28 砲火を突き抜けて

 私たちが地下駐機場へ飛び込んでいくと、地上の戦闘の熱波が伝わってきたかのような喧噪であった。


 小型の牽引車が行きかい作業員たちの怒声が響き渡る。


 すでに中山小隊はそれぞれの機体に乗り込んでいるようで私待ち。


「アンタがニムロッドのパイロッドか!?」

「はい!」


 愛機へと駆け寄る私をニムロッドの足元で待っていた作業員が現況を説明してくれた。


「アンタも知っているだろうが、妨害電波でレーダーは近距離でしか使い物にならん! 各機のセンサーの状況を基地施設を媒介に中継して共有する事で代替するが、探知範囲に穴はあるし敵さんの戦力を掴みきれん、気を付けろ!!」

「了解ッ!!」


 そのまま私とマモル君は高所作業車のバゲットに乗ってニムロッドのコックピットへと乗り込む。

 すでに整備員が機体を起動状態まで立ち上げてくれていたおかげでこのまますぐに出撃する事はできそうだ。


 いつものコックピットに戻ってきた事でやっと私は一息ついた心地となった。

 無論、すぐに出撃せねばならない事を忘れたわけではないのだけど、狭くて暗いHuMoのコックピットのシートベルトに身体を固定するとまるで鋼鉄の胎内に守られているかのようでどこか落ち着くのだ。


「ライオネスさん、ご無事でごぜぇましたか!?」

「ええ、でもすでに撃破されたプレイヤーもいるわ。それよりサンタモニカさんはここに残って頂戴」

「そんな!? 私もやれますわ!!」

「貴女は良くても、その機体じゃ持たないわ!」


 機体の傍らのパレットからライフルを取り、エレベーターへとニムロッドを進ませると双月の中山さんから通信が入る。


 長距離通信だけではなくレーダーも半ば潰された現状、上空から双月が索敵を行ってくれれば効率的に迎撃を行う事ができるのだろうが、それも双月が上空に上がる事ができればの話だ。


 サムソンやウライコフの機体に比べ小型のトヨトミ製の機体の中でも輪をかけて小型の双月はその非力な機体には似合わないほどの大型のプロペラエンジンを2基も装備しているために陸上での動きは鈍重。しかも装甲は皆無でHPは全HuMo中で最低。


 これではみすみす対空砲火やミサイルに落とされるだけだ。


「代わりにトミー君とジーナちゃんは借りるわよ!?」

「……すいません。お願いします」


 私のニムロッド、トミー君の雷電陸戦型、ジーナちゃんの雷電重装型は地上へと上がるための大型エレベーターの上に上がり、管制室へと通信を繋げる。


「私たちも出るわ、エレベーターを上げて!!」

「了解」

「ああ、そうだ。傷ついた機体が逃げ込んでこれるようにエレベーターを途中で止めてもらえるかしら?」

「ええ、それは大丈夫ですが……」


 地下駐機場の天井の高さは50メートル以上。

 しかもエレベーターは10機以上のHuMoがまとめて乗れるほどに大型の物。

 エレベーターを3分の2ほどの高さで止めてもらえれば味方機の収容を効率的に行える上に、エレベーター台の上の機体は敵から姿を隠したまま攻撃を行う事だってできるのだ。


「駐機場には双月に待機してもらうし、エレベーター上には雷電重装型に残ってもらうわ。ジーナちゃんもそれでいい?」

「了解です!」

「そういう事なら、ご武運を、ジャッカル!」


 管制室の操作によって3機のHuMoを乗せたエレベーターが上昇を始める。

 だが私は流暢にエレベーターが昇りきるまで待ったりはしない。

 スラスターを併用したジャンプで一気に地上へと飛び出してから周囲の状況を確認。


「今なら出れるわ! トミー君!!」

「いよっしゃあ~~~!!」


 私がトミー君の雷電に先行したのは外の状況をこの目で確認するため。

 耐久力で劣る彼の雷電の安全を確保するためだ。


 私に倣ってスラスタージャンプで飛び出してきた雷電をフォローするためにいつの間にか難民キャンプの目前に迫ってきていた敵機にライフルを撃ちながらニムロッドの身体を半壊したビルの陰へと隠す。


「トミー君! 長期戦になるかもしれない、無駄な被弾は避けて!!」

「任せとけっての!!」


 トミー君の雷電も手にしたサブマシンガンを連射し、途中で止まったエレベーターに残ったジーナちゃんの機体から援護のミサイルが飛来して3機の集中砲火を浴びた敵機はたちまち爆散。


