番外編 湯けむり温泉殺人未遂マフィア撲滅爆破解体新婚旅行・前
「新婚旅行へ行こう」
と言いながらセオドアが白百合宮のリーナの部屋のドアを開けた時、リーナは背中と頭を床につけ、膝から下をソファの座面に乗せるフリースタイル着席で読書をしていた。
だるんだるんの姿勢で夫を出迎え、一見生真面目そうな顔で見上げてくる妻の両脇の下に、セオドアは真顔のまま両手を差し入れる。
そうしてよく伸びる猫のように持ち上げられたリーナは、3時間ぶりに正しい姿勢でソファに着席した。
その横に座ったセオドアが、テーブルの上に様々な本を置いていく。
内容はカラー挿絵付きの旅行記だ。
ページをペラペラめくりながら、リーナは知らない地名を眺めて首を傾げる。
「地理の勉強はあまりしたことがないからなあ。でもどこも楽しそうだ」
「そうか。せっかくだからこの辺りとは文化の異なる場所へ行くのも楽しいだろうな」
「そうだね。あとは視察でもあまり行かなさそうな……。人間の国は行き先に選んでも大丈夫?」
「まあ問題無いだろう。あまり長い休みは取れなかったから、そう色々な場所は回れないが」
景勝地の風景画や名物が様々なタッチの挿絵で描かれた旅行記は、現代日本の旅行パンフレットとはまた違った味わいがあり、リーナもセオドアも興味深くページをめくっては行き先を選んでいく。
両者ともにあまりにも眼光が鋭いので、はたから見ると侵略先でも決めているような絵面ではあったが、二人にとっては穏やかな憩いの時間だ。
ああでもないこうでもないと言い合ううち、ふととある温泉街の特集ページを見つけたセオドアが、挿絵の上へ、とんと指先を当てて懐かしそうに微笑んだ。
「そういえばこの辺りは一度行ったことがあるな。人間の国の領土内だから泊りはしなかったが、近くの景勝地を見物した。なかなか良い場所だったぞ」
「そこに行く」
「そんなに急いで決めなくても良い」
「そこに行く!!!!!!!!!!」
「そうか……」
推しの推し観光地へ行きたいというオタク心から出たクソデカ主張を、セオドアは寛大な心で受け入れた。
セオドアはリーナのことが時折3歳児に見えているので優しいのである。
こうして二人の新婚旅行先は決定したのであった。
国王夫妻の新婚旅行先が決定したことを受け、魔人の国の官僚たちは日程の調整や各関係機関への連絡のための会議を開くことになった。
移動に関しては魔王の転移魔法があるため楽なもので、経費といえば滞在先での宿泊費と食費とお土産代程度しかかからず、今代の国王夫妻は浪費家でもないため全く問題は無い。
しかし今回二人が選定した場所は、国境にほど近く、また二国間を隔てる山脈が比較的低く交流の多い観光地とはいえ、よそさまの国である。
あんな過剰戦力夫婦に護衛の騎士団までつけて送り出しては、人間側から侵略行為と受け取られるのでは。という不安の声が官僚たちの中から上がったのは、ある意味納得のいく話ではあった。
なにせ魔王夫妻だけで、本気を出せば少なく見積もっても主要都市の半数は落とせるのだ。本人たちにその気がなくとも、歩く大量破壊兵器のようなものである。
しかしながら、大勢を随伴しないお忍びの旅にしたとしても、王と王妃にお供の一人もいないのでは格好がつかない。
適切な人員選びは困難を極め、会議は夜を徹し、朝日が見え始めたあたりで全員が投げやりな空気になり、もうあいつらでいいんじゃないかと、側近のキースとレニー博士がこの名誉な役目に選ばれたのであった。この場合名誉とは、やり甲斐はあるが可能な限り関わりたくないという意味である。
この時キースは連日の激務がたたって寝落ちし、会議室の樫のテーブルの上にすやすやと顔を伏せていたが、起きていた場合、何が悲しくて上司の新婚旅行に少数精鋭で同行せねばならないのかと慟哭し反発していたことは間違いない。実際知らされてからやった。
