6 し~うす!って書くと萌え4コマっぽくない?

 ニムロッドを走らせるものの思った以上に速度は上がらず、気持ちばかりが焦っていく。


 HuMoという兵器はスラスターを用いる事でホバー走行状態をとったり、あるいは脚力とスラスターを併用する事でただ走るよりも大幅に速度を上げる事ができるものなのだけれども、初めてのミッションという事でスラスターに使われる推進剤の消費がどれほどになるのか見当もつかず、安パイを取って推進剤を温存しているのだ。


 もっとも、推進剤の残量を示すメーターを見てもほとんど減っているようには見えず、輸送機から降下した際に落下速度を減速したというのにこうなのだから意外と燃費は良いのかもしれない。


 それでも私がスラスターを使わないのはマモル君の「スラスターは温存しよう」という助言があったから。

 私の担当AIである彼の素の性格についてはいくらか分かってきたような気がするものの、これが戦闘においては彼がどのようなポリシーを持っていて、どのような戦術眼を持っているのかはまだ分からないのだ。


 彼が戦闘においては臆病であったり、あるいはガチガチに硬い安全策を取るような子ならば、実は彼の心配は杞憂でスラスターを使ってとっとと爆走するトレーラーの元へと向かうべきなのかもしれない。

 だが、これがもしマモル君が戦闘ではけっこう過激な策を取る事を好むような子で、その彼が推進剤の温存策を言ってくるという事は本当にギリギリの戦いになるのかもしれないだろう。


 つまり私はHuMoの操縦法の他に担当AIとの付き合い方という点においても、このゲームに不慣れであったがために安全策を取らずにはいられなかったのだ。


「追手が見えてきたよ。……ええと、あれはヘリ?」


 重い装甲を着込んで、大砲と言っても良いような重量物であるアサルトライフルを持って走るニムロッドの速度は上がらず、人間の感覚でいうならば小走りのようなものだろう。


 それでも目指すトレーラーも猛スピードでこちらへと走ってくるだけあって、かの車両を追う者もしばらくするとニムロッドのレーダーの探知圏内へと入ってきた。


 対空レーダーに映し出された2機の戦闘ヘリはまだトレーラーをまだ攻撃こそしていないものの、ジリジリと距離を詰めていきじきにトレーラーを武装の射程距離に捉えるのも時間の問題といったところだろう。

 それどころかヘリに追われ、まっすぐに走行できないほどの速度で走り続けているトレーラーはいつ操縦を誤って横転してしまってもおかしくはないほどであり一刻の猶予もない。


「どうする? ダッシュで駆けつける?」

「判断はお姉さんに任せますが、敵はあのヘリだけではないのかもしれませんよ?」

「それもそうか……」


 マモル君の言葉は根拠こそ無いものの、他にも敵がいるかもしれないというのはありえない話ではない。

 武装犯罪者集団ハイエナだって中立都市が街道警備を傭兵ジャッカルに依頼しているのは百も承知だろう。

 だというのにハイエナたちがトレーラーを深追いしているというのは彼らにそれなりの戦力があるという事なのだろう。


 メタな話をすれば、ゲーム内時間で5分も輸送機に乗せられて、現場に到着してからもそれなりの時間を待たされ、それで現れた敵が戦闘ヘリ2機だけではいくらなんでも割に合わない。

 たとえこのミッションがもっとも難易度が低い「難易度☆」のミッションだったとしてもだ。


 さすがにいくらなんでも間に合わないかとスラスターをわずかに稼働させて機体を増速させるものの、やはりこのままではヘリがトレーラーを射程圏内に収めるのが先のように気がして不安になってくる。


「どうしたものかしらね?」

「無線通信でトレーラーにもっと速度を出せないか言ってみますか?」

「無理でしょ? 今ですらマトモにまっすぐ走れないくらいに速度を出しているってのに。……いや、通信ってのは良い手かもね!」


 マモル君の言葉にふとある考えが思い浮かんだ私はサブディスプレーを操作して、あらゆる通信チャンネルへと発信するように設定する。


「あ、あ~……! ポイントS157を走行中のトレーラー、こちらはサンセット通商部から街道の警戒任務を請け負っている傭兵です。只今、そちらに向けて急行中、じきにこちらの対空兵器の射程内に追手のヘリが入ります。だからもう少しだけ頑張って!」

「た、助かった! 頼む、急いでくれ!」


 私の呼びかけに対してトレーラーの運転手と思われる緊迫した、時折、声をひっくり返らせたような返答が返ってくるが、私が通信を聞かせたかったのはトレーラーの運転手に対してではない。


 私が通信を届けたかった相手。

 2機の戦闘ヘリは目に見えて速度を落とし、トレーラーとの距離が開いていった。


「へぇ、ブラフですか。上手くハマってくれたみたいですね」

「そうねぇ。こっちのミサイルの射程距離までまだしばらくあるっていうのに」


 私のニムロッドが装備している2基の3連装ミサイルポッドはプレミアムアカウント購入の特典として貰った物だけあって、どんな機体にでも装備できるようにかミサイルの搭載数も3基しかないし、そのミサイル自体も小型で軽量の物である。

 つまりはその分、威力も射程距離も控えめな物なのだ。


 だが、そんな事、向こうは分からないだろう。


 昔やってたファンタジー物のゲームだと最序盤の敵はスライムだとかウサギだとか、あるいはデカい蜂だとか知性を持たないような相手ばかりであったのだけれども、このゲームだと敵もNPCが乗り込んでいる兵器であるのでこういう手も使えるというわけだ。


 だが敵は速度を落としてはいるものの、進路を変えて逃走するという事はない。


「アイツら、仲間の合流を待っているという事かしら?」

「そうでしょうね」


 ヘリが先行していたという事は奴らの仲間はヘリほどの速度を出せないような兵器、つまりは陸戦兵器を駆っているのであろう。

 そしてミッション依頼文にはHuMoを使うような敵はいないともあった。

 つまりは……。


「見えた!」

「やはり車両だけみたいね……」


 やがて街道を走ってくるトレーラーとすれ違ってしばらく、ついに私の機体のセンサーが敵の主力を捉えた。


 数は9。

 速度こそ出せないようだが、不整地でも構わずに横一列になってこちらへと向かってくる。


 マップ上ではどれも「アーマード・ファイティング・ビークル」と表示されているが、ちらほらトラックに鉄板を張り付けたような急造品のような趣の物まで混じっていた。


 だが、いずれの車両もミサイルやら機関砲やらで武装している事には間違いない。


 そして私はニムロッドの火器管制装置がミサイルの発射可能状態である事を示したのと同時に迷う事なくトリガーを引いた。


「あっ、馬鹿ッ!! なんで初手でミサイル撃ち切っちゃうんですか!?」


 後ろでマモル君が驚いたような声を上げるけど、私としてはここまで推進剤の消費を抑えてきたのだから、戦闘になったら初手からデカいのカマして主導権を取ってやろうという考えだ。


「ほら! マモル君、そんなデカい声を出してると舌ぁ噛むよ!!」


 盛大に噴煙を上げてそれぞれの目標目掛けて飛んでいくミサイルたちに負けじと私もスラスターのスロットルを開けてニムロッドを加速させる。


≪AFVを撃破しました。TecPt:2を取得≫

≪AFVを撃破しました。TecPt:2を取得≫

≪AFVを撃破しました。TecPt:2を取得≫

≪AFVを撃破しました。TecPt:2を取得≫


 サブディスプレーに4行の撃破ログが流れる。

 控えめな威力の小型ミサイルであっても直撃すれば装甲車や装甲トラックくらいならば一撃で撃破できるようだ。


「6発のミサイルで4輌、2発は外した!? いえ……」


 直撃しなかったミサイルも至近弾の炸裂により1輌は横転、もう1輌はバランスを崩して左右に蛇行運転を始めて岩にタイヤを乗り上げさせて車体を跳ね上げさせながらもなんとか走行しているといった状態。


