第22話 波乱の話
試合が終わり客席にいるハイセンとアキの元にイェンがやって来た。
アキもハイセンも特に声をかけることも無く、イェンはハイセンの隣に座る。
その場に物凄い緊張感が走る。
アキは生唾を飲みハイセンの言葉を待っていた。
だが最初に口を開いたのはイェンだった。
「すみません団長、私負けてしまいました。」
ハイセンは何も話さない。
イェンは1人で喋り出す。
「まさか、彼女があんな隠し球を持っていたなんて予想外でした。そして私のことも細かく調べ……あげ………さく……せん……も…………………あれ?」
イェンは話しながら自分の頬に伝う涙に気付く。
「わたし……なんで?」
イェンは止まらない涙を何度も手で拭う。
「だん……ぢょう、わたじ……くやじい」
涙て顔をぐしゃぐしゃにしながらイェンは前屈みになりそう呟いた。
悔しかったのだ。
格下の相手に自分の力も冒険者としての格も負けてしまった。
それが悔しかった。
アキはそんなイェンを見たことがなかった。
いつも毅然として強気なイェンがこんなにも涙を見せるなんて信じられなかった。
ハイセンは前屈みに泣いているイェンの頭にそっと手を置き
「魔法とは人の意思、つまり俺達の戦いは思いの強い方が勝つ。」
ハイセンはイェンの方を向く。
「お前強い、だけど負けた。しかし負け以上に強くしてくれるものなど有りはしない。強くなれイェン」
ハイセンはそれだけ言うと、席を立ちその場を去った。
アキは慌ててその後ろを着いて行こうと席を立った。
その時アキから見えたハイセンの表情は何処か強ばっているように見えた。
そこでアキは察した。
この戦い負けを経験されるためのものかも知れないけど、やはり仲間が負けるのは悔しいのだと。
「おめでとう!ビエーブめちゃくちゃかっこよかった!」
治療を終えて帰ってきたビエーブを俺達は迎える。
「あんな魔法いつ覚えたんだ、俺知らなかったぞ?」
俺は嬉しさで顔を滲ませながらそう問いかける。
「あれはまだまだ未完成ですし、何より試合まで私だけの力で伸ばして行きたかったんです。」
ビエーブは笑顔でそう答えた。
「最後なんか仲良く終わった感じしたんだけど、何があったの?」
イルは怪我治ったばかりのビエーブに飛びつこうとするリップを抑えながら、そう問いかけた。
そうするとビエーブは少し黙って考えて
「何があったかは2人の秘密ですが、次また彼女と戦う時は今とは計り知れないほど強くなっていると思います。」
と答えた。
その顔は晴れやかなものであった。
「あっ!次の試合のクジがもう始まるみたいだよ!」
シオンがそう言ってリングを指さす。
そこには係の男が早速次の対戦カードのクジを引いていた。
流石に毎回レックスが出てくる訳にも行かないのだろ。
そしてクジを開き係の男は読み上げる。
「第1回戦次の対戦カードはBランク冒険者パーティー〝パラルナ〟所属魔術師シンとSランク冒険者パーティー〝ボレロ〟所属の剣士ラヴィー」
「きたか、ラヴィー。」
会場が大盛り上がりしている中俺は落ち着いた様子でそう言った。
七聖帝、この世界で7人しか得ることの出来ない称号であり、この称号を得たものがいる数がその国の軍事力に大きな影響を及ぼすとまで言われている存在。
その力は1人で数千から数万人の軍隊に匹敵すると言われている。
「ん〜〜、どこかで見たことあるような気がするな〜」
シオンがリングに登場したラヴィーを見るなりそんなことを言い出した。
「気の所為でしょ、SやAランクなんて1年に1度会えればいい方なくらい珍しいし、ましてや七聖帝なんて一生に1度会えるか分からないくらいよ」
イルはそう言ってシオンの言葉を否定する。
「さぁ、試合が始まりますよ」
ビエーブは言い争いになりそうな2人にそう言って、試合に集中させる。
それと同時に試合開始のゴングが鳴り響く。
「ちっ、レックスの野郎シード枠を取り消しやがって」
ラヴィーはレックスにシード枠を潰されたことに腹を立てていた。
なぜ自分が雑魚の相手をしなきゃならないのかとラヴィーは苛立つ。
「もう、ソッコーで終わらそ」
ラヴィーはそう呟いた。
本当に勝負は一瞬だった。
ラヴィーの体からバチッという放電すると、一瞬でパラルナの元へ辿り着いた。
「え?」
パラルナの口からその言葉が出た時に、ラヴィーはパラルナの顔面を手で掴み地面に叩きつけた。
あまりの一瞬の出来事に会場はは静まり返る。
審判もあっけに取られその場に立ち尽くしていたが、ラヴィーが睨みつけるとハッとして判定を行う。
わずか1秒で決着が着いてしまった。
「これが七聖帝………。」
シオンはそう呟く。
「あんなの人間に出来る事なの?」
イルは生唾を飲み込み俺にそう尋ねる。
どうやらイルとビエーブはラヴィーの半端なさを理解したらしい。
あれはただの高速移動ではない、細かな技術が沢山詰め込まれているのだ。
「あれ恐らくSランク相当の身体強化魔法ですよね。そのレベルの魔法となると、どんな熟練者でも1分近くは構築に時間がかかると思うのですが、あの人事前に魔術式を組むことなくその場で組み上げてますよね?」
流石勉強しているだけあって、ラヴィーの特性をよく見抜いている。
「アイツが〝雷帝〟の称号を得ているのは単に雷属性の魔法が得意だからでは無い。アイツはまるで落雷のような速度で魔術式を構築し終えることが出来るから〝雷帝〟(イカヅチの如き者)という称号を得ているんだ。」
俺の話を聞き3人に緊張が走る。
「私達が優勝するためにはあんな化け物と戦う必要があるわけね…………」
イルは苦笑いを浮かべそう言った。
その後も本戦の第1回戦は続いていき、無事に終了した。
その後直ぐに我が家に帰るつもりだったが、2回戦よ初戦のクジ引きも今日やってしまうということなので1回戦突破者はその場に残って欲しいという。
早く帰りたかったが、俺達はその場に残りあと数百名の観客が見守る中クジ引きが行われた。
係の男は前回と同様にクジを取り出し開いて読み上げる。
「本戦2回戦第1回の対戦カードはFランク冒険者パーティー〝ロゼッタ〟所属剣士シオン、そしてもう1人はFランク冒険者パーティー〝ロゼッタ〟所属拳闘士イル。」
{あとがき}
次回は明後日の9月2日の20時に投稿予定です。
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