第8話「評価は☆5限定でお願いします」
「いくらうちが格安とはいえ、さすがに金の方は大丈夫なのか?」
モーニングセットを食べている
「んー、まあ、そろそろお小遣いの方も尽きそうですけどね」
「こっちも慈善事業じゃないんだから、ただでは泊めさせねえぞ」
初日は不憫に思って奢ってやったが、それ以降は
「うーん、それは困りましたね」
「親に文句言えないのか?」
「あはは……子供の言うことを聞くような親じゃないですよ」
同情はするが、赤の他人の家庭に干渉するわけにはいかない。積極的に動くべきは俺ではなく行政だろう。
「虐待ってなら児相(※児童相談所)に訴えるってのもできるが」
「ま、虐待までは行ってませんからね」
「10代の子供に対しての育児放棄も『虐待』に入るぞ」
高校生とはいえ、子供の世話をするのが親の役目であろう。
「わたしはあまり干渉されるのも好きじゃないんで、訴えたあげく、親が改心して干渉されまくったら、それはそれでイヤすぎますよぉ。そうなったら恨みますよ」
「……」
それもそうだな。
「あ、そうだ。いい方法があります。先輩の――」
「却下!」
「まだ、何も言ってませんよ」
「俺の部屋に泊めろっていうんだろ? 俺を犯罪者にする気か!」
「部屋の作りはおんなじなんですよね。どこに泊まっても変わりませんよ」
「却下!」
「先輩、優しくないです」
「そもそも、俺と
しかし、困った母親だ。こういう場合は、親に自覚してもらうべきなんだが、俺が言うのもおかしいよな。母親に「あんた誰?」と不審がられるだけだ。
そもそも恋愛は自由だ。父親がいないのだから、誰と付き合おうが母親の勝手だろう。
「
雪姉が
「わっかりました。雪姉さま」
なんか違和感のない会話だな。
「雪姉、いつの間に
「あらあら、そんなに珍しいことじゃないでしょ? 亮ちゃんだって
「
「あ、先輩、ひっどぉーい」
時々ウザくはなるが、そこそこの心地よさもあった。それはある程度、距離を置いて付き合っているせいであろう。
そう思っているのが俺だけであることに、この時点では気付いていなかった。
**
「ね、亮ちゃん」
クロージング作業をしていると、雪姉が声をかけてくる。
「どうしたんですか?」
「今、ヘルプで花音に入ってもらってるけど、あの子も今年受験なのよね」
そういえば3年生だったもんな。
「そうですね。負担、大きいですよね」
「レンちゃんがいてくれればよかったのだけど」
「あの子、就職が決まってましたからね」
レンちゃんというのは、少し前まで働いていた大学生の女の子だ。豊満な胸が特長的で、雪姉に次ぐ集客力を持っていたという。
まあ、ブックカフェで店員目当てだったかどうかは、俺の私感でしかないが。
「だから、新しいバイトの子を雇おうと思うの。いいかしら?」
「良いも悪いも、ここは雪姉の店じゃないですか?」
「新人の指導は亮ちゃんにもお願いしたいからね」
「あ、そういうことですか。別に構いませんよ」
「そう、ありがとう」
「で、求人は例のとこに頼むんですか?」
繁忙期なんかは臨時バイトをネットの求人広告に載せている。今回もそれでいくのかな?
「ううん、もうバイトの子には目を付けているの」
「知り合いの子ですか?」
「亮ちゃんも知ってる子よ」
背筋がぞぞっとくる。これは嫌な予感であり、この勘はよく当たる系統のものだ。
「まさか」
「そう
「いつの間に
「昨日、亮ちゃんがいない時にちょっとね。それに私、彼女とLINEしてるから」
「はぁー、そうですか」
まあ、あいつの人間関係をきちんと把握しているわけじゃないからな。
「そういうわけで、亮ちゃんさえ問題なければ明日から働いてもらう事になるわ」
急な話ではあるが、花音が受験生だってのは事実だしなぁ。無理をさせるわけにもいかない。
「わかりましたけど……」
何か釈然としないというか、モヤモヤするな。
「何か問題ある?」
「いえ、ただ、あの子に接客とかできますかね?」
「かわいらしい子じゃない。あの子目当てのお客さんとか増えそうじゃない?」
「ははは……まあ、それは否定しませんけど」
ダミーの部活を作って、男子たちに愛想を振りまいているのだからな。
ただなぁ……。
俺が
なんというか、微妙な気持ちだ。
適度な距離を保つのが難しくなってしまうではないか。
**
閉店後の店内。
「着替えてきました」
奥の事務所から出てきたのは、メイド服を着た
ど派手な萌え系メイド服ではないので、違和感は全くない。着させられている感すらなく、カフェの空間にしっかりと馴染んでいた。
「
「ありがとうございます。雪姉さま」
はにかみながら軽くお辞儀をする
「先輩は、何か感想はないんですか?」
「感想? なんのメリットがあってそれを言わなければいけないんだ?」
「褒めてくださいよ」
「褒めるの限定かよ! 感想だろ。言わない自由も認めろよ」
「わたしは褒めて伸びるタイプなんです」
「今日はただの衣装合わせだろうが。それ、もともと他の従業員が着ていたものなんだから、似合うか似合わないかじゃなくて、動き易いか動きにくいかだ」
「それは大丈夫だと思いますよ」
「じゃあ、俺が言うことはない」
「先輩はわたしの上司になるんですから、わたしへの評価は大切です」
「感想じゃなくて評価でいいのか?」
「あー、言葉のアヤですよ。評価は☆5限定でお願いします」
「やっぱ褒めるの限定じゃねえか」
俺たちのそんなやりとりを見て、クスクスと笑う雪姉。
「
雪姉が
「サイズぴったりですね」
「レンちゃんのお古だけど、これなら仕立て直さなくてもオッケーね」
ちなみにここはチェーン店ではないので、メイド服は叔父が作っている。と説明すると、まるで叔父は変態のように聞こえるが、もともとデザイナーであり、アパレル業界で働いていたこともあるのだ。
「こういう服って憧れだったんですよね。自分で着てみないとわからないところとかあるじゃないですか」
「わからないところ?」
◇次回「先輩はわたしの手のひらで転がされるべきなんです」にご期待下さい!
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