29 ジャギュア隊全滅

「さあて、これからどうしようかしら……?」


 とりあえずトミー君と合流する事はできた。


 だが交戦している味方は2機いると思ったら、実際は非武装の作業用キロをキャタピラーなるハンドルネームのプレイヤーが守っているという形であったのだ。

 そして、この周辺に敵機は8機。

 トミー君の雷電陸戦型は歩行能力を喪失しているし、HPの残量は3分の1ほど。


 実質的に2対8。

 しかも以前にサブリナちゃんと一緒にミッションを受けた時とは違い、敵はランク1の物ばかりではなく、私のニムロッドやキャタピラーのズヴィラボーイと同格のランク3の機体までいるのだ。


 そうこうしている内にも敵機は少しずつこちらに向けて前進してきており、いつまでもこの廃ビルに身を隠している事ができないのは明らか。

 なにより私たちが身を隠して敵の射線を切っている廃ビルには避難途中で身動きが取れなくなった難民たちも多数、身を隠していて敵に距離を詰められてここで戦う事になるのはマズい。


「しょうがない。……ジーナちゃん、聞こえる?」

「ハイです!」

「今から送る座標に支援砲撃をお願い!」


 私はライフルだけをビルの陰から出させて照準器のカメラに敵機の姿を収める。


 ライフルの照準器からニムロッドへ、ニムロッドからレーザー通信で基地管制塔まで、そして基地管制から大型エレベーターに身を隠しているジーナちゃんの雷電重装型へと情報が伝わり、すぐに多数のミサイルが三次に渡って断続的に発射された。


「良し! キャタ君、敵がミサイルに気を取られたら突っ込むわよッ!!」

「あいさ~!!」

「よ~し! 皆は俺の機体の下に隠れろ!! ほら、お前もだよ!!」


 私の作戦を察したのかトミー君の雷電がその場で腹ばいになり、それに倣って作業用キロも同じ姿勢を取ると避難民たちは彼らの機体の下へと移る。


 そして私たちの頭上を多数のミサイルが通り過ぎていき、それに対応するために敵機の対空射撃が始まった。


 絶え間ない機関砲の発射音に、気の抜けるような対空炸裂弾が空中で破裂して周囲へ弾片を撒き散らし、そして迎撃されたミサイルの燃え盛る破片が周囲へ舞い降りていく。

 だがトミー君と作業用キロが身を挺していてくれるおかげで避難民たちに被害は無い。


「行くわよッ!!」

「りょ~か~~~い!!」


 まだ弾の残っている弾倉を交換し、隣のキャタピラー君に合図すると見てくれはいかにも鈍重そうなズヴィラボーイは兎が地表スレスレを跳ねるようにビルの陰から飛び出して敵へと突っ込んでいく。

 私も彼の後を追うが、増加スラスターの効果もあってか彼の機体は私のニムロッドとほぼ同じ程度の機動力を有しているようだ。


 上空から舞い降りてくるミサイルの対処に追われていた敵機たちも私たちに気付くがやはり対応にはワンテンポ遅れる。


 ズヴィラボーイのバズーカの直撃を受けて爆散し、運良くHPが残った機体も私のバトルライフルで撃ち抜かれていく。


「でぃやぁっさあああああ~~~!!!!」


 ズヴィラボーイは弾切れとなったバズーカを勢いよく敵機に投げつけて、さらに被弾しながらも敵と距離を詰めて殴りかかる。


 爆発音。


 ズヴィラボーイの右前腕部に取り付けられた杭打ち機が炸薬によって作動し、敵の胸部装甲を打ち抜く音と一緒くたになって酷く歪な爆発音のように聞こえた。


「こっちも負けてらんないわね!!」


 私もライフルを片手持ちのフルオートで乱射しながら敵へと距離を詰めて、左手に持ったビームソードを敵のコックピットへ突き立てる。


 さらにズヴィラボーイが伸びきった杭打ち機を短剣のように振り回して最後に残った敵機へと襲い掛かり、その隙をついて私が背後からビームソードで斬りつけると敵機は沈黙。


「キルスティールとか言わないでね」

「むしろ助かったさ~!!」


 8機の敵を撃破して喜びを隠せずにその場で機体を躍らせるキャタピラー君であったが、難民キャンプに押し寄せている敵機はここだけではないのだ。


「うん? 4機のHuMoが接近中……?」

「いえ、マップだと青点で表示されてる、これは友軍機ね」


 やがて現れたのはいずれも同型の機体。

 ニムロッドより洗練された見た目のその機種はランク5のジャギュア、トクシカ氏が護衛に連れてきた私兵たちだ。


「ジャッカルか!? 君たちにこの難民キャンプの護衛を任せたい」


 ホバー走行中のジャギュアたちの1機から通信が入る。


「そのつもりですけど、貴方たちは?」

「妨害電波の発信源が分かった。我々はそちらを叩きにいく」

「……なるほど、了解です」


 HPが14,400もあるジャギュアはさすがに頼もしい。正体不明の強敵が未だに姿を現していない以上、喫緊の問題である長距離通信の回復に最大戦力をもって当たるのは正しい判断なのかもしれない。

 なにしろ難民キャンプでの戦闘は私たちがそうしていたように廃ビルを遮蔽物として使う事ができるのに対して、これからジャギュア隊が向かう先は身を隠す事ができないだだっ広い平原なのだ。


 私兵部隊も馬鹿ではないという事か、私たちの傍らで立ち止まる事もなく通過していったジャギュア隊の各機のバックパックには増加センサーポッドが取り付けられている。長距離狙撃で撃破された仲間と同じ轍は踏まないという事だろう。

 通信とレーダーは電波を用いるために妨害電波の影響は受けるが、赤外線や探知レーザー、光学カメラなどはジャミングの影響は受けないのだ。


 つまりこのミッションの山場はジャギュア隊が妨害電波の発振装置を破壊するまでこの基地を守り抜けばいいという所なのだろうか?

 いや、謎の強敵がどこかで出てくるハズ、そのタイミングはいつだ?


「……なるだけ消耗を抑えて、最後に出てくる敵ボスを皆で囲んで叩けって事かしら? マモル君はどう思う?」

「本来は『難易度☆☆☆』のミッションならそんなモンなんでしょうが、……今回は分かりかねますね」


 打って出る4機のジャギュアたちの背を見送りながらも私には何故か不安が拭いきれないでいた。






 それからバズーカを撃ち切ったキャタピラー君は撃破した敵機の武装から使えるライフルを拾って、私と2人でトミー君と作業用のキロを大型エレベーターまで送ってから戦闘に戻る。


 砲火を潜り抜けて、白煙の尾を引くミサイルの下を潜り抜け、敵に超高熱のビームの刃を突き立て、倒れた敵にライフル弾の連射を見舞う。


 返り血のように浴びた敵機の機械油に砕けたコンクリートの微粒子や土煙がへばりつき、溶けて飛び散った敵の装甲はニムロッドの塗装を焼いていく。


 ナイフで切りかかってくる敵機の腕をビームソードで切り捨て、反対に敵のコックピットへビームの剣を突き立てる。


 敵がビームソードで迫ればこちらも併せてビームの剣同士の鍔迫り合いで飛び散る火花にニムロッドの装甲は焼かれ、マニュアル操作のCIWSで敵の頭部ツインカメラを破壊して怯ませた所を切り捨てると同時にビーム発振器が灼けてしまったのか故障。


 複数の敵機に囲まれそうになればズヴィラボーイを背中合わせになって装甲の薄い背部を撃たれないようにしながらライフルと拳銃の2丁持ちで迎え撃つ。


「マモル君! パイロットスキル『接近戦マスタリー』を上げられるだけ上げてッ!!」

「わ、分かりました! 『接近戦マスタリー』をレベル5まで上げます!!」


 一定範囲内に敵機がいる場合に機体の運動性と反応速度をスキルレベル%分向上させるパイロットスキル「接近戦マスタリー」を取得したのは、次々と迫る敵機にニムロッドの性能では追いつけなくなってきているから。


「パイロットスキルを上げるのなら『操縦ノウハウ』と『照準補正』も取得したほうが……!!」

「分かったわ! すぐにお願い!!」


 射撃兵装の照準に補正をかける「照準補正」はレベル3に。

 これで射撃の反動の制御がしづらいバトルライフルの連射もいくらかはマシになる。

 単発射撃でなら難なく反動を制御できるのだが、今はもう単発でじっくり敵を狙っている暇はない。


 そして機体の運動性に補正をかける「操縦ノウハウ」もレベル3を取得。

 このスキルで得られる補正は他のパイロットスキルとも効果が重複するために先に取得した「接近戦マスタリー」とも相性が良い。


 これで溜め込んでいたスキルポイントはゼロになってしまうがそうでもしないとこの場を切り抜けられそうにないのだからしょうがない。


 それでも被弾は避けられず、ニムロッドのHPは半分ほどにまで減っていた。

 装甲に勝るキャタピラー君のズヴィラボーイもそれは同様。


「ま、また新手が来たさ~!?」

「チィっ! ジーナちゃん、支援砲撃をもらえる!?」

「すいません。ミサイルが弾切れで補給中です!!」


 出撃してからどれほどの時間が経っただろう?


 ライフルの弾倉はたった今装填したのが最後の物だ。


 だというのに敵機の姿は止まず、今も新たに3機の雷電系列の機体が飛行場方面から現れてくる。


 だが、どうしたものかと考える間もなく、敵機がこちらへ手にした銃を向けるや否や、脇から暴風雨のような砲火が飛んできて3機の敵機をあっという間にアメリカのカートゥーンアニメに出てくるチーズのように穴だらけにしてしまう。


 前のめりに倒れ、あるいはその場で爆散した敵機たちに代わって私たちの前に現れたのはエナメルのように艶っツヤの黒い烈風と深紅のニムロッド。


「テックさん! ローディー!」

「おう! 新人ちゃん、元気か~!!」

「へぇ……、新人の割にやるモンじゃない?」


 暢気な声を上げる烈風のローディーに、私たちの片割れに散らばる敵機の残骸を見て感心したような声色のテックさん。


 両者とも私たちほどではないがその機体各所に被弾の痕こそ見られるものの、未だ意気揚々。

 だが、それでも弾薬は残り乏しいようである。


 特に砲弾をバラ撒くスタイルのローディーは背部に背負っていたハズのガトリングガンは投棄したのか無くなっているし、手にしているライフルも以前に持っていた物とは違う物だ。恐らくはキャタピラー君のように倒した敵機の銃を奪ったのだろう。

 テックさんの方も手にしたフルオートショットガンの予備弾倉は残り少ない。


「よっしぁ! お前ら、俺らと一緒に行動しろ」

「まだまだ長くなりそうだし、敵の親玉も出てくるかもしれねぇからな!」

「しかも妨害電波の発信装置の破壊も失敗したんじゃ援軍も期待できねぇ! 連携取って損害を減らしていこうや!」

「……うん?」


 ……今、さらっととんでもない事が聞こえたような?


「え、ゴメン。今なんて?」

「だから妨害電波の発信元の破壊に失敗したから援軍の要請ができねぇって話だよ」

「アンタら、ログを見てないのかい? ジャギュア隊は全滅したよ!」


 ……ホントにこのミッションは「難易度☆☆☆」のものなのだろうか?

 いくら大型ミッションとやらが特別なものでも限度というものがあるだろうに。

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