第18話 武闘会本戦の話

俺達は晴れて全員武闘大会本戦への切符を手に入れた訳だが、本戦は予選より苦戦を強いられるだろう。


予選を勝ち抜いた12名で本戦は行われる。


そして今日本戦のルールと出場者の発表がある。


「来たよ!新聞!」


シオンがその本戦について載っている新聞を持って帰ってきた。


俺達はみんな緊張気味でその記事を覗き込む。


「Sランク冒険者出場してるじゃない!?」


イルのその発言に俺達は驚く。


予選に出ているなら確実に噂になっているはずだ。


なのに知らないということは恐らく………


「本戦から出場ってことだろうな」


俺はそう言った。


「名前は……ラヴィー。アレン知ってる?」


シオンは俺に問いかける。


「ラヴィーか………そいつは七聖帝の1人〝雷帝ラヴィー〟だな。」


全員は目を丸くして驚く。


「七聖帝って世界に七人しかいない帝王ってやつ?」


「七聖帝なんて生きてる間に出会うことなんてないと思っていました。」


「伝説上の存在だと思ってた」


皆口々にそう呟く。


七聖帝はこの世界の誰もが聞いたことがある言葉だろう。


彼らを舞台にした絵本などの創作物も沢山作られている。


もちろんちゃんと存在するが、姿をみることなんて奇跡に近いので存在しないと信じている人もいるのだろう。


「七聖帝しかもラヴィーか…………相当荒れるな」


「そんなに強いの?」


イルは息を飲みそう問いかける。


「Sランク冒険者の中でも七聖帝は特別に強い。正直、今の俺でも勝てるかどうか分からないレベルだ。」


一瞬にしてその場の空気が凍る。


「アレンが勝てるか分からない………」


「そんなの初めて聞きました。」


イルとビエーブは顔を強ばらせて、力のない声でそう呟いた。


しかしシオンは目を瞑り下を向いてなにか考えているようだった。


「どうした?シオン?」


俺はシオンに問いかける。


するとシオンはぱっと顔上げて


「これってつまり、今の私達がどれだけ勇者に近いか自分の実力を図るいい機会なんじゃない?」


そう言った。


俺達はあまりのあっけらかんさに体の力が抜けてしまう。


だけどみんな笑顔だった。


「あんたのそーいうとこ、ホントすごいわ」


「こういう時のシオンのポジティブさには何度も助けられましたね。」


リップもよく言ったと言わんばかりにシオンの肩をバシバシと叩いていた。


和やかな空気がボロ平屋に漂う。


しかし、俺はまだ気になることがあった。


それはシャロルの1件を一体誰が仕組んだかということだ。


あれからいくら考えても俺の中で答えは出なかった。


本戦は色んな意味で荒れる。


そんなボヤけた予想が俺の中で漂う。








【本戦1回戦当日】


流石に本戦ということもあって会場の規模も観客の数も予選とは比べ物にならないほどだった。


俺達は会場に入り観客に飲まれながら何とか前の席を抑えることが出来た。


「ふぅー流石にすごい人だー!人多すぎてあんまり楽しめないかも……」


そんなことを言うシオンであったがリップを肩車し、両手には食べ物を持っていた。


「あんたねぇ、楽しむ気満々じゃない!あんた今日試合だったらどうすんのよ!」


「あれ?今日誰と誰が戦うの?」


「さっきも言ったでしょ、本戦は対戦相手が当日のクジで決まるの。だからまだ誰が戦うのか分からないのよ。」


「もうすぐ開会式ですよ2人ともしっかり見ましょう。」


ビエーブが騒がしい2人を叱った。


俺達がそんな会話をしていると観客が割れんばかりの歓声を上げてリングを見ていた。


目をやるとリング上にこの大会の主催者であるレックスが登壇していた。


「お集まりの皆さん、今日という日を迎えられたことに私は大変感動しております。国中の冒険者達が力のをぶつけ合い、強さを証明していく様はなんとも頼もしく、美しい。このような催しが出来たのもこの素晴らしい国と素晴らしい国民あってこそです。本当に感謝申し上げます!」


レックスが深々とお辞儀すると、会場は大いに盛り上がる。


「流石俺たちの勇者だ!!!」


「真の勇者はやっぱり人間性も素晴らしいな!!!」


「どっかのウソつきとは大違いだな」


「きゃーーレックス様ーーー!!!」


会場は勇者コールで覆い尽くされる。


全く、こうも思ってないことをよくスラスラと言えるなレックスのやつ。


俺でさえ裏切られたあの時が嘘かと思うほどの役者っぷりだ。


そう思ってる間にも式は進む。


「さぁ、では記念すべき第1回戦の対戦カードを発表しましょう。」


あれだけ騒いでいた観客達はそのレックスのその一言に沈黙する。


「第1回戦まず1人目はAランク冒険者パーティーダンフェルより剣士〝イェン〟!!」


うおぉぉぉぉという歓声が巻き起こる。


「いきなりAランクの試合が見れんのか!」


「ダンフェルって今注目のパーティーだろ!?」


「流石本戦レベルたけぇーー!」


観客は口々にそう言った。


ダンフェルって確かヴァイゼルグがいたとこだよな。


あそこちゃんと2人出場登録してたんだな。


「さぁ!続いてその対戦相手は!!」


会場に緊張感が走る。


「Fランク冒険者パーティーロゼッタより魔術師〝ビエーブ〟!!」


それを聞いた観客達はさっきとは違い、盛り上がるというよりザワザワしている様子だった。


「え、やっぱりあの噂本当だったんだ。」


「新聞で見た時、嘘だと思ってたけどロゼッタなんだな」


「何か怪しくない?本戦にFランクって」


「最弱のロゼッタが本戦てマジかよww」


会場の大多数はこんな反応だった。


それもそうだろう、俺達の活躍を見てたのはあの田舎の街ギルドで開かれた予選の観客達だけだ。


それ以外の人は俺達が実際に戦っている場面を見ていないから、最弱という印象に何ら変わりはない。


だが、それも今日までの話。


「ビエーブ来たね…」


イルはビエーブを見つめそう言った。


「たしか、Aランクとかと戦うの初めてだったよね?」


そう、ビエーブはシオンの言う通り今まで最高でもBランクとしか当たっていない。


つまり猛者と戦うのは今回が初めてという訳だ。


リップはビエーブの手を握りその心意気を確かめるように顔を覗き込む。


それに気付いたビエーブは真面目な顔からフッと笑顔になる。


「大丈夫ですよリップ、私は負けませんから。」


その一言には覚悟を感じられた。


俺は正直言って楽しみだった。


魔力効率化術式、それは従来の魔力式よりも効率化された術式で魔力の出力やかかるコストを軽減する。


イル、リップもちろんこの2人にもこの術式を教えることで実力は格段にアップした。


だがこの2人は主にそれをバフとして使うことが多い役割だ。


だがビエーブは魔術師。


俺の教えた効率化術式をメインとして戦う。


つまり、教えたことがまんま実力として発揮されということだ。


「もう加減はしません。」


ビエーブは俺の耳元でそう囁くと客席を後にした。


その後ろ姿から俺はとてつもないオーラを感じた。



{あとがき}

次回は8月24日の火曜日20時投稿予定です。


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