無気力が極まったら彼女ができて、助けてくれた親友と一緒に幸せになりました
「えー、なにー?五月病?」
「うーん、そんな感じー、なんかやる気でない、って感じでさー」
気を引く為の嘘、彼はそう思う事すらできない。
「もう、夏休みだよー?何言っちゃってんのー」
相変わらず、このクラスの陽キャ女子の声は大きくてうるさいが、頬杖をついて窓の外を眺める彼にはBGMにもなっていなかった。
「本物の無気力症候群を経験してから言えっての。大丈夫か
「・・・」
「全く、なんでそうしていてテストで好成績残せるのかが不思議だぜ。もう帰るか?今日は一段とひどいぞ?」
仁志は無気力症候群にかかっている。
高校へは勇人が引っ張るように連れてきて、三限目だと言うのに、一限目の授業のままの机がその証拠である。
原因ははっきりとしていない。ある日突然学校に来なくなった二ヶ月前、病気や怪我もしていないので、精神的ショックを受けてこうなったのは間違いないだろう。
「とりあえず、保健室行くか?な?」
勇人によって連行される仁志の姿は、一ヶ月で当たり前になり、夏休みを控えた教室喧噪によって、二人の姿は気にされなくなっていた。
ただ一人を除いては。
「
「ううん何でもない」
保健室へと連行された仁志、保健の先生は仁志の姿を見ても、溜息を付くことなく暖かく出迎えた。
「仁志くん、眠そうね。ベッドで寝てしまう?」
「・・・」
「寝るってさ」
勇人は、仁志がほんのわずかに頷いたを見逃さず、先生に仁志の肯定の意を伝えた。
「一番奥を使って」
勇人の介助で仁志はベッドに寝かされ、すぐに寝息を立てた。
「どうしちゃったのかしらね」
「常にこの状態じゃ無いから俺も分からないんっすよ」
「親御さんは医師の診断を信じようとしないし、いよいよ保護を考えた方がいいかしらね」
腕を組むように頬杖をついた先生は、最後の手段を考えている。
「学校側から病気療養の休学を言い渡すことはできないんですか?」
「診断書があれば可能ね。でも、あなたじゃ、取れないわよ?」
「俺から、仁志のお祖父ちゃんかお祖母ちゃんに連絡してみます」
「分かったわ。私は保護の検討を職員会議にかけておくわ」
その日、仁志はお昼ご飯も食べようとせず、放課後には勇人に連れられて帰った。家に帰り着き、仁志を部屋に入れると、勇人は自分の家に帰る。
そのまま、夕ご飯も食べずに、朝まで仁志の部屋の明かりはつきっぱなしだった。
そんな部屋に入って勇人は絶句するしかない。薬でもやったのかと思うくらいに、仁志の目は座ったままに隈ができ、だらりと垂れた腕に、股部分は濡れて異臭がしている。
今まで最もひどい様子だ。
「お前」
「あー、ゆうと、おはよー」
挨拶ができると言う事は、時間感覚があるらしい。だが、声に覇気はないし、顔は笑っているようで目が死んでいる。
勇人はスマホを取り出して、すぐに仁志の祖父へ連絡、妻と一緒にすぐに向かうと言った宣言通り、三十分もせずに到着した。
仁志の祖父母は仁志の様子を見て絶句、体を触って絶句、すぐに精神科を有する総合病院へと連れて行った。
仁志の両親は、昨日から帰ってきていない。そんなことはキッチンを見れば勇人にだってすぐに分かる。
壁にもたりかかるように、壁を殴った。
「何があったんだよ、仁志・・・」
遅刻しつつも、学校へ行った勇人は、仁志の事を担任と保健の先生に報告、そして、放課後に仁志の祖父が学校へきて、仁志の報告を聞いた。
「まずは、勇人君、知らせてくれてありがとう。仁志は入院の必要までは判断されなかったが、通院の必要があると診断が下った。学校も無理だろうとね。重度の無気力症候群と、軽い幼児退行だ。仁志はしばらくわしらが預かる。あ奴らには任せられん」
勇人はふと思う事があった。仁志の両親はそんな人たちではなかったはずだ。
「すいません。もっと早く連絡していれば、こうはならなかったと思います」
「親友とは言え、他人は他人だ。それに、君は高校生、家庭の事情に首を突っ込み切れないと言うは、分かっているから、そう気に追わないでくれ」
