第8話

「さぁ全部吐きなさい!!」


次の日。

授業もホームルームも終わり、部活をしている人たちがそれぞれの活動場所に消えたのを確認して、文音は私の目の前の席に勢いよく座った。


「そんなに話すことは無いよ?」

「陽菜はそう言っていつもなんも教えてくれないから大したことなくても全部言って!」


いつにも増して勢いのある文音に負けて、数年前の出来事を話し始める。


「まぁそんな感じ。」

「…陽菜ママ気持ち悪いよ。人の母親をどうこう言うもんじゃないのは分かってるけどさ。」

「あはは。文音が普通の感覚でいてくれて私は嬉しいよ。」


にこにことしていると、片手で両頬を持たれてすごい顔になる。


「ぬに?(なに?)」

「あんた少し折山と距離置きなさい。毎日毎日一緒にいるから感覚麻痺してるのよ。なんであんたを守らなきゃいけない母親のせいであんたが傷つくのよ。いい!?学校に来る時も帰る時も私と一緒だからね!?朝も私が起こすから折山が来る前に出てきなさい。」

「えー。」

「えーじゃない。」

「ふぁい…。」


傍から見たら、文音の行動はおせっかい極まりないことかもしれないが、私には願ったり叶ったりだ。

最近は、琉羽とお母さんの組み合わせを見ることが辛くなっていたし、合法で琉羽をはぐらかせるならなんでもいい。

早起きは苦しいが。


「絶対よ!」

「わはっははらはなひて(分かったから離して)。」


鼻息を荒くしている文音を制しながら拘束を解いてもらう。

少し赤くなった頬をさすりながら文音を見ると、もう既に帰る準備を始めている。


「よし!じゃあ今日は寄り道して帰るわよ!」


グッとガッツポーズをした文音に首を傾げる。


「寄り道?」

「そう。いつも陽菜は折山といて放課後に遊びに行ったり出来ないから今のうちにね。」


ウインクしている文音を笑顔で眺めながら、そんなに一緒にいただろうかと再度首を捻る。

一緒にいたというかついてきていたという表現の方がしっくりくるな。


「おーい。陽菜、行くよ。」


肩を叩かれ、"うん。"と返事をして立ち上がる。

目の前の楽しそうな彩音を見て、確かに彼女と遊ぶのは久しぶりかもしれないと何となく思った。

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