借りてきた猫と蛇の生殺し

 「もしもし着いたよー。この円柱みたいな家だろ?」

私は急いでカイと玄関へ。


「おーカイおっきくなったな!」抱っこした。


「綾〜!おまえは自慢の妹だよ!おかえりは?兄ちゃんに」

はぁ、そう言って両手を広げて待っているのでした。私は兄に飛び込みハグです。欧米式です。


般若は兄が苦手でした。あえて般若には知らせていません。サプライズです。


 共有リビングで、みんなが兄の為に歓迎会を準備してくれていました。

「わぁ。ありがとう。初めまして綾の兄。七条 基樹もときです。」

「えー!綾のお兄様かっこいい。超美男!」


あこが騒ぎます。兄が調子に乗ります.....。


「綾も可愛いから俺もカッコいいのかな はははなんちゃって。」

年甲斐もなく....お恥ずかしい。兄は私の頭を触りまわり、じゃれながらはしゃぐのでした。

兄の中で私は小学生あたりで止まっているのでは?


「あっこんばんは〜」

「悟!元気か?やっぱ独身は若く見えるな。あっ俺もだけどねっ。バツイチで。」

悟さんと兄は昔から知っている。般若絡みでみんな良くも悪くも古い仲だったの。

兄も悟さんが大好き。


みんなを巻き込み楽しくやっていると、帰ってきました....般若。

「あれっ。基樹さん」

驚く般若

「おー弟よ。元気か?おまえ、おっさんだな」


あぁ出ました。兄の般若への毒舌が。こんな物言いが出来るのは兄くらいです。


「いやいやそりゃ家庭あるんで、ね」

般若が同調を求めて私を見るも私は目を逸らしたわ。


「晩飯の後どうすんの?綾」

般若の質問に私は「......さぁ」


「なんだ、綾。どうしたの?冷たいね。俺には可愛い妹なのに。陽介くんイジメてないだろな?」

「もう、お兄ちゃんやめて。」

「だって可愛い妹が辛い目にでもあったら、お兄ちゃん何するかわかんないぞ」


このヘンテコな兄妹の会話をみんなも悟さんも呆気にとられて眺めていらっしゃいます。



 私達はその後、結局うちの店へ行くことにしました。

私はカイがいるので行かないと言うと、兄は実家にカイを連れていくことにしたようです。

こうして般若、悟さん、私は兄のペースに持っていかれたのでした。


気づけばいつもは高圧的な般若が大人しい。そう、自分が苦手な相手にはこんな感じです。きっと今すぐ帰りたいのでしょう。


ジュリーもまた兄とは気が合います。

「基樹さん!久しぶりっす」

「ジュリー。相変わらずの色気だね。海外でもモテそうだよ」

「ははは しばらくこっちですか?」

「うん。しばらくは多分1年くらいかな」

「え!」

私も般若も声を上げた....。兄は好きだけど、ね。



「へぇシェアホームね。悟の設計なんだって?」

「あぁうん。」

「さすがっ。今回かなり頑張ったね。すごいよあの家」

「ありがとう。」

「おいっ陽介くん。静かだな。飲まないのかな?」

「最近飲み過ぎなんだよね」

「俺とは飲めないと?」

「いや まさか」

「綾は?あぁ綾はいいや。弱いから。お客さんまわってきたら?」


 私は3人を置いて他のお客さんに挨拶を。

最近よく通ってるジュリーのファンかと思われる女性客が私を呼ぶ。


「綾さんがオーナーさんですって?宜しく。私はカオリ。」

「カオリさん。いらっしゃいませ。いつもありがとう。」

きっと夜の蝶だと私はすぐに分かったわ。


「ねぇどの方が旦那様?」

「え〜カオリさん分からないんですか!綾さんマジでもうヤバいっすわ夫婦関係」

ジュリー.....そうね。ぱっと見分からないくらいみたいね。他人からは。


「ん〜。あのカッコいいよく話す人!」

「ハズレです。あれは兄です」

「あぁそう言われたら雰囲気似てるかも。お兄さん独身?」

「一応....はい」


「んじゃ、そうなると〜。メガネのインテリっぽい彼かな?」

「ハズレです.....。彼は夫の友人です」


「だめだわ。私。男見る目無しね。残るはあのいちばん.....ふぅん」

微妙な反応.....般若は若かりし頃からは想像を絶するくらいパッとしなくなったのかもしれない。


「綾〜」

兄が呼びます。

「疲れたっ帰るよ」兄はもう疲れたそう。私と兄は実家へ、悟さんはマンションへ般若はシェアホームへ。

般若は全くうちの実家に寄り付きません。まぁお互いですが、家同士も仲は最悪なの。

唯一兄だけが般若にかまうくらい。


+++


 翌朝般若から連絡がありました。

『今日から出張だから、来週もどる』

出張??金曜日から?嘘だろうな。まぁたまには実家で般若も羽を伸ばすようです。


 私はカイを幼稚園に送り家に帰り掃除、掃除。般若が無茶苦茶にしていたから。

服は散乱、使った食器もゴミも部屋に散らばったまま....嫌がらせとしか思えない散らかり方ね。


 今日は休む日と決め、昼の仕事はせずにの予定がすっかり掃除魂に火がついた私はみんなの共用部分も磨きます。

くたくたの私......。


なぜ人は疲れると分かっていて限界突破するのでしょう。

なぜ人は苦しむと分かっていて限界突破するのでしょう。


「綾......綾.....」

「ん?」目を開けるとぼやけた悟さん。


私は共用リビングを掃除し、そのままテーブルに突っ伏して寝ていたようです。

まだ昼間なのに、何故か悟さんがいます。

「お昼ごはん食べた?」

「今お昼?あぁ」

「行こう」


 私は悟さんに連れられサンドイッチ屋さんへ。

アイスティーとサンドイッチを買いましたが、テイクアウトのお店。近くに公園でも.....そんな私をよそに悟さんは、お店の横のマンションへ入りました。

「マンションのロビーで食べるの?」

振り向いた悟さんは、上を指差していました。

そう、彼の自宅でした。


 どうしてこうなるのか分かりませんが私はマンションへ上がりこみます。

大理石の玄関、デザイナーズマンションらしく洗練されています。インテリアもシンプルでおしゃれで、さすが悟さん。綺麗に掃除も行き届いています。

彼がどんな暮らしをしているのか見てみたかったのでしょうね 私。


 サンドイッチを食べながら兄の話や他愛もない会話。

「陽介今日から出張だって。きっと居心地わるいから。兄まで登場で。」

「綾を味方する男が二人なら居心地悪いね。そっかぁ。じゃ昼間に拉致る必要なかったかな.....」

拉致る.....またまたすぐそっちに。そうでした。二人の時は.....の約束しましたね。


「こうでもしないと、二人になれないし。俺は綾を抱きしめないと。もたないんだよな....」

もたない?私、悟さんの役になんてたつのでしょうか。

食べ終わりアイスティーに手を伸ばし、一口飲むや否や。悟さんは私をぎゅっと抱きしめます。


「キスはいんだろ?」

ちょっといつもより男らしくいうのでビックリします。


そう。キスはいんだよ。


頷いた私は、吸い付くような悩ましい口づけに答えるように、悟さんの唇をくわえます。

そして悟さんは収まらない欲望を押し殺すように私を強く抱きしめました。


私は気づきました。この果てることの出来ない戯れは蛇の生殺しだと.....。

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