニムロッド・カスタムⅢ:ライオネス HP 10.247》
《烈風:ヒロミチ HP 5,055》
《カリーニン:クリス HP 4,561》
《紫電改:サンタモニカ HP 6,428》
現状は4対3と数の上ではこちらが有利。
だが私たちのチームは随分と
しかもキャタ君たちのチームはバズーカ&パイルバンカーのズヴィラボーイに、Wサブマシンガンの紫電改と2門の大砲を担いだオライオン・キャノンの火力重視の武装構成。
ランク0扱いのF-15がダメージソースとしての戦力にならないがため数の不利を大火力で押し切ろうという発想なのだろう。
「同機種対戦かぁ! 負けないぜぇッ!!」
「それはこちらも同じでごぜぇますわッ!!」
勝気な性格が窺える少年の声と共に敵チームの紫電改がサンタモニカ機へと両手のサブマシンガンの連射を浴びせる。
中山さんは次々と自機の装甲を穿つ弾幕を厭わずに特製ブレードを担いだまま突進、長剣のようなブレードを振り下ろす。
「うおっと、でもまだ……!!」
少年の紫電改もバックステップで斬撃を躱そうとするものの、紫電改同士の同機種同士ならば後退よりも前進の方が素早いのが道理。
振り下ろされるブレードを躱しきれずに左腕を切り落とされる。
そのまま中山さんは振り下ろしたばかりのブレードを返す刀で振り上げて敵の胴を狙うが、彼女のブレードは双月のプロペラを改造したもので正式な武装ではないのが災いしてか敵装甲に食い込んだまでは良いものの、そこで中ほどからポッキリと折れてしまう。
とはいえ片腕を切り落とした事で敵紫電改のダメージソースを半減させることには成功したわけだ。
《紫電改:サンタモニカ HP 6,428→2,985》
だが、その代償として中山さんの紫電改もまたHPが残り3,000を割ってしまう。
「後ろは貰ったよ、少年!」
「コイツはわ~に任せるさ~!」
敵味方それぞれの紫電改に残された武装はそれぞれ同型のサブマシンガンが1丁のみ。
少年も中山さんも機体を左右に振って回避運動を取りながら残された銃を撃ちまくるがその敵紫電改の背後に回ったヒロミチさんの烈風が手にしたガンポッドを向けるがそこでキャタ君のズヴィラボーイがカバーに入る。
「おいッ!! キャタッ!?」
「なんくるないさぁ~! 正面向けてればアイツの銃はズヴィちゃんを抜けないさ~!」
烈風のガンポッドは次々とまるで吸い寄せられるようにズヴィラボーイへと命中していくが、いずれもそのブ厚く良く傾斜した装甲で阻まれては周囲に飛び散って大地や廃墟を砕いていく。
そしてキャタ君の反撃のバズーカが放たれる。
さすがにヒロミチさんの烈風もスラスターの機能が低下したとはいえ、低速のロケット砲弾を回避することくらいはできるようで、大地に踵をめり込ませるようにして急制動をかけると赤い炎を尾を引くロケット弾は廃墟へと命中して周囲へと大小の瓦礫を撒き散らしていた。
だが私の視線に入ったのはそんな事よりも、ズヴィラボーイの右腕に装着されたパイルバンカーの杭がゆっくりと巻き上げられていくその様である。
「気を付けて! またパイルバンカーを使うつもりよッ!!」
「おっと、それなら近寄れないな!」
先ほどのブレーキングで速度を殺してしまっていたヒロミチさんは距離を取るようにズヴィラボーイから離れていく。
私も手近な敵を片付けようと右手のライフル、左手のビームソードで戦いを挑む。
2度、3度と操縦桿も折れんばかりに押し込んでビームソードで斬りつけるも敵の厚い装甲に阻まれて有効打は与えられないでいる。
すでにオライオン・キャノンの手持ち武装であるショットガンは潰してある。
ここでとっとと目の前の敵を撃破できれば状況は一気に優位に立てるハズと遮二無二突っ込んでいくが、敵もスラスターを使いながら後退しつつ牽制のCIWSの機関砲弾をバラ撒き、そしてバックパックと一体化して肩に担いだ2門の砲がこちらを向いた。
「この距離でそんな大砲が役に立つもんかッ!!」
「なら自分で試してみなさいッ!!」
私が思い切りフットペダルを踏むこむとニムロッドは姿勢を低く落としながら、まるで地面スレスレを這うようになって敵との距離を詰める。
それとほぼ同じタイミングで敵機が担いだ2門の砲が火を吹いて、ニムロッドがつい先ほどまでいた地点に大きな火柱を立てた。
さらにもう一度、砲声が轟くが命中どころか引火した燃料がかかるという事もない。
起死回生の一撃が連続で不発……?
いや、そうではなかった。
「うわっ、く、クソ! 悪い、ライオネス火柱が邪魔で援護に行けねぇッ!!」
オライオン・キャノンの少女が狙っていたのは私ではなかった。
少女は格上の機体を駆る私を相手に1対1の状況を作るためだけに特殊焼夷榴弾を使ったのだ。
地面に着弾した4発の焼夷弾は20メートルほどの高さの火柱を上げて燃え盛り、一種のダメージゾーンとなって私の援護のために駆けつけようとしていたクリス機の前進を阻んでいた。
「大丈夫! 私よりもサンタモニカさんの援護を!!」
「いいえ。せっかく向こうも同機種対戦で盛り上がっているのです。この紫電改対決は助太刀無用でごぜぇますわ!」
「……分かった」
オライオン・キャノンの少女は焼夷榴弾をイチかバチかで私へ直撃させることを狙わずにクリスさんの前進を阻んで私と1対1の状況を作るために使った。
もちろん彼女は1対1で戦って勝つつもりなのだろう。
そして中山さんは紫電改同士という状況でわざわざ1対1の状況を望んでいる。
それももちろん自分が戦って勝つつもりだからだ。彼女の声は時間稼ぎでその間に他の敵を倒してきて欲しいといった消極的なものではなく、あくまでも自分自身の勝利を信じている力強さに溢れたものであった。
ならば私だって負けてはいられない。
後退していたオライオン・キャノンはナックルガード付きの幅広のナイフを抜くと立ち止まりニムロッドと正対する。
私もニムロッドの足を止めさせ、小脇に抱えたライフルを敵に向けつつも下段に構えたビームソードとどちらも使えるようにしていた。
敵の武器はナイフの他に肩に担いだ2門の砲。
そして何よりその質量だ。
2門の大口径砲の反動に耐えるためかオライオン・キャノンは装甲が盛られて随分とマッシブなスタイルとなっている。
細身のニムロッドがオライオン・キャノンと正面からぶつかれば当たり負けするのはこちらであろう。
さあ、オライオン・キャノンのパイロットの少女はその声の細さとは裏腹に随分と気の強そうな子みたいだが、どう出てくる?
私の闘争心は熱を増していき、冷たいほどに研ぎ澄まされていった。
そして、オライオン・キャノンが駆け出した時。
ナイフを持った右手を後ろ手にして、左手を盾にするかのように胸の前へと構えたのを見た時。
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