30 増援
敵襲は続く。
もうしばらくログを見ている余裕もない。
ツナギ服は汗でびっちょりと濡れて、それが空調の冷気に冷やされて氷のように冷たいというのに、砲弾飛び交う戦場の緊張と興奮のせいか体の中の熱は抜けていくこともなく留まって不快この上ない。
幸いだったのは行動を共にしているローディーとテックのベテランNPC2人組が技量面に精神面においても熟練の域に達していた事。
弾切れになったら敵の武器を拾えばいいとばかりにバカスカと撃ちまくるローディーの戦闘スタイルは以前のランク1の機体しか出てこないミッションにおいてはあまりに過剰に思えたものだが、今回に限ってはこれ以上ないほど頼もしい。
なにせアサルトライフル2丁持ちでの連射は敵の鼻っ柱を抑えて隠れている遮蔽物から出てこれなくさせるのだ。
そしてローディーはわざと一ヵ所だけ射線を向けない箇所を作り、そこから飛び出してきた敵を叩くのはテックさんと私たちの仕事だ。
テックさんのニムロッドの武装はフルオートショットガンにビームソードという接近戦に特化した仕様。
私のニムロッドが単騎でもそれなりに戦えるようにとバランスを考えた武装構成なのに対して随分と割り切った構成だが、もしかしたらテックさんは協力プレー前提の構成にしているのかもしれない。
そう思ってしまうほどにローディーとテックさんの連携はぴたりとハマっている。
「ライオネス! 弾切れが近い、代わってくれ!!」
「了解!」
私もローディーに倣って倒した敵のライフルを拾って見様見真似の制圧射撃でテックさんを援護。
その間にローディーは今まで使っていた武器を放り捨てて新たな武器を拾う。
「キャタ、1機任せて良いか!?」
「なんくるないさ~!!」
新たに廃ビルの陰から飛び出してきた3機に向かっていくテックさんにキャタピラー君は続き、深紅のニムロッドのビームソードとアマガエルのように鮮やかな緑色のズヴィラボーイの
それにしてもテックさんのニムロッドが使うビームソードは私のビームソードに比べて随分と切れ味が良いようだ。
私のビームソードは敵に対して斬りつけると致命的なダメージを与えるまでに時間がかかり、反撃を受ける可能性が高いために「突き」を主体とした戦い方をしなければならないものである。
それに対してテックさんの物は生成されるビームの刃が随分と細いもののあっという間に触れた物を溶断していき、まさに私がイメージしていたとおりのビームの剣といった具合。
これに関してマモル君に聞いてみると、どうやらビームの収束率がどうたらこうたらという話だ。
ようするに私の大型ビームソードは技術レベルが低いので上手くビームを収束して刃を形成する事ができずにランスのような太さになっているのに対して、テックさんのビームソードは私の物よりも格上の物らしく技術的な問題が解消されてまるでレイピアのような細さの剣身を形成できているらしい。
当然、高い収束率のテックさんが使っている物の方が遥かに高い熱量を持ち、それが切れ味としての性能に出ているそうだ。
そしてキャタピラー君の機体の右前腕部に取り付けられている杭打ち機も現実世界の工事現場に似たような物があるのではないかというほど無骨な物であるというのに高い威力を持っているようだ。
ただビームソードほど広い間合いは持っていないし、敵に対して打ち付けるような使い方しかできない。何より使用後に再使用するためには20秒ほど時間をかけて射出位置までモーターで巻き上げなければいけないので連発はできない。
それでも私のビームソードよりも圧倒的短時間で敵機のコックピットを打ち貫いてクリティカル判定を出すその威力は目を見張るものがある。
「どうやら他の傭兵連中もそれぞれ近場のヤツと連携取って消耗を抑えてるみてぇだな!!」
「ハンッ! 逸る新人抑える事もできないじゃベテランだなんてイキれないだろうからね!!」
「そういうこった! ジャギュア部隊を潰して調子に乗った敵の親玉が出てきてもこんだけ残ってりゃ袋にできるだろ!?」
「そう願いたいね!!」
おまけにローディーとテックさんはわざとらしく軽口を叩き合って長期戦で精神を消耗していた私たち新人の事も励まそうとしてくれていた。