一方レニー博士は友人と魔王の新婚旅行への同行を頼まれ、二つ返事で引き受けた。トラブルが起きて楽しくなるだろうという期待が彼女の胸中にあったことは、言うまでもない。
その暫く後、新婚旅行のために魔王夫妻が人間の国の観光地を訪れる予定があると連絡を受け、人間の国の上層部は震え上がった。
特に国王含む数名は、例の大魔法使いにそそのかされて、魔人の国に戦争を仕掛けようとしていた過去があるため、顔色が紙のようになる始末である。
悪事の証拠を掴まれ秘密裏に散々締め上げられた記憶は、いまだに彼らのトラウマとなっているのだ。
魔人の国と人間の国の仲は、少なくとも表向きは非常に友好である。
時折今回の国王のように野心のある人間が即位し、政治的な緊張が生まれることもあるが、民間レベルで言えば長い間何の遺恨もなく平和が続いている。
そのため何の理由もなく下手に侵略戦争なんて仕掛けようものなら、民から反感を買う可能性は極めて高い。
そんな背景のある中で、テロじみた活動を支援してあわよくば魔人の国を手中に収めようとした今代国王は、この秘密をバラされれば失脚する可能性もあった。
あくまでお忍びでの旅行であり、人間の国側では何も気を回さずとも問題ないと言われていても、なんらかの失態によって魔王の機嫌を損ねたらと思うと気が気でない。
そういうわけで、魔王夫妻の旅行予定地に人間の国の密偵が秘密裏に派遣されることとなった。
魔人の国からの連絡以降すっかり食の細くなっていた国王たちをそれほど待たせることもなく、報告は数日中に届いた。
なんでも予定地の温泉街は、自治体の他にロウ一家というマフィアが治安維持をしており、観光地にありがちなスリや強引な客引きなども少なく、土地勘のない者でも歩きやすい町なのだという。
そのロウ一家は最近当主の老爺が亡くなり、幼い孫が跡目を継いだばかりらしいが、地盤がしっかりしているため、急激に治安が悪化する可能性も低いのではないか。という報告をうけ、連日胃の痛そうな人間が並んでいた会議室は、やっとお祝いムードの空気に包まれた。
良かった良かった。それなら是非とも人間の国の温泉を楽しんでいってもらおう。
あちらの王妃様はこちらの国の出身ですし、久しぶりの母国を満喫してもらいたいですね。
なんて言い合いながら、彼らは魔人の国へ、我々は魔王夫妻を歓迎しますという旨の手紙をしたためた。
かくしてリーナとセオドアの、親友と部下付きの新婚旅行は、魔人の国と人間の国の上層部に一抹の不安を与えつつ始まったのである。
◇◆◇
白百合宮にて、リーナは女中たちから出立前の最後の身だしなみチェックを受けていた。
長い黒髪はゆったりと結われて銀の髪飾りに彩られ、きりりとした目元には青に薄く金色の乗ったアイシャドウを刷き、唇には柔らかな色の紅が乗せられ、若干キツすぎる表情を幾分穏やかに見せている。
服装も普段のダルダルの部屋着か動きやすさ重視の戦闘服という両極端なものではなく、お出かけ用の高級品だ。
シルク独特の光沢を深い藍色に染めた細身のロングワンピースの上に、複雑な飾り紐で胸元を留めた白い上着を重ね、髪飾りと同じ銀に目立ち過ぎない程度の大きさの宝石があしらわれたアクセサリーで胸元や手首を飾る。
外見だけならどこから見ても文句の出ない、月のように美しい貴婦人だ。
暴力の化身じみた女ではあるが、常日頃から5000兆円が欲しいと思い続けているだけあって、リーナは人に傅かれ高貴な暮らしをすることにあまり抵抗がない。きれいな洋服も美味しい食事も大好きだし、人の金で焼肉を食うのが至福というタイプだ。
ついでに言うなら、神の如き美貌を持った旦那の横に立つにあたって、せめて服装で美麗さを足さなければ自分では役者不足だという自覚があった。
