地下シェルター
ある所に、ハリソン氏という大金持ちがいました。
ハリソン氏は大変臆病だった為、自らが出資し開発された超高性能次世代型スーパーコンピューターがある演算結果を導いた事を知った時はひどくあわてふためきました
「間違いありません。地球は何か別の知的生物群の標的にされています」
ノースカロライナから来たこの研究員は、青ざめた顔でこの結果を報告しました。
「それは地球外からの侵略行為という事か?」
「恐らくそういったものかと思われます」
「いつ?」
「2年後という結果が出てます」
「迎撃できると思うか?」
「今から未知の文明を迎撃する為には、設備も時間も圧倒的に足りません」
ハリソン氏はそれを聴き頭を押さえました。
しかしそこは世界レベルのお金持ち。すぐに一つの名案を思いつきました。
「そうだ、それなら、ひとまずこの地表をその侵略者とやらに明け渡してしまおう」
「と言いますと?」
「今から、大急ぎで広い地下シェルターを建造するのだ」
「全人類が入るシェルターなんて、2年では無理ですよ」
「いや、入るのはわしや友人、そして君たち優秀な科学者や限られた軍人だ。地表が侵略された後、我々残された人類は敵の軍事力を研究しながら、地下で伏し、反撃の為の物資や兵器、作戦を整える。敵は地球を占領し慢心している筈だろう。そこを突くのだ」
「それでは残された人類は…」
「それは仕方ない。反撃した後で助けられるだけ助けようではないか」
それから急ピッチで、頑強な地下シェルターがハリソン氏の邸宅地下を中心に建造されることになりました。
シェルター内の壁や天井は、スーパーコンピュータの演算で弾き出された、侵略者の攻撃にも耐え得る最新の合金で何層にも覆われ、また何十年もの居住を想定し、施設内には人工太陽やバイオ農場、プールや遊園地なども建設されました。
それは、とても地下の光景とは思えない程に、地上の景色そのものでした。
しかしそれを見たハリソン氏の頭には、以前とは別の考えが浮かんでいました。
「ふん、何も反撃などしないでも、確実に安全なこの地下で、子供達や孫達と一生暮らしていけばいいじゃないか」
それを聞いた科学者達は反発しましたが、ハリソン氏は怒って
「それなら、君達科学者は不要だ!」
と言い、科学者達を放逐しました。
それから2年経ち、ハリソン氏は、完成したシェルターに自分の一族や友人のお金持ちを集め、地上と別れを告げました。外との連絡通路は厳重に閉ざされ、隠されました。もう二度と開くことも無いでしょう。
「さあ皆、これからはここが地球だ。それぞれ協力して平和に暮らしていこうではないか」
ハリソン氏は地下の地球に建造した自身の銅像の前で、高らかにそう告げました。
一方その頃。
そのシェルターのちょうど真下、これまた地中にぽっかり空いた空間で、侵略者達が相談をしていました。
「よし、いいか、いよいよ反撃の時だ」
「我らの地球を取り戻すのだ」
「この時を何百年待ったことか!」
「この狭い地下に潜り、反撃の機会を与えてくださった先祖の方々に感謝する。あの宇宙からの侵略者どもから、地上を奪還するぞ!」
それからしばらく経たないうちに、ハリソン氏のシェルターは、その更に下のシェルターに潜んでいた『侵略者』によって占領される事になります。
何故ならハリソン氏は、地上からの攻撃を想定して、壁や天井を強固にするばかりで、シェルター内の地面はほぼそのままにしていたからです。
しかし幸いなのは、長く地下にいた侵略者達に取って、その目に映るシェルターの中の景色は紛れもなく本物の地上に見えており、まさかその上に本物の地表がある事など、考えもつかない事でしょう。
終わり
星新一先生大好きです。
どかちのショートショート @dokati
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。どかちのショートショートの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます