暗黒の霹靂

 私はジュリーに行く当てなくなったら店に行きますと、ミステリアスなメールを送り、般若の帰りを待った。

落ち着かない私は3階にいた。


「あれ?カイくんは?」

あこだ。

「般若が話あるからカイは実家に預けろって」


「なにそれ怖い」


「昨日 般若母来てたからかな。」


「来てたね....私達挨拶しかしてないけどっ。癖ある顔だったわ〜。若い頃ってさ、相手の親に見られて緊張して、親がどんなやつか、見るのすっ飛ばしちゃうんだよなー」


あこにすがっていると、般若が帰宅した。私はとめどなく出続けるため息と共に下の家へと戻った。


「飯」

はぁ。カイがいない分、より飯と言われると腹が立つのです。

「飯 行くぞ」

はい?二人でご飯なんて数年行ってません....。

「作ったのに」

「明日食う」


 料亭のような割烹のような店でお上品に、ちんたらちょこまか出てくる料理に間が保たず、料理の感想も出ず、

いわゆる沈黙です。

これなら丼が良かったわ。前に向かい合わず、つゆだくで。


「カイがさ、泣いた。俺が怖いって」

「え」

「寝る前な」

「俺さ、父親だけど父親じゃないんだな」

たしかに。カイと遊ぶ姿はあまり見ない。産まれてすぐ海外いったり、いわゆる子育てをしていない。

時間じゃないわね。気持ちが子育てをしていない。

「カイにかまってないからね。ただ生活してるだけ」

あれ?怒らないの?

「俺さ、今度綾とカイと水族館行こうと思って。あいつ魚好きなんだろ」

......まさかの話は水族館へ行く話だけ。

水族館へ行く話をわざわざ料亭であらたまらなければ言えない関係。



私達は帰宅した。

「今からカイ迎えにいく」

「やめとけ。もう夜だ」

私は般若とだけ過ごすのは勘弁。今日は悟さんもアトリエに居ないみたい。

3階に行ってみるも、電気が消されみんな就寝前だ.....。仕方なく私は寝る準備をし、部屋にこもった。部屋にこもるのは毎度のこと。

あ、悟さんに結局まだ寝室の鍵をつけてもらってない。

まぁ、酔ってないから般若も間違えないでしょう。


般若が自分の寝室へ入った音を確認し私は眠りについた。




 しかし夜中に事件が。そう私からすれば大事件です。

音に敏感な私は、物音がしたようで目を覚ました。でもそれは、物音ではなく、気配だったのです。

般若が、私のベッドに入った気配.....私は今にも吐きそうになり、飛び起きます。

般若が.....般若が私を押し倒しました。

拒否する私を無理矢理押さえつけ、顔を横に向ける私の首から胸に唇を這わせ顔を埋め、パジャマを脱がそうとします。

私は涙でズタズタでした。

「そんなに嫌か」

そう言った般若が私から離れたのに、まだ泣き止まない私に腹を立て、今度は

「脱げ」

といいます。

私は嫌悪感と恐怖にいつもの気丈さを失った。

般若は私を抱きしめて「ごめん やりすぎた」

そう言って、私の足に手を添えて今度はパンツを引っ張り下ろし、私を壁に押しやり後ろ向きに押さえてきました。

もう私は限界でした。


 般若を振り切り、部屋を出て外へ飛び出しました。

行く宛がなく。悟さんに溺れる自分も嫌になり、実家や兄には、こんな姿見せられず。

私は暗闇を歩き、店に行きました。

もう閉店後。誰もいないはず。鍵の隠し場所でスペアキーを取り、開けて入りました。


「わーっ!!」

「キャーッ」

私を見たジュリー、ジュリーをみた私が悲鳴をあげます。


「綾さん?えっどうしたんですか!その恰好......」

私は何も言えず立っていた。ジュリーが水を入れてくれて椅子に座るよう言われる。あえて暗い照明だけにしてくれる優しいジュリーだった。


「警察呼びますか?綾さん」

「いえ」

「え?襲われ...あ 寝間着 え?」


ジュリーが誰かに電話します。般若を呼ばれては困ると、私はジュリーを止めようと......。

「あっ基樹さん。綾さんが寝間着で飛び出してきて放心状態で。......はい店です。お願いします。」

お兄ちゃん.....か。

私は仕方なくそのまま待った。ジュリーが帰れば店に居るのに。そんな事を言い出す気力もなかったのです。


 一台の車が店につけました。ん?兄は車なんてもってません。たぶん、まだ。

「綾!」

「あれ?」

ジュリーが驚きます。

兄は自分ではなく、悟さんを寄こしたのです。

私は悟さんの車に乗り、悟さんのマンションへ行きました。

駐車場につくまで何も聞かない悟さん。

車を停めると助手席の私をあらためて見て

「綾.....どうした」

悲しそうに言いました。

私は何もまだ言えず黙っていると、外へ出た悟さんが助手席を開け彼の上着を私に被せ、私を外へ出しました。


彼の部屋に入った私をぎゅっと抱きしめました。

「綾.....陽介が?」

「.....うん。どうしても嫌で」

きっと、荒く扱われたのは分かったようでした。私の身なりと飛び出してしまうほどの異常な行動に。

般若は息子のカイに怖いと泣かれ、私にも怖いと泣かれたのでした。


 私は悟さんにシャワーを借りました。早く洗い流したくて。

悟さんのスウェットを着て出てきた私に、

「かわいいな。スウェット」

と笑う彼を見て少し落ち着いた私。

温かい紅茶を入れてくれました。この独特な風味は、カモミール。


「私 どうしよう あの家に帰れない.....」

柄にもなく......弱音をさらしました。

「うん。そうだね」


それでも私はやっぱり強かった.....?強がりだった。

「明日、陽介にすべて話す」

「え?」

「どれほど私が嫌か、どれほど後悔してるか」

そう、夫婦のあり方や今後の為の裁きだったはずが、この一件で私の心にも体にも陽介を受け入れる場所はないと、はっきりとわかった。

いえ結局は別れたかったのかもしれない......。

別れるにしても般若をもっと懲らしめるつもりだった。


「じゃ、準備しないと」

「準備?」

「一人で立ち向かう気?」

「そりゃ私の問題だから」

「なんの為のシェアホーム?みんなに見てもらわなきゃ」

そんな不気味な事を優しい目で言う悟さんが、私は少し怖かった。

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