第9話

あれから数日。

私は、琉羽と話すことなく日々を過ごしていた。


「陽菜〜。」


文音に名前を呼ばれて振り向くと、彼女は頬をふくらませている。

相変わらず綺麗な顔だ。


「あんなやつら放っておきなよ。」

「うん。気にしてないよ。」


琉羽から離れて、クラスの女子から色々と言われるようになった。

『尻軽』や『ビッチ』は何度聞いたか分からない。

琉羽といる間に言われなかったのは、自分が人の悪口を言っているのを彼の耳に入れないためだったんだろう。


「陽菜。」

「私は帰らないからお母さんよろしく。」


琉羽に呼ばれ、話したい内容には予想が着いたので、下を向いたまま返事をする。


「喧嘩したのかよ。」

「してないよ。」

「おれ何かした?」

「琉羽が気にすることじゃないから。」


琉羽から離れたことで、お母さんと話すのも嫌になってしまい、昨日から文音の家にお世話になっている。

ただ自分が嫉妬をしたくないだけ。子どもっぽいのは理解しているけど、家にいたら呼吸が出来なくなりそうだった。


「おれを避けてる理由は何?」

「陽菜はあんたの金魚のフンじゃないの。女の子には困らないんだし、好きな人のところに行けば?」


彼の質問攻めに、文音が痺れを切らして私の前に立つ。


「は?」

「陽菜に半端なことことしないで。」


彼を睨みつけた文音は、私の手を引いて教室を出た。


「ごめん!」


手を引かれたままトイレにはいり、彼女は急に頭を下げた。


「私余計なことした!」

「んーん。私の事を考えて言ってくれたのわかってるから嬉しかったよ。ありがとう文音。文音のおかげで昨日は全然傷つくこと無かったんだ。ほんとに助かってるよ。」


笑顔で言うと、彼女は"ほんとに?"と顔を上げる。


「陽菜は折山のこと好きなのに離れろなんて言ったし、本当は辛くないのかなって思ったし、ほかの女子たちから色々言われるようになっちゃったし、私が言い始めたことだけど無理しなくていいんだよ。」

「あはは。心配性だな文音は。確かにきっかけは文音の言葉だったかもしれないけど、決めたのは私だからいいんだよ。どうせお父さんがいる間は琉羽の恋は実らないんだし、今のうちに女磨きして琉羽を振り向かせるから。」


"だから文音の力も貸してね。"と手を差し出すと、"当たり前だよ"と手を握り返してくれた。

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