第19話 魔力効率化術式の話 part2

「うわぁーすげー人!団長!ここ空いてますよ!」


小柄な少年のような男はダンフェルのリーダーハイセンマッハを引っ張って連れている。


「アキ今日は誰の試合なんだ?」


ハイセンを連れているこの男はダンフェルの副団長アキ・シエスタだ。


「団長たのむよー、今日はイェンの試合なんだよ?」


ハイセンは曜日を完全に勘違いしており、ハッとした顔になる。


「そっか」


ハイセンはそう言うとボーっとリングを眺める。


そんなハイセンの横顔を眺めながらアキは尋ねる。


「どっちが勝つと思う?団長は。」


ほんの少しの間を開けた後にハイセンは


「お前はどっちが勝つと思ってるんだ?」


と質問返しをした。


ちゃんと答えてくれなかった事に少しムッとしてぶっきらぼうに答える。


「当然イェンでしょ。」


「どうして?」


「どうしてって単純に経験とか実力が違うし、何よりイェンは1体1においてかなり有利な力あるし」


「……」


ハイセンは無言でそれを聞いていた。


「で、団長はどっちだと思ってるの?」


ハイセンはリングを眺めながら軽く


「どっちかなぁ」


とだけ呟いた。





「さぁ!始まりました!本戦第1回戦!東口ゲートから登場しましたのはAランク冒険者〝イェン〟んんん!!」


会場は大いに盛り上がる。


「続きまして西口ゲートから登場しますのは、Fランク冒険者〝ビエーブ〟ぅぅぅ!!」


一転会場はパラパラと拍手が聞こえるくらいな盛り上がりだった。


リングに上がると、イェンはビエーブに話しかける。


「私はヴァイゼルグのように油断しない。殺しはしないが殺す気で行く、だから負けない。私達種族の落ちこぼれに本当の強さを教える。」


褐色の肌に尖った耳、薄茶色の武道着をまとい長い黒髪を後ろでまとめて、黒い瞳を真っ直ぐにビエーブに向けながらそう言った。


そう、彼女もエルフなのだ。


ビエーブは少しだけ微笑むと杖を抜き一言


「私もです」


といった。








試合開始のゴングが鳴り響くと共にはじまった本戦第1回戦。


試合開始から役10分が経とうとしているが、状況はビエーブの優勢だった。


「団長何あの子、めちゃくちゃ強いよ!初っ端からあんなに高ランク魔法連発してんじゃん!」


アキはかなり驚いた様子でハイセンに話しかける。


観客も皆アキと同じような反応を示していた。


だがハイセンは最初と何も変わらずボーっとリングを見つめているだけだった。


「ねぇ団長はどう思うのさ!?」


また流されそうになったことにムッとしたアキはハイセンに問いかける。


「んー、何だか変な感じだ。よく分からないけど」


「変な感じって一体どこがさ?」


「んー分からないけど何か違和感を感じる。」


アキはやれやれといった様子でまたリングへ目をやる。


ハイセンはビエーブの魔法になんだか違和感を感じて仕方なかった。







火炎系魔法カリン


ビエーブがそう唱えるとたちまち複数の魔法陣からイェンに目掛けて光線のように炎が発射される。


イェンは所々に軽傷を負った体を上手く動かしてその攻撃を交わす。


「クソッさっきから高ランクの遠距離魔法ばかり使ってくるせいで全然私の攻撃範囲に踏み込めない。」


イェンは肩で息をしながらそう呟いた。


そして考える。


ビエーブは今までFランクと判定されていた、なのにこんなにも高ランクの魔法を連発しても大丈夫な魔力量、そして技術これは確実に私達レベルに匹敵する。


だが、まだ魔力コントロールがおざなりな部分や魔法自体が不完全な時もある。


高ランク魔法を連発出来るやつがあんなにミスをするものなのか?


その時イルに吹っ飛ばされたヴァイゼルグを思い出した。


ヴァイゼルグの魔法障壁とあの巨体を吹っ飛ばすには確実に高ランクの身体強化魔法が必要だ。


だがこの目で見た限り、あの時のイルは魔力も残り少なかったし使っていた魔法も低ランクだった。


とすると……………


イェンの中でビエーブに対して2つの仮説が思い浮かぶ。


1つは真面目に努力してこんな急成長を遂げたという説。


もう1つは自身の力を急激に強化する何かしらのスキルを身につけたか…………


そんなスキル聞いたことも見たこともないが、もしあるのだとしたら………


この勝負は私の勝ちだ。






「ちょっとビエーブいつの間にあんなに強くなったの!?高ランク魔法バンバン使ってるじゃん!」


シオンが客席から落ちそうなほど身を乗り出して興奮していた。


しかしシオンに対してリップやイルはいつも通りであった。


「え?なんでそんなに冷静なの?」


シオンは困惑しているようだった。


俺はそこで説明に入る。


「あれも魔力効率化術式の1つなんだよ。効率化術式によってあの高ランク魔法を使ってるんだ。」


シオンは頭にハテナを浮かべながら俺に問う。


「へ?でも効率化術式って低ランク魔法をSランク並の威力にするやつでしょ?」


「それもあるけど、もう1つあって少ない魔力で高ランクの魔法を使えるようになる術式もあるのよ」


イルも説明に加わる。


「難易度的に言うと、低ランクを低コストで使える効率化術式、低ランクの魔法を高ランク並の威力に押し上げる術式、高ランクを低コストで使える術式、高ランクの魔法の威力を更に上げる術式の順だな。」


シオンはちんぷんかんぷんという言葉が良く似合う表情で何とか考えを整理する。


「えーとだから、イルがヴァイゼルグ戦で使ってたのは低ランクを高ランク並の威力にするやつってことで、今ビエーブが使ってるのはイルのより難しいやつって事だよね?」


俺とイルとリップは腕組みしてウンウンと頷いてみせる。


しかし俺は危惧していることも同時に話す。


「だが、今のビエーブの状態は決して良いものでは無い。」


「何で?」


イルが問いかける。


「お前たちも十分分かっていると思うが、効率化術式は複雑だ。そんな術式を連発するなんて脳が悲鳴をあげるだろう。」


「短期決戦をするつもりなのかしら…」


イルは心配そうにそう呟く。


短期決戦か、あのビエーブが?


俺は教えた中で1番賢く聡明な彼女がそんな後先考えない戦いをするとは思えない。


一体どう戦うつもりなんだ?


俺の中で心配と共に期待する気持ちが込上げてくる。








一転、リング上では状況に変化が訪れようとしていた。


イェンは不敵に笑うとビエーブに話しかける。


「あなたの力の源は恐らく私の予想通り。だとすると今からあなたの攻撃は私には届かなくなる。」


「どういうことですか?一体何をするつもりなんです?」


ビエーブは何が来るのかと身構える。


「ここまで言って分からないということは、私の事を調べもしていないんだな。いいだろう、力を得たことで生まれたその怠慢を今から私が分からせてやる。」


イェンが瞬きをすると一瞬で両目が真っ赤に染まる。


「お前に使えないこの魔眼でな。」



{あとがき}

次回は明日の20時予定です。(もしかしたら変更なるかもですが……)


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