 ひとまず横転した装甲車は後回しにするとして、私はアサルトライフルのレティクルをなんとかバランスを取り直そうとする武装トラックに合わせてトリガーを引く。


 アサルトライフルの口径は75mm。

 長い砲身から飛び出していく砲弾の連射は3発目で直撃してトラックはいとも容易く爆発四散。


≪AFVを撃破しました。TecPt:2を取得≫


「そういや装甲車やらトラックやら倒したくらいじゃスキルポイントはもらえないのね」


 横隊でこちらに向かって進んできていた敵戦力をミサイルとアサルトライフルで撃破して残るは4輌。

 1輌はすでに横転。そして左手側に1輌、右手側に2輌。それにこちらを左右から回り込もうとしている戦闘ヘリが2機。


 敵もミサイルや機関砲を撃って反攻してくるが、敵のミサイルはあまり性能のよろしい物ではないようで速度も遅く、ニムロッドならば回避する事も容易い。


 タイヤを転がして地面の上を走る車両とは違い、HuMoは人間のようなステップで急な方向転換をかける事もできるし、スラスターを吹かして増速、あるいは減速をかける事だって容易いのだ。


 被弾! HP-85

 被弾! HP-122

 被弾! HP-83


 さすがにヘリや車両が撃ちまくる機関砲の弾を避けきる事はできなかったが、それでも拙い無駄の多い操縦でありながらも大概は回避する事ができていたし、食らったとしても大した事はない。


 さらに回避運動を取りながらもアサルトライフルを敵に向ける事は忘れず、先に横転していた1輌を片付けた後に右側を向いて並走する2輌に対して連射を浴びせる。


 被弾! HP-254


 2輌の装甲車をまとめて撃破した事で気が緩んだのか、残る1輌に背後から機関砲を撃たれてしまい200以上のHPを消費してしまうが、まだニムロッドのHPは8,000以上もある。


 回れ右をするように機体をターンさせた私はたった今のお返しとばかりに連射を浴びせてこれも難なく撃破。


≪AFVを撃破しました。TecPt:2を取得≫


 残るは戦闘ヘリが2機だけ。

 もはや戦闘の趨勢は決まったと言ってもいいだろう。

 私は自然と口角が緩むのを止める事ができなかった。

 ………………

 …………

 ……


「あっれぇ~!? ぜ、全然、弾が当たんない!?」


 もはや勝ったも同然と笑ったのも束の間、私は思いもしなかった苦戦を強いられていた。


 ヒラリヒラリとこちらの側面や背後に回ろうとする戦闘ヘリに対し、こちらのアサルトライフルはまるで命中弾を得られないのだ。


 人が払いのけようと振るう手を難なく躱すスズメバチのようにヘリは上下左右へ縦横無尽に空を駆け回り、私が運良くライフルのレティクルに敵を捉えたと思っても、ガッバガバのレティクルはその丸いレティクルのどこかに弾が飛んでいくという仕様上、見当外れの所へと弾が飛んで行ってせっかくのチャンスを活かせずにきていた。


 その間もちらほらと被弾して8,800もあったHPも今は7,000ほど。


 ついでに言うならライフルの残弾も心もとない。

 出撃時にライフルに取り付けていた弾倉はすでに撃ち切り、腰部サイドアーマーに装着していた予備弾倉へ交換していたものの、すでに残弾は11発。


 後はナイフがあるだけ。

 銃で撃っても当たらないのに、いくら巨大ロボットとはいえナイフでヘリと戦えというのはさすがに無理ゲーだろう。


「ま、マモル君?」

「……はい?」

「このゲーム、敵だけは弾数無限って事はないよね?」


 先ほどミサイルがどうとかという時に「舌を噛むよ」と言ったのを「黙ってろ!」と言われたというように受け取ったのか久しぶりに口を開いた担当AIは不機嫌そうなご様子だ。


