捨てる神あれば......

 兄に説明し、卸問屋の商社からの仕入れ額を一時的にディスカウントし他社の物流代行に、移行する。

計画は狂わず、卸問屋は悟さんへの依頼を取り下げずに済んだ。

新たな仕事も悟さんに舞い込んだの。

般若の物流会社はその企業の倉庫業務、関連企業の委託すべて失った。

それでも、売上の1割には到底満たないはず。きっと痛くも痒くもないだろうけど、気分は害したことでしょう。

それに、年月をかけて噂は回りますし。


 その後私は、兄と兄の知り合いの弁護士事務所を訪れたの。

「じゃあ まずは別居だね?」

「はい。こちらで離婚の意思を伝える内容証明はつくるよ。別居は出来そうですか?」

「今は向こうが飛び出したままですが、どうでしょう.....」


「あのさ 別居中て他の男性と関係あったら問題?」

お兄様なんという質問を......。


「ここまで離婚要因があって、意思表示してから正式に夫婦が別居してれば大丈夫だよ。あからさまにその......男性と同居じゃなきゃな。」


「なるべく調停や裁判までは行きなくないよな。一番ベストは当人だけで離婚成立」



―――その晩



私達は、シェアホームに集まった。

「これで、離婚成立したらいいね 綾」

「うん.....すんなりいくかな」

「さぁ.....」


誰もが容易にことが進むなんて考えられませんでした。


「何でも言ってよ。力になる」

「ありがとう」

「玄関の鍵、替えようか」

「あ、それこの建物の所有権でトラブルなるかもな」

「ああ」

「七条家で買い取るか?離婚時の財産分与つっても、あいつがのむか?」




私は疲れたのでカイを寝かすため下の家へ戻りました。



「もしもし。あぁ陽介 うん。そうだな、あとは肉体関係があったって裁判で出せば根こそぎ取れるな」


 え....悟さん?悟さんの声.....どういうこと......



 私はバッと起き上がります。夢でした.....。

カイを寝かしながら眠ったようで。

余りにも恐ろしい内容で、目が覚めた私は3階へ。みんな帰ったようです。

一応アトリエをのぞきにいきました。

明かりがついてる。窓からうっすら悟さんがデスクに向かっているのが見えます。


 邪魔したら悪いわね。

立ち去ろうとしたらアトリエから悟さんが出てきました。


「綾 起きたの」

「うん。」

私達は夜風に当たりながら屋上から外を眺めます。


「綾はさ あいつに 陽介に愛されたかった?」


 悟さん......その質問

私には嘘はつけません、小さな嘘は平気でも心の嘘はつけないらしいのです、私という女は。


「......うん。結婚当初、カイが生まれてすぐは。なんで私を一番に考えてくれないのか、なんで家族の為に生きてくれないのか。

お金じゃない、気持ちが欲しかった。

でね、いつしかそれが憎しみに変わった。悲しみが寂しさが憎しみに。でも今は......憎しみすら消えてきた。もう私の前からあの人が消えてくれるだけでいい」


「そっか。俺は......、今だからこそ俺を必要としてくれるなら、綾の気が済むまで側にいるよ。でもさ綾の一番でそばにいたい。あっカイの次。」


そう言って優しく微笑む悟さんはまた口を開きます。


「綾がずっと陽介といるなら、ずっと綾の友達でいようと思ってたのに、いつの間にか俺にも欲がでたんだね。

綾に出会ってから、俺さこの年になるまで誰かを好きにはなれなかったんだ.....。綾以外は。

もし、俺が先に出会ってたら、綾が陽介の彼女じゃなく、綾として......。そんな事考えてるうちに綾は陽介の妻になっちゃった。

何度も綾にさよならいったんだ。自分の中で、でも気持ちはそれを言う度強くなった。

いざ綾に触れたら、もう止まらなくなった、溢れかえってさ」


 悟さんは外を眺めながら珍しく長く話した。

夜空に溶け込むような優しく穏やかな横顔を見つめながら私は思う。


 もうこれは、浮ついた気なんかじゃない。

私はこの人を愛してる。愛していいのね。

こんな恋の形があったなんて昔の私は知らないだろう。

今までどんな気持ちで、どんな感情でこの人は私の近くに居てくれたのかしら。きっととても虚しい感情.....私に同じことが出来たかしら。


悟さんはこちらを向いて私を抱きしめていう

「何考えてたの 綾」

「俺の事やっと好きになってくれた?」

私は悟さんの胸に頬をつけたまま、うんと深く頷いた。


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