 だが、敵機はすでに難民キャンプの至る所に侵入してきているようでそこかしこで戦闘が始まっている。


 爆発に砲声、あるいはミサイルやロケットの風切り音。

 今も私のニムロッドが身を隠したビルの外壁を敵の火線がかすめて外壁が崩れ落ちていく。


「ジャッカル、聞こえるか!? そこからビルを2つ越えた所で多数の敵機と傭兵が戦闘中だ。援護に向かってくれ!!」


 管制から入ってきた通信とともにサブディスプレーにサークルが表示される。

 確かに2機の友軍機が10機近い敵機が交戦中のようだ。


 だが私たちだってすでに敵の射線の内。身を隠しているビルから身を乗り出せばすぐに被弾してしまうだろう。


「トミー君、こっちの敵は距離が遠い。ここは私が受け持つから合図したら援護に向かって!!」

「あいよ!!」


 私はビルに身を隠したまま、ライフルだけを物陰から出すと銃に備え付けられた照準器のカメラですぐに敵機は見つける事ができた。


 数は2機、距離は3kmほど。

 これならトミー君の雷電が装備しているサブマシンガンでは荷が重いだろう。

 だが私のバトルライフルなら十分に命中弾が期待できる距離だ。


 1射目、敵のキロ系列の機体の頭部に命中。

 その御椀型の頭部に弾かれる事もなく頭部を撃ち抜いた。


 それまで棒立ちの状態でこちらへライフルを乱射していた敵も反撃があった事で回避行動を取り始めるが、射撃と回避のどっちつかずの状態で2射目も難なく命中して敵のライフルを破壊する。


「今よッ!!」

「いよっしゃ!! 今、俺が助けに行くぜぇッ!!!!」

「あ、馬鹿……」


 私の隠れていたのとは隣のビルに身を隠していたトミー君はスラスターを盛大に吹かした大ジャンプで味方機の救援に向かうが、彼は敵の砲火が怖くはないのだろうか?


 案の定、目標地点に指定されたサークルの上空から猛烈な火線が幾つも上がって、雷電陸戦型のサブマシンガンの連射と交差し、そのまま彼の機体は降下、あるいは墜落していく。

 ちらりとログ用のサブディスプレイーに目をやるとまだ撃破はされていないようだが、それも遅いか早いかの違いだろう。


 すぐにでも援護に向かいたい所ではあるが、こちらもまだ敵機を完全に撃破したわけではないのだ。


「ああ!! もう!!」


 私は右手にバトルライフル、左手に拳銃を持たせて身を隠していたビルから飛び出る。


 拳銃に装填している弾種はミサイル迎撃用に散弾。そして思ったとおりライフルを破壊された敵は私に対してミサイルを発射する。


 ミサイルが接近するまでの間に頭部を破壊した敵機をライフルの射撃を集中させて撃破。

 さらに十分に引き付けたミサイルを拳銃の散弾で迎撃し、私はミサイルの爆炎に姿を紛らわせてトミー君の救出へと向かった。


 そしてビルを2つ越えて曲がった先にいたのは難民キャンプ建設用のキロと足を撃ち抜かれて行動不能となったトミー君の雷電。

 そして、その2機を守るために機体を盾にして戦う1機のHuMoの姿であった。


 先ほどの敵機とはまた別のキロ系列、ウライコフ製の機体は重装甲タイプなのか敵の砲火の被弾に良く耐え、さらに割って入った私の射線も加わると擱座したトミー君の機体を作業用の機体が引きづってビルの陰へと隠す。


「さ、私たちも!!」

「た、助かったさぁ~!」


 私がハンドサインで促すとキロ系列の機体も別のビルの陰に身を隠して敵の射線を切り、すでに弾切れとなっていたバズーカの弾倉を交換する。


「あの雷電を助けてくれてありがとう。あの子、私のフレンドの担当AIの機体なの」

「なんくるないさぁ~! ズヴィちゃんの装甲はちょっとやそっとじゃ抜かれないさ~!」


 すぐそこを高速の砲弾が掠めて頭上をミサイルが行き交うような戦場において随分とのんびりとした声の持ち主であるが、その安穏とした声色とは違い、少年と思わしき彼の乗る機体は見るからに凶悪な武装の持ち主。


 左手には大型のバズーカ砲を、そして右の前腕部には巨大な杭打ち機が取り付けられている。

 さらに背部バックパックの左右にはミサイルポッドに脚部には鈍重な機動性を補うためか増加スラスターを装備していた。


「あの機体はズヴィラボーイ。バランス型なのはニムロッドと同じですが、ニムロッドがどちらかと言えば機動力よりの性能なのに対して、あっちは近距離戦向きの機体ですね」

「なんにせよ『ズヴィちゃん』なんて言えるほど可愛いモンじゃないでしょ……」


 そういえば私が最初の機体を探していた時の候補にズヴィラボーイの名もあったなと、その第二次大戦中の戦車の砲塔のような頭部を見て思い出していた。


わーはキャタピラー、プレイヤーさぁ!!」

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