後は野となり華となる
結局調停離婚は延期が続き、呼び出しの要請に応じず調停離婚は般若が欠席したことで不成立。罰金だけが課せられ、私は家庭裁判所に移行し離婚裁判に進みました。
+++
訴訟をしてから一ヶ月、口頭弁論の日
「綾、冷静にな。書類も音声データも全部出したんだ。後は気持ちを裁判官に伝えろ。アイツに伝えると思うなよ。あくまで裁判官を納得させろ。」
「わかってるわ。お兄ちゃん」
事細かなこれまでの経緯、エピソードをまとめた書類を作るのは大変心苦しいものでした。けれどその一方で、この結婚にピリオドを打つ決心はより強いものとなったのです。
兄は心配でたまらない様子。その隣で悟さんは微笑んで一言だけ声をかけてくれます。
「綾、もう一度だけ、頑張れ」
「うん。頑張る。ありがとう」
私は一切顔を合わせていなかった般若を見る気がせず、素知らぬ顔をします。
「まずは原告に、婚姻を継続し難い重大な事由について質問をお願いします」
「離婚を考え出したのはいつ頃ですか?きっかけは何ですか?」
「不妊治療中からです。ただ子供が生まれて考え直しましたが子供が生まれるなり仕事をやめ生活費、育児家事はすべて私任せでやはり離婚を考えました」
「具体的な理由は何ですか?」
「金銭が欲しかったわけではなく、家庭、子育てに対する姿勢が残念でなりませんでした。何度向き合おうとしても指摘すれば機嫌を悪くし私や他人、子供や物に当たり、環境のせいにしました。感謝も謝罪もなく、与えてもらうことを当たり前と思う人と生きていく自信はありません。」
「他人に脅しもあったと録音音声がありますがこれはどのようなものですか」
「私が頼りにしている昔からの友人です。彼にも罵声を浴びせたり脅しがありました」
「全ての記録と、音声データはありますので、詳細は省略します。」
「では、被告側弁護人どうぞ」
「貴方がおっしゃった支えてくれる人という方は異性ですね。不倫関係にあるとすればそれが離婚を請求する本当の理由では?」
「彼は私達が知り合った頃からの友人です。ずっと私達を見ていました。見るに見かねた彼が相談にのり、音声データも録りました。たしかに精神的に私が頼っています。
最終的には彼だけでなく家族友人も巻き込みあのシェアホームのおかげで生活しています。
彼は離婚理由に関係ありません。肉体関係はありません。」
「原告側弁護人どうぞ」
「事実、原告は被告の執拗なつきまといと暴言、脅迫に不安となり睡眠薬の過剰摂取で救急搬送されています。モラハラとみられるような配偶者と離婚するにはまず別居することが大切だと過去の事案でも言われています。
また、不倫関係などといった証拠はありません。現に原告は調停離婚も準備した上で被告が出席しなかった為不成立となっています。別居はその後からです。」
「では被告への本人尋問を始めます」
「結婚生活はうまくいっていなかったと考えますか?」
「私は......これまでは確かに至らない夫でした。収入、家事育児はそのとおり協力してませんでした。収入ある妻に甘えていました。
しかし、今からでもやり直せると思っています。夫婦とはそういうものではないでしょうか......。常に完璧ではいられません。」
これまでとは別人のように覇気がない様子で話す般若でした。きっと攻撃的ではない夫を演じろとでも言われたのでしょうか。
「脅しや罵声を浴びせたという事実はありましたか?」
「今は家業に戻りまさにこれかという時に離婚だと言われ、動揺してしまいました。脅したつもりはありません」
「原告側弁護人 どうぞ」
「そんなに離婚を拒むのであればもっと早くに聞く耳を持てたのでは?今になって執着する理由は、原告が我慢し言いなりになると思っていたからですか?」
般若はだまったのでした。
「では、最後に原告何か言いたいことはありますか?」
「あなたに私の痛みは分かりますか。分かっていたらこうはならなかった。今からなんて選択肢は何年も前からありません。これは私一人の過ちではない。私の過ちはあなたと結婚した事です」
「被告どうぞ」
「愛しているから当たり前に歳を共に重ねると思っていました。結婚が過ちだとは思ったことはありません」
愛している?そんな美しいはずの言葉がここまで安っぽく聞こえたのははじめてでした。
「これにて口頭弁論を終わります」
出ようとする私を呼び止め、弁護士の制止を振り切り、般若が叫びました。
「綾ーおまえは俺の宝物だろ なあ!」
「行きましょう 綾さん ほら」
「あなたは 般若よ」
+++
裁判の結果が後日送付されました。審議が長引けば第二第三回目に続くと聞いていたので私は恐る恐る確認します。
結果は、離婚請求を認める。でした。
私はやっと離婚します。般若が二週間以内に異議申立てをしなければ。
弁護士の小坂さんも、きっと勝ち目はないから異議申立てはしないだろうと。むこうの弁護士が嫌がるだろうと言いました。
「綾、よく頑張ったね」
判決が出た夜、私は悟さんのマンションにいました。
兄がシェアホームでカイとみんなとお祝い準備をすると。
「綾........」
「ありがとう 悟さん。私あなたが居なかったらここまで出来なかったかも。いつも一筋の光だった。」
「俺は何もしてないよ これからはたくさんするよ。綾に。」
「うん」
悟さんはメガネを外し、優しく私を抱き寄せ唇を合わせました。
このキスは.....荒々しく終わりのないもの
「綾 止まらないわ 俺」
そう言って笑った悟さんはまた私の頭をつかみ唇に吸い付く、
そのまま私のうなじまで唇を運び、服の裾からしなやかな指を忍ばせる
「綾......もういいよね。俺に任せてくれる?全部」
その目はとろんとしながらも瞳の奥は強く勇ましい。
私は頷くと、彼にまたぐようにソファで座ったの。彼は私の胸に顔をうずめながら下着を外した。
彼に触れられる度、彼の唇が私の体中をまわり、息が荒くなり私も彼の服を剥ぐ、彼は私の太ももをなめらかな手で行ったり来たりしながら、私の胸に吸い付き離さない。私は足で悟さんを挟む、もう待てなくて......
そしてついに、悟さんは私の中に。
「綾.....こんなに愛おしいなんて、こんなに.....」
真剣な表情に見え隠れする狂おしいほどの情熱を秘めた悟さんが愛しい
「悟さん.....悟さん......愛してる 大好き」
「んーーー悟さん、もうだめ だめ おかしくなる......」
「いんだよ 綾 おかしくなって。我慢しないで」
きっと私は恐ろしいほどに感じました。
彼を吸い込んで消してしまうのではないかと思うくらい。
愛されるってこういう事だったんだと、いわゆる私はセカンドバージンをこの日捧げたの。
「もう一回する?」
「だめ。みんなが待ってるわ」
「やっと解毒したかな 白雪姫」
「......隣国の王子様」
しかしこれで幸せに暮らしましたとはなるでしょうか。
おとぎ話のように
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