第12話

「陽菜がおれの部屋にいるの新鮮だなぁ。」


琉羽は自分の机に腰掛けて私を見る。


「琉羽と違って私はあんまり琉羽の家来ないからね。」

「母さんがよく会いたいわって言ってるから来ればいいのに。」


"こんな娘が欲しかったわって言ってるよ。"と笑う。


「うちの母様も息子がほしいって言ってるよ。子ども、反対だったら良かったのにね。」

「そうか?おれは折山でよかったって思ってるよ。」

「うちの母様好きでいらんないもんね。」


いや、こんな皮肉のようなことを言うつもりはなかった。

誤魔化すように視線を動かすと、昔琉羽の誕生日に私があげた狼のぬいぐるみが目に留まる。

ベッドの上に座りそのぬいぐるみを取ると、いつの間にやら近くに来ていた彼に没収された。


「まだ持ってたんだそれ。」

「まぁ、大切だからね。」


ギシッと音を立てて隣に座る。


「ねぇ、母様とのデート楽しかった?」

「デートってなに?」

「ご飯食べに行ったでしょふたりで。」

「陽菜が来なかったから2人になっちゃっただけだよ。」

「でも嬉しかったでしょ?私みたいな邪魔者がいなくてさ。」

「邪魔者はおれでしょうが。」

「私の方が邪魔者だよ。」

「陽菜が邪魔なわけあるか。」

「……好きな人とさ。」

「好きな人?」

「そう。好きな人とさ、2人きりの時は身内だって邪魔だなって思うことあると思う。」

「な、なんの話?」


琉羽の声が戸惑う。


「私の、お母さんのこと好きなんでしょ。琉羽は、あの日からお母さんのこと…っ」

「なんで泣いてるのさ。」

「だって好きなんでしょ!?お母さんのこと名前で呼んでたし!きっキスだってしてたじゃんか!!!」


泣くつもりはなかった。

良かったじゃんって言ってやるつもりだった。

でも、口を開いて出てきたのは今までずっと我慢していた感情だった。


「キス?キスってなんだよ。」

「お母さんとキスしてた。中学の時。そしてその口で!いつも私にマーキングして!どうせ私はお母さんの代わりで…邪魔者なんでしょ!?」


全てを吐き出してしまい、少しの後悔が襲ってくる。

こうなったら、やけくそになって子どものように大声で泣いてやろう。

そう決意した時、左肩に激痛が走る。


「いったぁぁぁぁい!!バカ琉羽!!何!?普通ここは押し倒すところでしょ!?!?」


肩を食いちぎる勢いで噛まれて計画は中止された。


「何馬鹿な事言ってんだよ。陽菜は陽菜で、おばさんはおばさんだろ。」

「琉羽は、それ出来てないよ。出来てないんだよ。だって分かるもん琉羽のこと。琉羽以外で、琉羽のママとパパ以外できっと私が1番琉羽のこと見てきたから。ずっと好きだったから。…あっ。」


私はなんてバカなんだ。ここまで口を滑らせるつもりは毛頭なかったのに。


「おれだってずっと…ずっと陽菜を見てきたよ。」


一瞬驚いたような顔をした琉羽は、そう言って私の首元に顔をうずめる。

その重さに耐えきれず、2人でベッドに倒れ込む。


「う、嘘つかないでよ!こんな時に!面白くないし和まないし!嬉しいけど!!お世辞だって分かってても嬉しいけど!!」

「お世辞じゃない。お世辞じゃないんだ。ずっと陽菜だけを見てたんだよ。ずっと、おれは陽菜だけが好きだよ。」

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