名人ではないから人を謗(そし)る
悟さんの事務所に呼ばれた私は幼稚園が早く終わる日だったのでカイを連れて行きました。
「おっ来たね!カイ。」
「さとちゃん 抱っこ!」悟さんには甘えるカイ。
般若にも甘えるんだけど、般若の機嫌が悪いと子供ながらわかるみたいで、近寄らない時が多いの。
私達はカイがお菓子を食べてアシスタントのまいさんが遊んでくれてる間に話を済ます。
見積書とラフの縮図を出し悟さんが言いにくそうに切り出したわ。
「あのさ、陽介はこれ賛成したの?」
う゛まだ言ってないのです。
「.....まだ。言ってないの」
「やっぱり.....」
フッと笑った悟さん。
「陽介なら反対しそうだよなって。独占欲強いし、自由人だし、いくら友達の旦那さんでも綾のことも生活も見られたくないだろなって。家をシェアするなんてあいつには.....」
高野
「うん。それでもなんとか説得する。じゃなきゃ窒息しちゃうから。」
「え?」
びっくりした顔の悟さん。眼鏡をかけた彼は繊細な性格が年と共により前に出てきたよう。顔って不思議ね。どんな生き方をしていくかで顔は変わる。私が夫を般若と呼ぶのはまるで般若の面みたいだから。
悟さんは知的で優しい顔をした大人な男の顔。そうねぇ私には悟さんはスーパーヒーローに変身していない時のスーパーヒーローの顔。分かります?
「まっ俺は、晴れて家が建ってリビングにお邪魔したいけど。」そう言って笑ってくれた。
カイが笑い合う私達にトコトコ歩いてきて
「ままー。ままは さとちゃんとは笑ってお話するねっ。」悟さんの顔が一瞬曇った。わたしも。すぐに、ぎこちなくカイを連れて帰る私。
「じゃ、話まとまったら連絡するね〜」
「うん。待ってるよ!頑張れ 綾!」
頑張れ 綾.....うん。頑張ります。
私はついに、般若に提案します。
「綾 決まったか?どうすんだよ。家。建てるのか建てないのか。」
「建てる」
「おっ。ついにおまえもマイホーム欲しくなったか」
マイホームなんていらない。この生活にヘドが出て食器だって最低限しか揃えてないのよ。全部百均でいんじゃないか位に思ってる。
論より証拠。
私は悟さんが用意してくれた書類を出しました。
しばらく沈黙が続く。
「なんだこれ」
「うちが建てて、後の4戸は賃貸で貸す」
「他人と住むのか」
「友達家族とシェアホーム」
「誰と?」
「今度集まるから来て」
「おう。まっうちが大家ならいいけどな。楽しそうじゃない」
あら、意外にすんなりいきそう。
基本集まり大好きな般若は共有スペース以外分けられてるならオッケーみたい。
その辺は予想通りちょっとバカでよかったわ。
+++
うちの店で集まることにしたわ。
子供たちはきゃっきゃ言って走り回る。ジュリーとたっくんが汗かきながら相手をしてくれて。「ごめんね」私は申し訳なさげに声をかけた。
「あーこんにちは。高野です。」
外面は抜群に良く見せるので、たいていの人には「いい旦那さんね」といわれるの。
でもここに集まる貴婦人達はきっと『これが般若か』と思っているはず。
「いつもお世話になってます〜」
「どうも妻がいつも〜」
あこの旦那様たけしさんが
「いいですね。その家。僕らもそろそろとは思ってたんですけど今時マイホーム建てても子供が巣立ったら一軒家必要ないですしね。」
マイホームって、子供巣立つまでの時間を素晴らしいものにする為では?あこの所はマイホームいらないから、シェアホームに入りたい!と言ってくれたように私には聞こえたわね。
「今の時代、人との関わりがどんどん薄れていきますよね。せっかくの人生、子育ても、みんなが関わればより良い物になるんじゃないかなって。」
私は夢の家的なスピーチをしてみる。
「そうだそうだ。ワイワイやった方が楽しいですよ」
あこは素敵なスマイルでこちらを見る。フレー!フレー!って聞こえてきそうなスマイル。
「子育て終わったら、介護の人来てもらって老人ホームに早変わりだね!」みのりが皆を笑わせる。
かずぴの浮気旦那は来なかった.....。出張らしいの。
「具体的な間取りとか聞けますか?」
家庭内別居のゆりの旦那様。
「もうすぐ設計してくれる建築士さんが...」
「すいません。皆さんお集まりで」
悟さんのお出まし。
「なんだっ。これおまえがつくんのか?」
「うん。そうそう」
後日奥様方から返事を聞くことに。きっとみんな入ってくれそう。ひとりひとりの反応を見てそんな気がしたのよね。
店に残る私達。
「悟が作るなら断れないな」
「だろ。いいアイデアだと思うよ。シェアホーム。他人が居たほうが優しくなれるしな」
優しく.....なれたらいいけれど。
「でもさ〜あのパッとしない旦那達だろ。もうちょい経営者とか、医者とかステータス高い人が良かったなぁ」
出ました。意味不明な他人批判。きっと自分を上げるために、人を下げたがる性分なのです。
「たしか、ゆりの旦那様お医者さんだったはずだけど」
私の言葉に般若は少し動揺するもすぐに調子よく、
「えっまじで?それはびっくり〜誰もオーラなかったからさ。悟なら住みたいわー」
「じゃ、どっかに俺の部屋組み込んでいい?」
まんざら冗談でもない悟さんにピタっと会話が止まるのでした。
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