確かにローディーが言うようにマップ上に映る青点の味方機は3機から4機ずつに固まって連携を取っているようであり、初動で撃破されたモスキート以外に被害は出ていないようだ。
私はいつの間にか難民キャンプから出撃していくジャギュア隊を見送った時に感じた漠然とした不安も忘れ、この調子ならクリアも目前なのではないかというふうに事態を楽観視していた。
だが、そんな時だった。
マップ上に表示されていた味方機を示す青点が唐突に消えたのは……。
「チィッ! 言ってるそばからやられやがった!!」
「落ち着け、撃破されたのは新人……、いや、クルーの反応も消えた……!?」
「馬鹿な!? アイツは腕っこきだぞ!?」
クルーさんというのはどうやらローディーたちと同様のベテラン傭兵役のNPCのようだが、彼だけではなく、マップ画面に4つ纏まっていた青点は次々と消えていった。
「管制! 聞こえるか!?」
「ええ、聞こえています。それよりも敵に増援があったようです」
「分かってる! クルーたちからの情報は!?」
「……ありません」
通信に出たあの傭兵組合の女性職員さんの声は硬いを通り越して強張っている。
それにしても随分と端的な物言いだなぁと私は女性職員の言葉に不自然さを感じていた。
「ありません!? おい、そりゃあどういうことだ!? 敵の機種だとか機数だとか、何かしらあるだろう!?」
「機数は1機だけ……。それ以外には本当に分からないのです。撃破された傭兵たちとの最後の通信で分かったのは敵が単騎ということだけ。それ以外には何も……、機種の特定すら不可能です」
ああ、あの女性職員さんは戦闘中だからとか、そういう性格だからとか、そういうわけで端的な物言いをしていたのではなくて、本当にそれしか言う事ができなかったのだろう。
ローディーもそれを察したのか、不承不承ながらも自分を納得させたようだ。
「……了解、これよりクルーたちの反応が消失した地点に向かう。他の連中にもタイミングを合わさせて欲しい」
「いえ、貴方がたには別方面の増援への対処をお願いします」
姿の見えない敵とは別にマップ画面に新たな反応が現れる。
クルーさんたちの反応が消えたのが難民キャンプ東端付近であるのに対して、新たな敵影は私たちがいる西端へと高速で迫ってきていた。
そちらに機体の頭部カメラを向けさせると、とてもHuMoが立てているものとは思えないほどの巨大な土煙が徐々にこちらへ向かってきているのだ。
「……なに、あれ?」
この難民キャンプの周辺は赤土が剥き出しの大地ではなくしっかりと根を張った草原地帯である。
だというのにまるで砂嵐が迫ってきているかのような土煙が立つとは、一体、どれほどの重量物だというのだろうか?
「なるほど、これで敵の手品のカラクリがはっきりしたな……」
「ええ……」
軽口を絶やす事が無かったローディーが低く沈み込んだ声を出す。
それに応えるテックさんもそれは同様。
ベテラン2人をしてのっぴきならない事態になっているという事だけは察する事ができた。
「カラクリって何の事?」
「例のセンサー類の探知範囲外から狙撃されたジャギュアのだよ。つまり……」
「クルーたちをやったステルス機が情報を送っていたんだ」
確かに電波を用いる通信では解読されるかどうかはともかくとして「近場で通信を行った者がいる」という情報は分かるだろう。だがレーザー通信を使えば、直進するレーザーの都合上、傍受されにくい。
そしてセンサー類に反応しないステルス機がジャギュアの位置情報を送っていたとしたならば、ジャギュアのセンサー範囲外からの長距離狙撃のカラクリとしては十分にありそうな事である。
「そして、あれだけの高さの土煙を上げるようなモンは1つしかありえないわね……」
「重駆逐HuMoだ。馬鹿でけぇ図体にアホみてぇなジェネレーターを積んだヤツなら距離減衰があったとしても長距離ビームでジャギュアをやれるだろうさ!!」
その言葉で私は察した。
妨害電波の発信装置を破壊するために出撃したジャギュア隊が向かったのは、例の土煙が上がっている方角と同じである。
つまりは「重駆逐HuMo」とやらが4機のジャギュアを撃破した犯人なのだ。
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