背水の般若
――――判決から二週間の前日
これで、明日になれば離婚成立ね。
「綾 今日で決まるね。本当に頑張ったね。もう後は気にしないで。俺はいつも綾の笑顔が見たかった。」
「うん。悟さんこれからは一緒に笑って生きようね」
人生の貴重な時期を般若に注いだのかもしれない、でもいつからだってやり直せるんだと清々しい心で朝を迎えたのでした。
いつも傍にいてくれたこの人と今度こそは笑って暮らそう。もう遠慮なんていらないわ。
しかし悟さんが仕事へ出た後、騒がしく玄関前で叫び散らすキチガイ女の声がしました。般若姉です。
「あんた!あのゲス嫁出しなさいよ」
「どなた?」
「うるさいっ 綾さんいるんでしょ!」
ああ、ゆりが玄関の外にいた為絡まれていました。
私は外へ出ます。
「よくもまあ、悲劇の主人公みたいに」
「なんの御用ですか?」
「ふん、そのかしこまった話し方が毎度腹立つわ。離婚だけじゃ気がすまないか?陽介がね。会社もやめたのよ」
と言ってやった感を前面にだすその面、もう二度と拝見したくなかったのに。
「あら、それは大変ですね。また辞めたなんて」
「なんだと?あんた、救急で運ばれて精神追い詰められたとかどうせ芝居でしょ?全く致死量に満たなかったんでしょ。どうせやるなら死ねばよかったのに」
芝居?芝居だったらどうっていうのかしら。
般若が会社を辞めたら、自分が苦労するからこの般若姉は怒りをこちらに向けているだけでしょう。
「お帰りください。もうお話することはないので」
「はあ?」
「私からは何も話はありません。会社を辞めたからと私に何をしろと?」
何やら不服そうな顔をしながらも去っていきました。
般若姉を追い払い、あこと3階でコーヒーを飲みます。
「私達さ、将来の離婚やめた。」
「え?」
「綾の話をさ、旦那としてるうちに、え?俺ら大丈夫じゃない?ってなったんだ。ごめんよっ反面教師みたいにして。」
「はははっいや嬉しいよ。あこも、たけしさんも般若化してないから大丈夫。ちゃんとした人の心もったヒューマンビーンズだもの」
「ありがと。綾なんか明るくなったね。私は今の綾が好きだわ〜」
「そう?」
「うん。前はさ、やばかった。目が据わってた。」
それから私は気分もよく、料理をしていました。悟さんとカイの為なら気合いが入ります。
知ってたわ......こうなるかもしれないって
知ってたわ........あなたは私無しじゃ生きられないって
知ってたわ.......あなたは弱い
自分の支配下にならないのなら
私を永遠にあなたのものでいさせるには
もうこれしかないの?
でも許さない
「悟さん?仕事終わり?」
振り向いた私の視線の先には......般若がいました。
病的な表情を浮かべ何も言うことなく近づき私の頭をつかみ、強引にキスをするも私は叫ぼうと騒ぎます。
ゆで卵を入れていた器とグラスが落ち
パリン ガシャン といいました.....
床に倒されもがく私にまたがり......
衝動的に般若は私の首を絞めます。
薄れゆく意識......の中で
こんなはずじゃなかった
私はこんなものの為に生まれたんじゃない、こんな為に生きてきたんじゃない
だけど、悟さんを殺されるよりはましね
私は彼なしじゃもう生きられないから
こんなときに、そんな事を考えました
爪を立て腕を目一杯つかむもどうもなりません
包丁も鍋も届かない.......
涙が涙が線のように流れ落ちてゆく......
生きたい
死んでたまるか
私にはカイだっている
悟さん 早く.....誰か来て
ふと急に息苦しくなくなった。咳き込む私の前に座り込んだ般若が視界に入った
「綾......俺.......おまえにいつかは笑ってもらいたかった ごめん」
私は這いつくばり部屋から出ようとした時
誰かが私を飛び越えて般若を抑え込んだ
「お兄ちゃん......」
さらに足音がたくさん続く......私は悟さんの腕の中にいた。
私は急に怒りと恐怖が頂点に達したのか、悟さんの腕を押しのけ般若にガラスまみれのゆで卵を投げつけた......言葉は何も出てこない。
ごめんね?笑って?
........ふざけるな。
みんながうちの玄関、リビングに集まり、警察も来たのでした。
私を抑えに来た悟さんの腕が震えていた。
私はただ般若が警察と共に消えたあと、床に散乱したガラスとぐちゃぐちゃに潰された卵を眺めていた。
悟さんの胸にもたれ子供のように黙り込んだ私を兄が近くでしゃがみこんで話しかける。
「綾、もう、これで本当にアイツは終わりだ。大丈夫か?安心しろ。もう行ったぞ。」
そうね。自爆したわね。
ここまでしなければ、親権は私でも月に何回面会するか位は話があったはずなのに。
養育費や財産分与はすべて放棄していたの。ただ離婚するかだけの裁判だった。
般若はいつも仕事の愚痴、他人の悪口、叶いもしない政治家になるとかいう夢全て聞いてもいない私相手に話していたわ。
私が唯一の存在だったのでしょう。それを失うのは自分を失うようなものだったのか。
悟さんは私の頭をなでて
「綾......大丈夫か、怖かったな 怖かったな」
と泣いた。
「大丈夫 私は大丈夫」
だってこれで般若は終わるはず。たしかに恐怖だったわ、でもその後の高揚感.....に酔っていたの。
可哀そうだなんてもう思わない、何度も思ってきたから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます