第20話 ビエーブの才能の話
「魔眼………」
ビエーブが使うことの出来ないエルフ族の最大の武器。
その力は人それぞれだがどれも自身の力を幾重にも強化する。
繁殖力のないエルフが人間や他の種族に淘汰されないためには力が必要だった。
そこでエルフ族の祖先は神と契約し、魔眼を授かったと言われている。
つまりこれは〝エルフであることの証〟のようなものだ。
しかしビエーブにはそれがなかった。
「さぁ、かかってくるといいエルフ族の落ちこぼれ」
イェンは真っ赤な目を爛々と輝かせ剣を構える。
「力が分からない以上、やるしかないですね」
ビエーブは効率化術式を使い高ランク魔法を放つ。
「
ビエーブが杖を振りそう唱えるとビエーブの右斜め上、左斜め上に全長4mはあるだろう雷でできた巨大な腕が発現する。
その動きはビエーブの腕とリンクしており、ビエーブは両手を合わせそれをイェンに振り下ろす。
とてつもない爆音が鳴り響く。
振り下ろした腕の風圧は観客席まで届き、たちまち観客のあれやこれやを吹き飛ばす。
「これはとんでもない大技が出たぞ!!イェン選手ここで幕引きか!?」
実況はそんな風にまくし立てる。
しかし爆風の中からイェンの笑い声が聞こえてくる。
それは最初は小さいものだったが、徐々に大きくなりやがて大笑いへと変わる。
「アーハハハハ!これは本当に滑稽だ。まさか本当にそうだとはな!?」
「どういうことですか?」
ビエーブは顔を曇らせる。
「お前のその魔法全部スキルのおかげだろ?」
ビエーブに心臓を1突きされたような緊張が走る。
「私の魔眼はな〝焦点を合わせた1つの対象の1つのスキルを打ち消す〟というものだ。複数人やθ型を相手にする時は使えないが、スキルのあまり使えない魔術師にはかなり有効な力だ。」
そう言うと今まで使っていた剣をしまい、背中にしょっていたもう1つの方を取り出す。
「お前の魔法はスキルによって強化された紛い物に過ぎない。たまたま授かったスキルで己を強いと過信し、知名度のある私達だから調べれば分かるであろう私のスキルを調べず、勝負に臨むからこんなことになるのだ。」
イェンは切っ先をビエーブに向ける。
「勝負事に対してそんな傲慢な態度を取るとはな。お前はエルフとしても冒険者としても失格だ。」
そう言うとイェンは剣を持ってない方の手で杖を振り自身に魔法をかける。
「
その瞬間イェンはビエーブの背後へと移動し切りつける。
即座にそれを察知したビエーブは背中に魔力障壁を貼るが何故かその剣は障壁を貫通する。
そしてビエーブの背中に剣が到達してしまった。
ドンッという鈍い音ともにビエーブは前に吹き飛ぶ。
背中に激痛が走るが切られてはいないようだ。
「刃の部分で切りつけたりはしない、死んでしまうからな。」
どうやらイェンもヴァイゼルグと同じように殺してはならないという決まりがあるらしい。
しかし、状況は一転イェンの有利へと向かう。
次々と襲いかるイェンの連撃。
ビエーブは苦戦を強いられる。
ビエーブは目で追わない分イェンの速度には何とか対応出来る。
しかし厄介なのはイェンの振る魔剣だ。
どうやらあの魔剣は一定の確率で相手の防御系の魔法を打ち消す力があるらしい。
それに加えてあの魔眼。
何とか高ランク魔法を放っても、強化した低ランク魔法を放っても魔力効率化を使っている限りあの魔眼で打ち消されてしまう。
こちらの攻撃は通らず一方的に攻撃を受け続ける。
そして確率で相手の攻撃をモロにくらってしまう。
ビエーブはたちまち体中に痣や打撲を増やしていく。
「勝負あったね団長。魔眼も使ってるし、これは相手の降参待ちかな。」
アキはいつもと変わらないその光景に少しガッカリしつつもハイセンにそう問いかける。
しかしハイセンはその目でしっかりとリングを見つめていた。
「なに?もう帰ろうよ?」
しかし、ハイセンは動かない。
そしてゆっくりと口を開き、アキに問う。
「俺がアイツらに殺してはならないという指示を出したのは何故かわかるか?」
「それは殺すと一瞬で試合が終わっちゃうからでしょ?それだと見ててつまらないもんね」
アキはそんなことかというように答える。
少しの沈黙のあとハイセンは
「そうか、だとしたらお前達にはまだAランクは早かったかもな。」
と言った。
アキは意外なその回答に驚き、そして腹を立てる。
「それって俺達が弱いってこと!?こんなにも圧倒してるのに!?」
アキは今にもハイセンの胸ぐらを掴むかのような勢いで迫るが、ハイセンは一切動じていないようだった。
そして一瞬アキを睨みける。
その瞬間アキの体中から冷や汗が吹き出る。
背筋にゾクッする悪寒が走り、呼吸が早くなる。
圧倒的強者の殺気にアキは何も言い返せなくなってしまった。
そしてハイセンはアキの頭を掴みリングに向けると
「アキ、この試合を目に焼き付けておけ。」
と言った。
その声は実に平坦なものだった。
「魔眼の使えない劣等種をここに置いておくに訳にはいかない。」
体中に走る痛みに耐える中、頭の中には過去に族長に言われた言葉が鳴り響いく。
魔眼の使えない私は他のエルフより圧倒的に劣っていた。
みんなが出来ることが出来ない。
そして目が見えないばっかりに捨てられた先で出会ったロゼッタの皆にも迷惑をかけてばかり。
私は他の人よりも劣っている。
それを思い知らされる毎日だった。
そしてアレンと出会い、共に鍛錬をしていく中でも私は自分の弱さを痛感する。
イルもリップもシオンも皆特別な才能を持っている。
だけど私はそんなものは無い。
でも、、、みんなでこの大会を勝つと決めた。
だから負けないように私はできる限りの全てをやり尽くした。、
いつかアレンが私にいってくれた
「ビエーブは真面目で賢い」
という所だけが私の強みだ。
だから誰よりも綿密に作戦をたて、誰よりも魔法訓練を積んだ。
それでも圧倒的な才能の差はあるかもしれない。
でも、でも、これが私に出来る唯一のこと。
戦闘において誰よりも才能が無く劣っているのはわかっている。
私は作戦と魔力訓練という戦いの基礎を武器に戦うしかない。
でもそれがいつか、圧倒的な才能を超えると私は信じている。
綿密な作戦が相手の力を上回り、鍛えた魔力が相手の予測を上回ることが出来ればどんな圧倒的強者にも勝つことが出来る。
私が掲げたたった一つの〝才能に打ち勝つ方法〟。
そして今それが証明出来るかもしれない。
手が震える。
しかしこれは痛みによるものでは無い。
この試合の流れが全て私の予測通りに行った事への嬉しさからくるものだった。
「もう、いいですね。」
私は一言そう呟いた。
{あとがき}
次回は明後日8月28日20時に投稿予定です。
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