兵強ければ則ち滅ばず

 「みんな、ほんとにごめんなさい。無責任な行動で迷惑かけて、心配かけて」


「はい!そこまでーっ!しんみりしない。綾の処遇は全体ミーティングにより決定済みですから。ねっお兄さん」


「ありがとう。あこ。」


「綾の味方はこんなにいるんだからね。盛り塩もしたし」


 私はこんな人達が側にいてくれる。その反対で般若はとても孤独でしょうか、今頃。

いえ、きっとずっと、昔から般若は孤独。

般若父母は、自分の子をコマとしか思っていない。

孤独を自覚していなかったか、孤独があたりまえか。人は、愛さなければ愛してもらえないのかもしれませんね。般若は人を愛せない生き物。


「あれ?悟は?」


「さぁもうすぐ来るでしょ。悟さん大丈夫だった?病室で凄い怒ったって、綾のお母さんがいってたよ」とみのり。


母は基本おしゃべりです。きっと興奮冷めやらぬ状態で、非常事態に動揺してあの日みんなにいろいろと話したのでしょう。


「私に話しかけてくれた時はいつもの悟さんだった」


「そっか。綾、気にせずに頼りなよ。彼を。夜だってきっと眠れるよ」


「ありがとう。ほんとに、シェアホームがシェルターホームみたいになっちゃったね。」


 カイを寝かせたあと、シャワーをして出ると悟さんが居た。


「ごめん 勝手に入っちゃった」


手には鍵。兄が既に合鍵も用意し渡していたの。きっと仕事も忙しいだろうに、無邪気ににこっとした悟さんの顔にこちらも安らぎを感じます。


一階でソファに座り、久しぶりに悟さんをみつめた。


「悟さん、本当にここに住むの?寝泊まりするの?」


「うん。綾を見張らなきゃ。ひとりで無理しないように。ちょっと俺が狂いかけたみたいだけど。大丈夫、悟さんは綾より強いんだぞ」と笑う悟さん。


 まったく私はとんでもなく弱者と化したようです。

けれど、私はこの人に甘えていいのかしら。般若には感じたことがない位に、甘えたいと思うのです。さらけだしたいと。


「じゃ、いいんだね。私、悟さんと居て、ここに」


「いいんだよ。何も考えないで 綾」


 一番最初にシェアホームを設計する前、悟さんは私に「頑張れ 綾」って言ったわ。私も、うん頑張るって。心の底から思った。頑張って般若討伐しますわって。

今は、頑張らないでと言ってくれる。それが穏やかな気持ちにさせてくれる。

私を知ってくれる。私を分かっててくれるのはあなただけ。


 般若といる時間が長くなるに連れ、私は無口になった。控えめになった。感情を出さなくなった。本来の私はスポットライト症候群よ。知らぬ間に般若に調教されていたのか、または般若から逃げるために塞ぎ込んだのね。


「綾、綾」

私の名前を何度も呼び悟さんは抱きしめる。優しくゆっくり強く。

吸い込まれてゆく彼の懐に。

悟さんは私の背中をぎゅっとしたまま口づけをする。

顔を斜めにし何度も何度も私の唇を奪う心も。

そしてもう一度きつく抱きしめて


「綾、綾が、いいよっていうまで、抱かない。でも分かって俺はずっと綾が欲しい。魂も心も体も全部」

「うん。」

「眠れそう?髪乾かしたら」

「うん。」


 私達はカイが眠る小さめベッドの横にセミダブルベッドで眠る。これも兄が用意したらしい......カイの小さめベッド。

般若が使っていた寝室は開かずの間となった。


「綾、寝よう。おいで」

悟さんと眠るのは初めて。なんだか初めての彼氏のような錯覚に陥ります、いい歳なのに。

悟さんの腕、胸は大変落ち着くのでした。頭をなでられながらぐっと彼にまとわりついていたらあっという間に眠れたのでした。

私はとても寂しがりやなのかもしれませんね。今まで一人部屋、ひとりで寝るのが性に合ってると思っていました。要は相手次第ということ。


 感謝するわ。悟さんの存在に家族、友人の存在に、もし孤独で般若に立ち向かっていたら....きっと負ける。

いえ初めから負け戦とわかっていたから建てたこの家、逃げるのではなく兵力が欲しかった。般若をたとえここが小さな世界だとしても、のさばらせないために。

その点では物事はうまく進んでいる。私は今悲劇のヒロインよ。私の前にでて戦おうとしてくれる殿方ができ、守ろうとする護衛ができ、代弁してくれる奥方達も。

助けてお願いがあるのと縋らなくても動いてくれる兵が。

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