第24話 イルvsシオンの話

「いつか来るとわかっていたけど、こんなにも早くアンタと戦う日が来るとはね。」


イルは両手の骨をパキパキと鳴らしながらリングに上がる。


「私も決勝であたるのが理想だったんだけどね」


シオンは魔剣では無い方の剣を構える。


二人の間にそれ以上の会話は必要なかった。


カァンという試合開始を告げるゴングが鳴り響く。


その瞬間イルはすごい速さで自身に身体強化魔法を掛け、シオンとの距離を詰めて拳を放つ。


シオンは魔剣ではない方の剣でそれを受け止め、数メートル後ろに下がる。


しかしまだイルの攻撃は続く。


直ぐにシオンの背後に回り込み足払いを繰り出す。


パンチを警戒したシオンは足元のガードが緩くなっており、もろにイルの足払いを食らってしまう。


イルはバランスを崩したシオンの腹目掛けて右ストレートを仕掛ける。


シオンはやむを得ず剣を離し両腕でイルの拳を受け止める。


魔力効率化術式を使ってないにしても筋力増強(中)を施されたイルの拳を素手で受けるのはかなりキツイ。


シオンの体に重い衝撃が走る。


「ぐっ」


という声を上げシオンは後方に飛んでいく。


そしてリングに背中から落ち仰向けに倒れる。


剣を離し重い一撃を喰らった今のシオンはもはややられたい放題だ。


イルは前に飛び地面に倒れているシオンに向けトドメの一撃を決める。


しかしシオンはイルが真上に来る前に後転し、両手が地面に着いた瞬間に身体を押し上げる。


そして空中で2回転し綺麗に着地する。


イルの攻撃ははずれ拳は地面に叩きつけられ、その拳を中心にリングにはバキバキとヒビが入る。


たがまだイルの攻撃は止まない、すかさずシオンに飛びかかり回し蹴りを繰り出す。


シオンは持ち前の反射神経の良さで素早く半身でそれを躱し、繰り出されたイルの足を両腕でグッと捕まえる。


「ちょっ、アンタ離しなさいよ!」


イルはそんなことをされるとは思わず焦ったような表情になる。


「いやだよん!」


イルに対しシオンはニヤッと意地悪そうな顔になるとその場で回転し始める。


もちろんイルは片足を掴まれているのでその回転に合わせてブンブンと振り回される。


「飛んでけぇぇぇぇぇ!!」


シオンは回転速度が最高に達したところで手を離しイルを投げ飛ばす。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


イルはクルクルと回転しながら弧を描いて数十メートル飛んだ。


ドォンという音と共に地面に落下し土煙が立ち上る。










「魔法が主流のこの世界でこんな肉弾戦中々ないぞ」


魔法の使えない剣士と放出系魔法の才能のない拳闘士の戦いだからこうなるのも仕方ないことだが、俺は思わずそう口走ってしまった。


「なんだかいつもの2人の喧嘩の規模を大きくしたような感じですね。」


ビエーブは少し恥ずかしいような嬉しいような顔をしてそう言った。


リップもビエーブの膝の上でコクコクと頷いていた。


そしてビエーブはこっちを向いてずっと聞きたかったとでも言うような顔で問いかけてきた。


「アレンはどっちが勝つと思います?」


その質問はやはりリップも聞きたかったみたいで興味深そうにこっちを見る。


「そうだな〜………これに関してはわからん!」


しばらく考えた後俺はそう返答した。


2人は明確な答えが貰えると思っていたのか肩透かしを食らってガクッと体を傾ける。


俺はすかさず理由を述べた。


「もちろん身体強化を使えるイルの方が有利であるが、シオンにはあの魔剣がある。それに2人とも戦闘センスはピカイチだ、どちらも戦況を覆せるポテンシャルを持ってる。」


ビエーブもリップも会得顔で頷いた。


「確かにイルもシオンもボードゲームやカードゲームで私に勝ったことはありませんけど、こと戦闘においては2人に隙を与えたら一気に巻き返される感じがありましたね。」








「はぁはぁ、わたし身体強化してんのに何で動きに付いて来れんのよ!」


イルは立ち上がりシオンを怒鳴りつける。


「ん〜、めちゃくちゃ鍛えてるから?」


シオンは自分の捨てた剣を拾いながらあっけらかんとそう答えた。


「そんな次元の話じゃないっての、フィジカルお化けめ」


イルは相変わらずのシオンの身体能力の高さに呆れたようにそう呟く。


「ただ、身体強化系の魔法はまだ切れないみたいね。」


イルは身内であるが故にシオンの弱点を知っていた。


あの魔剣〝不可説不可説転〟は魔法をも斬れるということであったが、実は斬れるのは放出系の魔法だけで身体強化系などの術者の体内で完結してしまうような魔法はまだ斬ることが出来ないのだ。


逆に言えば《シルビア》などの魔法は斬られてしまう可能性があるので、イルの使える魔法は身体強化魔法しかなかった。


それ故にイルは即座に接近戦に持ち込みシオンが自分の動きのパターンを読み切る前に決着を付けようとしたのであった。


「仕方ないわね、プラン変更よ!」


イルはそう叫ぶと杖を取りだし魔法を唱える。


身体強化魔法ディヴィジョン


イルは自分の足に魔力が集中するのを感じる。


「待ったナシ!」


シオンはすかさずイルに切りかかるが、シオンが剣を振り下ろした先は何も無い空間だった。


「あれ?どこいっ…」


シオンは背後からの衝撃で前のめりに倒れるが、すぐに受け身を取り振り返る。


「はっや!」


イルはさっきと比べ物にならない程のスピードでシオンの背後を取っていたのだ。


「身体強化を足だけに集中したの、足技に気をつけなさい」


イルは自信に満ちた顔でそう言うと風のようにリングを駆け、シオンの側面を取る。


シオンのガードが今度は間に合わず、イルのタックルを思いっきり食らってしまう。


「やっば!」


シオンはリングに剣を刺し、何とか倒れるのを防ぐ。


しかし戦況は一向にイルの優勢であることに変わりはない。


イルの高速の連撃にシオンの持つ剣ではとても追いつくことが出来ない。


たちまちシオンの体力は削られていく。


「アンタには負けたくない、だから遠慮なんて絶対しないから!」


イルはそう言い攻撃を続ける。


「うん、わかってる私も同じ!」


シオンそう言った瞬間イルの攻撃がクリーンヒットしシオンに再び大きな隙が生まれる。


「今度こそとる!」


イルは渾身の蹴りをシオンに向かって繰り出す。


「やっばい!」


シオンは再び剣を手放し、今度は脇に差していた〝不可説不可説転〟を取り出し繰り出された足を切りつける。


〝とった!〟イルはそう思った。


だが直後イルは体から力が抜けるような感覚に襲われる。


それによりバランスを崩したイルに今度はシオンの拳が飛んでくる。


イルは予想外の出来事にガードを忘れ、拳が直撃してしまう。


「ぐぁ!」


という叫び声と共にイルはリング端まで飛んでいく。


イルは地面に倒れている間に自分が予測していた最悪の事態に陥ったと気付き直ぐに立ち上がる。


「アンタ身体強化系魔法きれんの!?」


思わず間の抜けた声になってしまった。


しかしイルよりも驚いていたのはシオン本人であった。


「な、なんかできた……………」


シオンは空いた口が塞がらないといった表情であった。


「こういうことがあるからアンタとは長く戦いたくないのよ!このど天才が!!」


イルはできるだけ嫌な感じでそう言ったがシオンにはそれは伝わっていなかった様で、〝そ、そぉ?〟と照れ臭そうに頭の後ろを掻いていた。


「アンタはやっぱり規格外なヤツよ…」


イルは体に着いた土埃を払いながらそう呟く。


イルにとってシオンのそういう部分は頼もしくもあり少しコンプレックスでもあった。


「でもやっぱり……だからこそそんなアンタに勝って私は前に進むのよ。」


状況はイルにとって悪くなったのだが、何故かイルは嬉しかった。


そしてそれはシオンも同じようで2人の口角は上がりきっていた。


「こっからね(だね)!」


2人は同時にそう言った。


{あとがき}

次回は明日の20時に投稿予定です!


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恐らく次の次くらいに1章が終わるかと思われます。

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