「ありがとうございます」
「それで、仁志は休学をさせたいと思う。わしらでも手続きはできるだろうか?」
「直系の祖父母であることが確認できる書類と、お爺様の本人確認証があれば可能です」
仁志の祖父は先生たちと必要な物を話し合い、終わったころ合いを見計らって、勇人は声を掛けた。
「あの、おじいさんたちが来るまで、仁志はある事を口にしました」
「それは何だ?」
「どうやったら誰にも迷惑を掛けずに消えられるのかな、って」
「「「「なっ!」」」」
土台無理な話だ。必ず誰かに迷惑がかかる。そんな方法があるのなら、それこそ神隠しであろう。
「そこまで放置していたのか、子供を、仁志を何だと思っている・・・」
怒りを抑えるように、仁志の祖父は震えながらつぶやいた。
「あのー?」
「ん?なんだね、君は」
「
機嫌の悪い仁志の祖父に、担任が告げた。
「と言う事は先生に用事かね?もう、退散するよ。待たせたのならすまないね」
「あ、いえ、その、仁志君のお祖父さんですよね?」
「そうだが、仁志を心配しているのかね?」
とりつくろった優しい声なのは、この際、仕方のない事だろう。
「えっと、はい。もしかしたら、なんですけど私が話した内容が原因かもしれません」
「それは聞きたいな」
担任が椅子を用意してそこに衣代が着座し、座った状態で話をする。
「ある日、バイトの相談をされたんです」
「バイト?金銭的には、仁志には必要ないはずだが」
「それが、社会勉強の一環でやるように言われたようで」
「分からんでもないが」
「で、理由を聞いた時に、最近親が冷たい気がして、家に居辛いからとも言ってました」
それが理由として、無気力症候群を発症する程に重い事かと言うと、一般的な感情としては判断し辛い。
「ただ」
「ただ?」
「私、相談される前に、ある場所で仁志君のご両親を見たんです。あっち系のホテルに別々の人と入っていくのを」
あっち系のホテルとは要するにラブホテルの事である。
衣代のバイトする店と衣代の家までの距離、実はホテル街を通ったほうが早い。たまたま遅刻しそうになって通ったら、見てしまったのである。
「それを話したんだな?」
「はい。その、ご両親が冷たくなった時期と一致するみたいで」
「その、いつ頃の話だい?」
「えっと、半年ぐらい前です」
まとめると、半年前に仁志は両親が両方浮気しているを、衣代伝手に知ってしまい、今の状態になってしまったのではないか、と言う事だ。
「昔から、仁志は抱え込む質で、自分で確認するまで納得しない質なので、誰かに話すこともできずに悩んでいたかもしれません。なんで話してくれないんだよ・・・」
「家庭の事情だから外に言い辛かったんだよ。そうか、と言う事は決定的な証拠を持ってる可能性もあるな。事実確認ができたら仁志はわしが引き取る。任せられん」
「会う事は出来ますか?」
「うちに来るとよい、友人なら歓迎だよ。病院も友人の協力は必要だと言っていたからな」
勇人と衣代は、仁志の祖父の車に乗り、仁志に会いに行った。
仁志の祖母に出迎えられ、案内された先は縁側、仁志は縁側に座って足をぶらぶらさせ、空を眺めているようだった。
仁志の祖父母の家は、現代的で大きい母屋に、敷地内には古民家の離れがある。
仁志がいたのはその離れの古民家の縁側、赤く染まった空に何を見ているのだろうか。二人には到底分からない。
「仁志」
「仁志君」
「勇人と、衣代さん?どうしたの?」
「お前の顔を見たくなったんだよ。ここも懐かしいな」
「目の前の川でよく遊んだよね」
勇人は仁志の隣に腰を下ろして、昔話に花を咲かせる。衣代もつられて勇人の逆側に腰を下ろした。
「衣代さんは初めてだよね。結構いいところでしょ」
「そう、だね。都会感がなくてのんびりできそう」
しかし、仁志の顔は一切笑っていない上に、目には光がない。
その日から、衣代と勇人の戦いが始まった。
勇人は毎日、衣代はバイトがない日に、必ず仁志の下を訪れた。ある日はおしゃべりが進み、ある日は一緒にゲームをして、ある日は帰れと罵倒され、ある日は一切を無視された。
ほぼ無視の日が多いだろう。帰れと罵倒されるのは心に来るものがあるのだが、意思表示が可能であるだけ幾分マシに感じてしまう程だ。
そこで、勇人も衣代もある事に気が付いた。それは、一時期の記憶が抜け落ちている事である。
抜け落ちた記憶は主に四つ、バイトの話から悩みを引き出そうとしたところで、バイトをしようと思ったことはないと言い、今年の体育祭の話では参加していない、の一点張りだった。そして、両親の名前が祖父母の名前になっていた。
原因が両親にある事は、二人でも簡単に分かった。
八月の初め、このことを仁志の祖父に報告すると、そうだろうな、と言う答えが返ってきた。
「その両親なんだが、仁志の親権を俺が奪った。興信所が三日でケリを付けて、弁護士が一週間でケリをつけてくれたよ。仁志の住所書き換えも終わった。復学してもここから通うことになるから」
「「分かりました」」
これで仁志の生活環境が良くなることは間違いない。だからと言ってすぐに治ると言うわけでもない。
九月に入っても足しげく通う二人、その内、罵倒されなくなり、無視される日が少なくなっていた。
その九月の終わり、よほど調子がいいのか、その日、二人は仁志から初めて謝罪されることになる。
「二人ともごめん。俺なんかの為に、こんな」
「なんだよ、俺とお前の仲だろ?気にすんじゃねーよ」
「私も、首突っ込んじゃったからね。船に乗ったら最後まで乗らないとね」
「ありがとう」
隼人に肩を組まれ、衣代に笑顔を向けられ、仁志は笑顔を返した。
仁志の目は申し訳なさそうに、ちゃんと笑っていた。勇人は今しかないと思って、声を掛ける事にする。
「なぁ、話してくれよ、何があったのか」
「何が?」
「悩みがあったんじゃないのか?」
仁志の笑顔が曇ってしばらく、その五分足らずの時間は、二人にとって何倍にもなっていた。
「前に、衣代さんが教えてくれたじゃない?親が、両方そろって不倫してるって」
「うん、そうだね」
「無理やり時間作って確かめたんだ。そしたら、ぐうの音も出ない程の真っ黒でさ。その時さ、頭の中に真っ先に浮かんだんだよ。『あ、俺、捨てられるな』って。当時は冷たくされてたし、家に帰れば二言目にはバイト、しないならご飯作れ、って」
仁志は左手を眺め、いくつかの消えない傷を二人に見せた。
「手を切っても下手くそだの、汚いだの、病気がうつるだの、心配なんてしてもらえなかったんだよね。お弁当も作らされて、おいしいなんて言ってもらえなかったよ」
「なんで相談してくれなかったんだ?言い辛かったか?」
「殴られたくなきゃ、外で家のことを話すなって、親父にボコボコにされたんだよ」
「ってことは、あれは喧嘩じゃなかったのか。父親が怖かった。そりゃ、辛かったな」
学校に来なくなる一ヶ月前、四月初旬頃、一日学校を休んだ後、頬に青痣を作って登校している。
「『お前がいなければ』ってまで言われてさ、『あ、俺に存在価値がなくなったんだな』って思ったら、どんどん何も手が付かなくなっていってさ。何度刃物を手首に当てた事か。でも、そんな度胸は俺になくて、成績がいいのも当たり前だし、勉強にも手が付かなくて」
「そんなこと言ったって、悪くなったと言っても、お前は成績トップ層にいるんだぞ?」
「正直、何であそこまでできるのか分からないんだよ。授業だってまともに聞いてないのにさ、なんか解けるんだよ」
「今度はそれが怖くなったわけだ」
「いや、どうやって解いたのか、思い出せないんだよ。怖くはないけど、不思議な感じ」
仁志は首を左右にゆっくり振ってからそう答えた。
「それはそれでいいとして、結局、居場所がなくなる恐怖に支配されてた。ってことだな」
「たぶんそうだと思う。はっきり覚えてなくて。ごめん」
「謝んなって、俺らは攻める為に聞いてるんじゃないんだ」