 思えば容易くライフルで倒せる車両を相手にミサイルを撃ち切ってしまったのはマモル君が言っていたように失策であったように思える。


 3連装ミサイルランチャーに搭載されていたミサイルは威力が控えめであるものの、小型であるために運動性はそれなりに高く、対地対空両方に使える汎用ミサイルという類別になっていたのだ。


 今になってみればミサイルはヘリに対して使うべきであったのだろう。


 たまたまレティクルに入ったヘリに対して再びトリガーを引くが、これも駄目。

 2発の砲弾を無駄にして残弾は9発。


「さすがに敵の弾数が無限なんて事はないですけど、逃げられちゃうんじゃないですかね?」

「に、逃げられたらミッション失敗……?」

「いえ、ミッションの依頼文を読む限りは敵勢力の殲滅は求められてはいませんが、評価はどうでしょう?」


 そういえば依頼文には確か「道路を少しくらい壊してもいいから、ハイエナを倒せ」みたいな事を書いていたような?


 てっきり「難易度☆」のミッションとして道路を壊してはならないとプレイヤーが委縮しないように配慮して用意された依頼文だと思っていたのだけれどもミッションの評価に関わる要素だったのだろうか?


 最初の、それも最低難易度のミッションで減点は食らうのはさすがに嫌だ。

 ここからなんとか挽回できる手はないだろうか?


「マモル君! なんとかならない?」

「……ふぅ~、しょうがないですね」


 もはや敵なんか見ていても打つ手は無し、後席を振り返ってマモル君にすがるような目を向けると、彼は大きなため息をついてからすぐに指示を出してきた。


「中央コントロールレバーのスクロールホイールで武装選択! 『25mmCIWS』を起動、モード選択、全自動フルオート!」


 CIWSとやらが何なのかも分からないままに言われるがままコントロールレバーのホイールを操作するとガコン! と右胸上部のカバーがスライドして展開し、3本の砲身が束ねられたガトリングガンが飛び出してくる。


「しうす? し~うす?」

「クローズ・イン・ウェポン・システム。日本語でいうなら『近接防御火器システム』、その効果は……」


 このゲームのプレイヤーはHuMoの操縦法をゲームによってすでに知っているように記憶させられる。

 だが、すべての機種のすべての機能まで知っているわけではない。

 私が胸部のカバー内にガトリング砲が隠されていたのを知らなかったのはそういう事情である。


 いきなり存在もしらなかった機関砲の登場と、意味の分からないアルファベットの羅列に面食らってニムロッドの足を止めると、それを好機と見たのか2機の戦闘ヘリはミサイルを発射。


 だが、そのミサイルがこちらに届くという事はなかった。

 外れたわけではない。


 私がトリガーを引いたわけでも、照準を付けたわけでもないというのに、胸部に現れたガトリングガンが勝手に轟音を立てて火を吹きミサイルを迎撃していたのだ。


 ヘリとニムロッドの間で数基のミサイルが撃ち抜かれて爆発し、だが、そこでガトリングガンが止まるという事はない。


 そのまま暴風雨のような弾幕は2機のヘリへと襲いかかる。


≪戦闘ヘリを撃破しました。TecPt:3を取得≫

≪戦闘ヘリを撃破しました。TecPt:3を取得≫


「なに、これぇ……」


 アサルトライフルのフルオートモードだって自分で照準を付けてトリガーを引かなければならない。あくまでもライフルのフルオートとは発射、排莢、装填のサイクルを自動で行ってくれるものにすぎない。


 だがCIWSは違う。


「ミサイルとか撃たれた時に人間がいちいちああだこうだやってる暇なんてあるわけないでしょう。そこでレーダーとかセンサー類に連動して自動で迎撃を行ってくれる兵器システムがCIWSなんです。もっとも艦船に搭載されている物と違って、搭載弾数が限られていますので頼り切りにはできませんがね」

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