第25話 逆転の話
試合はイルの有利かと思われたが、一変しシオンのほうに流れが傾いていた。
イルの繰り出す身体強化魔法は全てシオンの〝不可説不可説転〟によって打ち消される。
その度にイルは体のバランスを崩し大きな隙を生んでしまう。
そこにシオンのカウンターが入り現在イルは防戦一方であった。
それは観客席から見ている俺たちにもすぐ分かった。
「なぜあの魔剣で斬られるとイルはバランスを崩してしまうのですか?魔剣に斬られても魔法発動前に体が戻るだけでそこまで影響があるとは思えないのですが……」
ビエーブは不思議そうにそう尋ねてきた。
「そうだなー」
俺は少し複雑なので自分の中でしっかりまとめてビエーブの疑問に答えることにした。
「まずビエーブが1番わかってると思うが魔力をコントロールする感覚は人それぞれ違うだろ?」
俺の問いかけにビエーブは頷く。
「つまり魔法を使う時も解除する時も自分の体にあったやり方ってのがあって鍛錬していくうちに自然と感覚的に覚えていく。しかし〝不可説不可説転〟で斬られると他人に強制的に魔法を解除させられることになるから体に不調が現れる。だからイルはシオンに斬られる度に体内の魔力バランスが乱れて隙を生んでしまうって訳だな。」
ビエーブは黙ってその話を聞いていたが、すぐに口を開く。
「それってつまりイルは魔法を使う度に隙を生むということですよね?」
俺は黙って頷く。
「これは予想以上にイルの不利ですね。」
ビエーブはそう戦況を分析したようだった。
イルには何か次の作戦が必要だった。
「あーんもう!戦いにくい!」
イルは戦闘中にも関わらず思わずそう愚痴ってしまう。
自分の魔法は解除される、それだけかなり厄介なのにシオンは自然とイルの動きのパターンを読めるようになってきているのだ。
「全くもうアンタはいつも規格外よね」
イルは昔のことを思い出していた。
シオンは私にとっていつも規格外な存在だった。孤児院に通い始めた頃私はリップとビエーブに上手く話しかけることが出来なかった。もちろん差別意識なんてなかったが幼い私はどうしても自分とは違うその姿形に緊張してしまい、他の子と同じように接することが出来なかった。しかし後から孤児院にやってきたシオンはなんの壁も感じさせることなく2人と交流していた。私はそれがとても羨ましくて2人だけの時に1度尋ねたことがある。
「シオンはどうして他の子と同じようにビエーブとリップに接することが出来るの?」
するとシオンは私の質問にキョトンとした表情で答えた。
「私ビエーブとリップと話す時というか誰と話す時も〝他の子と同じ様に〟なんて考えたことないよ。」
意外な答えに私は少し戸惑う。
「どいうこと?」
「だってみんな違うのは当たり前じゃん、同じ人は居ないよ。でもビエーブもリップも私達人間もお腹空くし眠くなる、みんな違うけど同じ所もある。だから種族の違いなんて私にとっては髪型の違いと同じくらいなの」
幼い頃の私にはその考えが衝撃的だった。
皆同じに接しようとするのではなく〝みんなそれぞれ違う〟ということを受け入れることが私の問題の解決策だった。
彼女は私と変わらない歳でその本質を見抜いていた。
私は彼女を尊敬した。
どこか私の敵わない何かを持っている彼女は私にとって憧れで羨ましかった。
私は〝シオンがロゼッタのリーダーであるべきではないか〟という気持ちが拭いきれないままでいる。
私よりも快活で明るくいつもみんなを照らす太陽のような存在、そして何より本質を見抜く力がある。
だから最初はシオンがリーダーになるもんだと思っていた、だけど3人は私にリーダーを任せてくれた。
それが今も正しかったのか、私はみんなを正しく導けているのか、私がリーダーでなければ〝最弱〟なんて呼ばれなかったのではないか?
そんな疑問が頭の中を埋め尽くす日々だった。
だからこそ、ここでシオンに勝つことで何か変わるのではないか。
私はロゼッタのためにもここで勝って私自身にリーダーであることを示さなければならない!
だから負けられない!!!
イルは渾身の力を足に込め一気にシオンとの距離を詰める。
だがそのスピードにシオンはちゃんと付いてくる。
イルの放った拳を魔剣〝不可説不可説転〟で斬りつける。
しかしイルの勢いは止むことなくシオンの右頬に拳が到達する。
久しぶりにイルの攻撃がシオンにヒットした。
会場はざわめく。
{あとがき}
次回は明日の20時頃に投稿予定です。
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