般若と出会った頃

 私は朝スウェットのまま実家へ。


「あら、来なくても幼稚園連れてったのに。ジョギング?健康的ね」


 のんきな母の顔に癒やされた私は、実家で若い頃の服を引っ張り出して着替えたの。

カイを幼稚園へ送り、シェアホームへ。般若がいないか様子を見て入る。

家が無茶苦茶に荒らされていた.....。

片付けずそのまま3階へ。あこ かずぴ ゆり みのり みんな居た。私はいつも仕事をしている時間。みんなは決まってここに居たみたい。


「昨日なんかあった?」

かずぴが私を見るなりそう聞いた。


「うん」

私は恥ずかしながら昨夜の出来事を話した。悟さんのことも。


「般若がそんなこと.....」かずぴは絶句してるわ。

「やっぱりね。悟さんね。」みのりは予想してたよう。

「どーすんの?綾。」あこの単刀直入スタイル。


「ちゃんと全部伝える般若に。ブチ切れられても。」


「え 危なくない?だって昨日のそれ、ほとんど強姦未遂だよ。夫婦関係でも同意なしは駄目でしょ?せめてみんなの前で話そうよ」

ゆりは冷静ね。犯罪になるかなんてわからないけど......。

「........みんなの前で話したらいじめみたい」


 いつもそう。いざ般若を懲らしめようとすると、自己分析プラス般若分析が、始まる。そして過去の思い出を美化する。

結果かわいそうに思うのか同情からか言わなくなる。さらに月日が流れ腹が立つ。だが今回ばかりは状況がかなり異なるわ。


 それでも私は、思い出してみる努力をしました。


 あれは約10年ほど前、まだ20代前半の私。

大学生の私は、いつも休憩にベンチのある場所で数人の男子学生に囲まれてたの。どうでもいい会話をしてたわ。


 高校から、ぶっ飛んだ勢いで、気に入ったら相手をしたの。来るもの拒まずではないわ....大勢と付き合ったわけではない。安売りは嫌いだから......じらすのが好きだった....いやな女。

言い寄る男の子にジャンケンで買ったら1日彼女してあげるなんて高飛車なこともしてきた。


 そうよ。その大学のベンチに、般若が現れた。5歳上なのに何してたのかは未だに謎。

「君、絵本買いに行くのついてきて」

「はい?」

不思議な誘い方だったけど私達は絵本を買いに行った。従兄弟の娘へのプレゼントだとか。

話し上手で茶髪が揺れるなかなかハンサムな年上のその男が少し気になった。


 それからよくベンチで私を捕まえるようになった般若。

ある日見知らぬ同じ大学の女の子にホームパーティーに誘われたの。そこに般若がいた。般若がその子を使い私を誘ったのでした。

その頃私には彼氏がいた。もう別れようとしてた頃。さらに言い寄る人を保留にもしてた。


「彼氏いるの?」

「いるよ」

「ふーん、ま 俺には関係ないけどな」

そんなことお構いなしに般若は猛アタックだった。ホームパーティーの帰り道にキスもされ、その数日後には私のマンションに毎日の様に貢物を持ってきたの。お米やお菓子、自分で料理したものを使い捨て容器に入れてまで。

そんな般若をかわいいと思ったのね 私。


 あっという間に般若は彼氏になった.....私はいつも般若の右側を歩き左半身は般若に重なるくらい密着して胸の温かさでいつも幸せを感じてた.....大好き この人さえずっと居たらいいって。


 待ち合わせ場所でナンパされたり、バーみたいな所で外国人にお尻を触られたときも、舞台のお客さんがストーカー化した時も般若が来てすぐに助けてくれた。

「綾は俺の宝物」般若の口癖だった。

私が大学や、お出かけから帰るときは必ず駅で待ってた般若。

「よかった。無事で。綾がいないと俺は死ぬから」って言い出した。

付き合って何ヶ月たっても毎日のように会っても、一日に何度も私を抱いた。


 でも社会人になり少しずつ般若だけの世界から旅立つ私の羽を般若は開かせようとしなかった。

来るものから私を籠に入れて守ろうとした。私はそれでいいと思ったのかしら。


 結婚してすぐ、私は自分の仕事と掛け持ちしながら、般若一家の会社の事務員として手伝った。あの安月給のね。

私は若かったから従業員さん達に可愛がられた。暴走する般若のやり方に物申しヒーローのようにもなった。私が会社を辞めたあとカイを妊娠した頃、般若の親、兄姉が酷く般若を追い詰めたの。


 般若は精神的に病んだ。心療内科に通い薬も飲むほどに、突然心拍数が跳ね上がりパニックになる般若は何回か救急車を呼び、電車を止めたこともある。


 私はそんな般若を責めることは出来なかった.....。

般若が無職でも許し、海外へ行く時は般若の人生、やりたい事があるならやれば良い。夫だから父だからと縛り付けてはいけないと思ったのかもしれない。

そして今に至る....。

現実を突きつけられ、虚無感に苛まれる毎日を過ごし、いつの間にか般若なんて居なくても生きられるようになり。私は自分の時間、自分の人生が哀れになったのかしら。

自業自得でしょうか.......私。

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