「そうだよ。仁志君には、まず吐き出してもらうのが一番かなって」
「ありがとう」
仁志は頭を下げた。
「んで、恐らく、恐怖心に取りつかれて、何も手に付かなくなっていった。今はどうだ?」
「祖父ちゃんも祖母ちゃんも優しいからさ。料理作らなくていいし、小腹が空いたら何かくれるし。縁に座ってたらさ、祖父ちゃんも祖母ちゃんも隣にやって来て、いつまでもいていいからなって、俺、大泣きしてさ」
「居場所を得られたわけだね」
「うん。捨てる神がいれば拾う神がいるって、そう言われて、俺、耐えきれなかった」
頬に涙を這わせて、鼻をすする。
「二人も、文句の一つも言わずに会いに来てくれて、それなのに、俺」
「いいって。お前は一度壊れたんだ。壊れたものを直すって、面倒なもんなんだよ。上手く行かないもんなんだよ。お前は治って来てるんだ。気にするな」
「でも」
「謝らないといけないのは、寧ろ私たちの方だよ」
「気づてやれなくてすまんな。お前の両親の外面の良さには呆れたし、こうなったのも原因は両親なんだ。お前は被害者なんだよ。気にするな」
何度も頷いて返したのだった。
こうして、仁志の中に明確な敵としての両親が生まれ、急速に精神が安定し、十月半ばには復学した。
何もなかった、とは言えない。
と言うのも、衣代が女子たちよりも仁志と勇人と良くつるむようになったからである。
「ねー、衣代、仁志君が休学してる時もそうだったけどさ、付き合い悪くない?」
「ごめん・・・」
「まぁ、いいんだけどさ。で、どっちか好きになった?」
「え」
衣代は指摘されて頭に血が上っていき、話しかける女子は耳まで真っ赤になったのを見て、少し引いている。
「ほんとなの・・・」
「・・・」
「じゃぁ、どっちが好きなの?」
「え、えーっと」
そうやって逃がさないとばかりに、昼休み中いじられ続けた。
衣代が女子にいじられて、教室がうるさくなった数日、仁志は休み時間に寝ているようにも見えるように、机に伏していた。
「仁志君、どうしたの?眠い?」
衣代に声を掛けられて、仁志は顔を上げた。
「いや、将来の事を考えてたんだ」
「将来?」
「うん。俺は拾う神になれないのかな、ってさ」
「拾う神?カウンセラーってこと?」
「うん、そう言う感じ」
「いいんじゃないかな?経験があるのとないのとじゃ、言葉の重みが違うよ」
「そっか・・・」
予鈴が鳴り、会話はそこで途切れてしまった。
昼休み、怖いから机に伏すのはなしだと怒られて、それ以外は日常になってしまった三人での昼食、勇人にはいつか起業して社長になると言う夢があった事を知った。
「起業する時の副社長になってほしいってわけか」
「そう言う事、お前の頭の良さは天才だと思うんだよ。復学して一発目のテストが満点で、学年一位だし、こんなやつ逃さない手はないだろ?」
「そうかなぁ。衣代さんは何かあるの?将来の夢とか」
「私は・・・パティシエになりたいかな。甘いもの好きだし、今バイトしてるところが、洋菓子屋さんなんだよね」
仁志が休学している間、偶に店のあまりもの、マドレーヌやモンブラン、ティラミスなんかを手土産にもってきていた。
「洋菓子、パティシエか、他人の幸せに立ち会うだろうから、結構いい仕事だろうな」
「あのお店のケーキ美味かったしな。そこで修行するの?」
「うん。最終的には自分のお店かな」
「いいね、一城の主ってわけだ」
将来の話に花を咲かせ、昼休みは終わっていった。
放課後、仁志は祖父の家から通学するようになって、帰り道は勇人と正反対になった。その代わり、帰り道は衣代と同じになった。
バイトがない衣代は、仁志と一緒に帰る時、偶に仁志の家に遊びに行く。
現状の仁志は離れの古民家に住んでいる。祖父母にお返しがしたいと言って頑固になり、古民家の維持の為に使わせているような状態だ。
衣代だけではないが、仁志の家に遊びに行くと、大体離れに通される。
「畳って、みょーに落ち着くよね」
「ここの畳は本物で、一般的なのより柔らかいからね。それに、畳は日本人の心みたいなものなのかもね」
「こういうところで、和風洋菓子出しても面白いかなー」
「和風洋菓子とか言うパワーワード感、やばいな」
「なんとなく言って見たけど、ほんとだね」
そうやって笑っていると、仁志の祖母が離れに訪れて、ゆっくりして行っていいからね、とお菓子とジュースを置いて行った。
仁志の祖母が母屋に戻り、衣代はおずおずと言葉を紡いだ。
「仁志君、私、ね、仁志君の事好きみたいなの。それで」
仁志はその言葉を最後まで黙って聞いた。
「私と、その、付き合ってほしい」
「一度壊れたものは、また壊れるよ。それでもいいの?」
「うん。私、罪悪感とかで言ってるんじゃないの。友達と話して、心は確かめてる」
「また、迷惑かけるかもよ?」
「迷惑だと思うんなら、私はあんなに会いに来ないよ」
その告白は仁志にとって異常に心苦しく感じられた。だが、仁志は答えを保留にすることもせず、その気持ちに答える事を優先した。
「ダメ、かな?」
「ダメじゃない。正直、衣代さんとは一緒にいて心地よかったし、俺も好きだ」
「じゃぁ!」
「よろしくね」
「うん」
衣代の告白が成功して翌日、関係性が変わったことはすぐにばれて、学校中に広まった。衣代は祝福されたが、仁志は一部からやっかみを受けることになる。それくらい、男子には人気があったりする。
そのやっかみも、数日我慢すると、なくなってしまった。
「仁志はジングルベルで、俺はシングルヘルかよ」
「好きな子いないの?」
仁志の腕を抱く衣代は、仁志に対するやっかみもあったこともあり、教室でも見せつけるように一緒にいる。
「いない事はないけどな」
そんなダダ甘い空間に入って行ける勇人も勇人であろう。それくらいに、衣代も勇人に心を許している。
「そっか・・・でも、案外ジングルベルだったりするかもよ?」
「はー?」
くすくすと笑う衣代に、少しだけにやついた笑顔をする仁志、勇人には意味が分からなかった。
十二月も後半、クリスマスイブに仁志に呼び出された勇人は、イルミネーション広場に居やってきた。
恨み言の一言でも言ってやろうと思っていたのだが、そこには仁志と衣代以外に、もう一人、女の子がいた。
「えーっと、ん?」
訳が分からないと言った様子の勇人に笑う二人と、顔が真っ赤な一人だ。
「なんで、
「話を聞けばわかるよ。さ、頑張って」
「はい」
衣代に背中を押された栞は、クリスマスイルミネーションを背景に勇人に告白をした。
「そっか、そうだったのか」
勇人の妹と仲良くなったのは、初めから勇人が目的で、勇人の妹も、利用されているのが分かった上で付き合っている。その妹も栞の弟と仲がいい。と言うか、既に付き合っているし、馬が合うので気にしていない。
「その、好きな子がいると聞いて、いてもたってもいられなくなって・・・嫌いになりましたか?」
「そんなことないよ。俺の気になる子って、君の事だし?」
そう言って頭をかいて見せ勇人、栞の顔はぱぁっと明るくなった。
「いいよ、付き合おう。よろしくな」
「よろしくお願いします。先輩!」
栞はそう言いながら思いっ切り勇人に抱き付いた。
イルミネーションの前で新たなカップルが生まれて、クリスマスイブはダブルデートとなり更けて行った。
数年後
勇人は思った以上にやり手だった。大学在学中に会社を立ち上げると、一気に会社を大きくした。
そんな勇人の隣には、妻兼秘書の栞、スクールカウンセラー兼副社長の仁志がいると言う。
また、衣代はあの古民家で、和風洋菓子店を開業した。
そこには和風洋菓子を求めるお客さんの他に、事情を抱えた少年少女がいる。仁志のカウンセリングと、衣代の和風洋菓子によって、笑顔になった少年少女は、ケーキを一つ持たされて帰るらしい。
そんな和風洋菓子店の名前は、『古民家和風洋菓子店 わらしのよりしろ』と言い、何十年も『わらより』として親しまれた。
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