元々の素材は悪くないし、魔法のネックレスのお陰で肌も髪も美しく、日々の鍛錬のお陰で全身がすらりと引き締まりスタイルの良いリーナは、おかげで王宮の女中たちからの評判もなかなかによい。
無人島に流れ着いても問題なく生活できる人間のくせに、頑張りさえすれば貴族じみた振る舞いが臆面もなく出来るふてぶてしいリーナを、女中たちはこぞって磨いた。
魔人の国の王位継承の性質上、低い身分出身の王妃の扱いにも慣れていたベテラン女中にとって、リーナは仕え甲斐のある主人だったのだ。
とはいえ、セオドアとリーナの結婚について、国内で全く反発が無かったわけではない。
いくら魔王自身の選んだ相手だとはいえ、なにせ平民のうえに他国民である。
今代魔王のあまりの有能ぶりが評判であればあるほど、その御子となればさぞ将来有望だろうと期待する声も多かったのだ。となれば魔人同士での結婚を望まれるのは当然の流れといえた。
これを一発で黙らせたのが、例の結婚披露闘技会だ。
キース発案の前代未聞のイベントにノリノリで付き合った魔人の国の住人達は、予想を超えた頂上決戦を見せつけられ、強制的に魔王夫妻の仲の良さを脳みそに浸透させられたのである。
自分と互角の戦いを繰り広げられる相手が魔王の好みだと言うのなら、たしかに王妃はこの女にしか務まらないだろう。
そう納得させられるだけの勢いがあった。というか勢いでゴリ押した。
元々有能な人材は性別や人種、出身問わず好かれるお国柄もあって、リーナは魔人の国に受け入れられたのだ。
なにより、野生のカバの数十倍狂暴な女に喧嘩を売ろうなどという馬鹿は居なかった。
結婚後はそれまで魔王が請け負っていた狂暴なユニークモンスター退治や、精鋭兵の訓練の一部をリーナが肩代わりし、その甲斐あって魔王の多忙さは幾分解消されている。
それに、めでたく新婚さんとなった尊敬する魔王を早く帰宅させてあげようと、部下たちも奮起した。
おかげでいままでは膨大な職務を夜までコツコツ真面目にこなしていた魔王は、夕方には家に帰り、妻と共に夕飯を食べ、熾烈な戦闘訓練を二人仲良く行い、ぐっすりすやすやと眠ることができるようになった。
そしてついには前倒しで様々な仕事を終了させ、後顧の憂いの無い休暇を勝ち取り、楽しく旅行へ出かけることになったのだ。
魔王の表情が普段よりも穏やかに緩んでいることに気付けた者は、ほんの一握りだけではあったものの、その日の王宮はいつもよりふわふわと浮かれた空気に包まれていた。
レニーと荷物を持ったテディを連れたリーナと、キースを従えたセオドアが合流すると、さっそく皆はその場に見送りに来ていた臣下に挨拶をし、転移魔法で新婚旅行へと旅立った。
旅情も何もあったもんじゃない移動をした四人とテディは、本日の宿泊先である宿の庭へ、魔法の光を纏いながら現れた。
リーナが初めて訪れたセオドアお勧めの観光地は、普段見ている王宮や、出身地の人間の国の王都とは、いい意味で全く趣の異なる場所だった。
いくつも橋の掛かる川を挟んだ大きな二本の広い通りに沿って、3、4階建ての楼閣が立ち並び、花の咲く庭木や金銀の装飾、花模様の織られた赤い旗がそこかしこに飾られ、町の至る所にいくつもの提灯が連ねて吊るされている。
昼間の景色も華やかだが、夜になればさぞ豪華絢爛になるだろう異国情緒あふれた風景に、以前もここを訪れたことのあるセオドア以外がそろって感嘆のため息をついた。
普段見ている西洋ファンタジーな街並みとは違う、この世界で初めて目にする中華ファンタジーの街並みに、リーナは鋭い目をぱちぱちと瞬かせて、きょろきょろ周囲を見回す。
振り向いてみれば、大きな池を中心にした庭のど真ん中に建てられた、ひと際大きな楼閣があった。
賑わう通りからは少し外れた坂の上に建っていることもあり、ここから見おろす町はさぞ美しいのだろうことが、建物に入る前から分かる佇まいだ。
四人と一匹が建物へ向かうと、入口の門の前で女主人がたおやかな笑顔を浮かべて一行を迎えた。
「ようこそお越しくださいました。この宿の主人、メイ・シュンランと申します。こんな素晴らしいお客様をお迎えできるだなんて、光栄ですわ」
魔王の激烈な美貌にも、最後尾で当然のように荷物を運んでいる大きくてふわふわのくまにも動揺せず挨拶をする女主人には、その道のプロと呼ぶにふさわしい風格があった。
楼閣の中は、意外にも壁は真っ白な漆喰でシンプルに作られている。
その代わり木の床は踏むのが躊躇われるほどに磨き上げられており、そこに色鮮やかな天井画が映り込んで、はっとするほど美しい。
柱や梁は朱塗り一色であるかわりに繊細な彫刻が施され、掛け軸や壺などの調度品も上品なものばかりだ。
荷物を従業員に運んでもらい、手の空いたテディが小さくなってレニーに抱かれる様子に対しても、なにその生物というツッコミすらせず微笑んでいる女主人を、リーナはこいつできるぞと内心思いつつ見つめていた。
后として夫に恥をかかせないよう淑やかに振舞ってはいるが、リーナの瞳に爛々と好奇心が透けて見えることに、セオドアは当然気付いていた。
見慣れない宿の中が気になって仕方ないのだろう。
「リーナ、この宿は先代魔王も逗留したことのある由緒ある宿だが、そのぶん変わった客の対応にも慣れているし、口も固い。ある程度は羽目を外して大丈夫だ。宿の中を案内してもらうといい」
そう言うセオドアにリーナがぱちぱちと瞬きをし、女主人のシュンランへ視線を向ける。
彼女に品良く、かつ優しく肯定の微笑みを返され、リーナはわーいと歓声をあげそうになるのを堪えつつニコニコとそばへ寄っていく。
その後ろからは同じく好奇心いっぱいのレニーがテディを抱えながら付いてきた。この中で一番のストッパー役が賢いテディさんであることは言うまでもない。
あれは何、これはどこで作られたものなの、今晩の夕飯はなんですか、と自由気ままにふらふらウキウキ質問をし、そのたびシュンランに説明してもらって上機嫌に話を聞く妻とその親友の姿を、セオドアは少し離れたところから僅かに微笑みを浮かべつつ眺める。
そんな上司の、まるで娘と友人が遊ぶ姿を見守る父親じみた様子を横から見て、キースは不思議そうに声をかけた。
「よろしいのですか、リーナ殿下とご一緒に歩かれなくて」
「いや、良いんだ。……リーナは時々レニーと旅行へ行くだろう」
「はあ、この前は遊園地へ行ったとおっしゃっていましたね」
リーナは戦闘に関する仕事のほか、王妃らしい仕事も度々請け負ってはいるが、それでも当然魔王よりは格段に時間に余裕がある。
そんな彼女が王宮内で暇にならないようにと、セオドアは彼女が外へ遊びに出かけることを推奨していた。
といっても推しの顔を出来るだけ多く見たいリーナは、旅行へ行っても日帰りするので、件の遊園地も初回以上のRTA攻略となったのだが、それはさておき。
「俺は旅行の話を聞くたび、是非ともリーナが旅先で友と楽しく語らう様子を見たいものだと思っていた」
「ご自分が語らうのではないのですね……」
「リーナは俺と一緒に居るといまだに、固まって動かなくなる時があるからな」
「ああ……」
そりゃあこの男と正面きって向かい合えば、そういうこともあるだろう。
キースは納得し、若干同情の滲む相槌を打った。それがセオドアへ向けたものかリーナに向けたものかは、判然としなかったが。
「我が君、私は先に部屋へ向かい、宿の説明などを部屋付きの使用人から聞いてまいります。どうぞごゆっくりお寛ぎください」
「ああ」
頭を下げて去って行く部下に軽く頷き、セオドアははしゃいでいるリーナとレニーとテディを見守る。
キースは父親のようだと思ったが、その視線にはなかば、ドッグランで走り回る元気な大型犬を見守る犬好きのような雰囲気もあった。
妻にアニマルセラピー的癒しを見出しつつある夫と、それにさっぱり気付かない奇人の妻の、なんとも言えない距離感の新婚旅行は、まだ始まったばかりである。
部屋割りは最上階をまるまるリーナとセオドアが使用し、その下の階の部屋がレニーとキースに割り振られている。勿論貸し切りだ。
とはいえ気心の知れた間柄なので、夕飯は最上階の部屋で全員で食べることになり、リーナとレニーはその前にさっそく温泉に入ることにした。
宿の裏の竹林に囲まれた露天風呂は、装飾や様式に中華風な部分がありつつも、全体的にはどこか和風になっている。
文化のちゃんぽん具合を内心楽しみつつ、リーナは体を洗って広い岩風呂につかった。
泉質は少しとろみのある炭酸水素塩泉。いわゆる美肌の湯である。
独特の鉄臭さが少しだけあるお湯ではあるが、湯船に柚子に似た柑橘と白い花が浮かべられているため、爽やかで甘い香気が漂っている。
しかも良く冷えた桃のお酒までサービスで出され、お盆の上に酒器を乗せて浮かべる、という完璧な温泉ムードが演出されていた。
小ぶりな杯に甘い酒を注ぎ、レニーが豪快にそれをぐいっと呷る。
「ッハーーー!! うま!! いやあ、人の金で泊まる高級ホテルは最高っすね。あ、こっちだと酒店て言うんでしたっけ?
「たぶんそんなだったような……。いやだめだこれ、結構早くお酒まわっちゃいそう」
「体があったまってるぶん効きやすいんすかねえ。リーナはほどほどにしておくと良いっすよ。わたしが全部飲んどくんで」
「たすかる……」
意外と酒豪のレニーが単に酒を欲しているだけなのだが、アルコールと温泉にふわふわになっているリーナは気にせず礼を言う。なおこの世界の成人年齢的には飲酒は合法である。
全くペースを変えずに杯を干すレニーは、ふと気になって小首を傾げた。
「そういやリーナって寝るときは魔王様と同じベッドなんすよね」
「うん」
「大丈夫なんすか? 顔見ただけで時々呼吸が止まるのに」
「セオドアが同じ布団に入ってきた瞬間気を失うから問題ないよ」
「相手からしたら大問題だろうけれどな」
レニーは不憫な魔王を思って杯を掲げた。苦労性に乾杯。
結婚後しばらく経つというのにこの体たらくでは、さすがに享楽主義者の彼女もいささか同情してしまった。
困ったことにリーナはセオドアと拳を交えることは大得意でも、キスすらしたことがなかった。手を繋ぐのはギリギリでセーフである。
周囲のお節介な心配をよそに、セオドアからすると時折幼児か奇妙な珍獣に見えるリーナに手を出さないのは当然のことだったので、案外この夫婦は上手く行っているのだ。
理性の権化であるセオドアは何年でもリーナの精神が落ち着くのを待てる余裕があったし、リーナはリーナで、さすがに数年すれば推し相手に死の危険を感じるほどの緊張をする回数も減ることだろう。
とにかく一緒に居たいから、という理由で結婚した二名の恋愛は、とてつもないスローペースではあったが、少なくとも前進はしているのだ。
というわけで、風呂上がりに窓から夜景を楽しみつつ全員で美味しくご馳走を食べた後、部屋のどでかい寝台に先に横になったリーナは、寛いだ顔の推しが横に寝そべった光景を視界の端に映した瞬間失神し、今夜もぐっすりと眠りに落ちた。
それを見たセオドアは、彼女のある意味寝付きが良いともいえる習性に感心しつつ、同じくふかふかのおふとんの中でぐっすり眠ったのだった。
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