第17話 七人の皇帝

「今のお前さんに私が負けるって、そう言いたいのかい?」


シャロルは額に血管が浮かび上がるほど、腹を立てている様子だった。


「そんな直接的には言ってないだろ」


俺は煽るようにそう言った。


シャロルは昔から短期で、巨大な魔力があるにもかかわらず怒りですぐにコントロールを乱してしまう。


今の俺がシャロルに短期決戦で勝つにはその隙を突くぐらいしかない。


「その魔剣、〝龍安〟かい?」


「あぁそうだ。」


俺の周りを飛び回り〝淀み〟から守ってくれているのは魔剣〝龍安〟だ。


このナイフのような魔剣は絶対に15本という本数から変動することは無い。


だから、〝淀み〟によって犯され消えてもまたすぐに再生することが出来るのだ。


今のシャロルに対抗するには最も有効な魔剣だろう。


「その魔剣をそんな使い方するとは、お前さんのその天才性にはいつも驚かされるよ。」


「お前とは違ってな」


俺は更に煽る。


「………………」


しかし、シャロルはいつものように攻撃をしては来ず、黙ってなにか考えているようだった。


「どうした?」


そう問いかけるとシャロルは一言


「やめた」


と言った。


「今のお前さんに勝ったところで面白くもなんともない。それにもう目的は十分果たせたしな。」


どういうことだ?


シャロルがこんな冷静に判断を下せることも驚きだが、このシオンとの戦いには違う目的があったような言い方をしている。


「何を企んでる?」


俺は杖をシャロルに向け問い詰める。


「答える義理はないな、だが1ついいことを教えてやろう。」


「なんだ?」


「お前さんの力の取戻し方だよ」


!?


こんなとこでそれが聞けるとは思ってもいなかった。


「どして急に教えようと思ったんだ!?」


俺は不覚にも少し落ち着きをかいていた。


「私はバランサーだからね、どちらの味方でもない。それ故にどちらにも平等でありたい。」


そう言えばそんなことを昔も言っていたような気がした。


「どうしたらいいんだ。」


「簡単さ、宝剣シャーリーを壊しちまえばいい。シャーリーは魔力と人の絆を断ち作り替える力がある、つまりお前さんの魔力は今レックスと絆を結んでいるわけだ。だからその繋ぎ目の役をになっているシャーリーを破壊しちまえばいいのさ。」


レックスから宝剣を奪い、破壊する。


単純だが今の俺に出来るのか?


「随分と時間をかけてしまったね、私はこれでサヨナラするよ。それと今回の〝淀み〟は解除しておくから安心しな。」


「待て!」


俺はシャロルを呼び止める。


「なんだい?」


「お前全然本気出してなかったよな?」


「なんのことかな?」


シャロルは白々しく首を振った。


「本気でシオンを潰すつもりならお前ならいくらでもタイミングはあったはずだ。」


シャロルは不敵な笑みを浮かべているだけだった。


「お前の目的はいったい………」


俺がそう言いかけた時にはシャロルは姿を消してしまっていた。


そしてもうそこに〝淀み〟は存在していなかった。






数日後


ビエーブが観客を守りイル達が避難誘導をしてくれたおかげで、かなりの数の観客は危険を免れた。


そしてさらに良い事に観客達に俺の存在を知ることはなかったらしい。


一応保険として顔を隠していたが、流石にあんだけ目立ったらバレることも覚悟していた。


だがビエーブが炎の壁を作って観客を守ってくれたこともあって、客席からリングを見ることは出来なかったようだ。


しかし、審判もその場から逃げているのでその試合の判定は後日大会本部から知らせが来るらしい。


そして今日その知らせが届いたのだが、その内容は不可解なものだった。


結論から言うと、シオンは本戦に進むことが出来るらしい。


だが、そうなった理由はそもそも王都ギルド(大会本部)はシャロルの代打出場を認めてはいなかったらしいのだ。


開催地のギルドのギルドマスターが独断でシオンの出場を認めてしまったらしい。


その責任を追求され、そのギルドマスターは解雇されてしまったが、話を聞くと〝そうしなきゃいけないと思った〟ということだけしか覚えていないらしい。


俺は大会本部の誰かがロゼッタを潰すためにそう仕向けたのかと思っていたが、違うのかもしれない。


考えてみれば、シャロルは本気出さずにシオンの力をひたすら試していたようにも捉えられる試合だった。


一体誰がなんの目的でこんなこと…


俺はこの大会にはなにか別の組織が関わっているような予感がした。








時は武闘大会予選1回戦が終わった頃に遡る。


バンッという大きな音を立てドアを蹴りあけて、王都ギルドに一人の男が入ってくる。


長身に引き締まった体、金髪の髪に切れ長の目をしたその男はズカズカと歩きながら受付に向かう。


そして受付のカウンターに手を着くと受付嬢向かって話し始めた。


「おい、俺様を武闘大会に出場させろ」


あまりの悪態と急なお願いに新人の受付嬢は驚いてしまったが、しっかりと笑顔を作り対応する。


「すみません。もう大会の出場登録期間は過ぎておりまして……きゃあ!」


男は受付嬢の胸ぐらを掴み引き寄せ、睨みつける。


「あぁん、お前俺様が誰かわかってて言ってんのか?」


「も、申し訳ございません、ですがもう登録は…」


受付嬢は涙を浮かべながらそう返答する。


「俺様のはなぁ、お願いじゃなくて命令なんだよ。俺様が出せって言ってんだから素直にそうすりゃいいんだ。」


「そ、そんなこと私には」


「そうかよ…」


そう言うと男は受付嬢を離す。


許されたと思い、受付嬢が胸を撫で下ろした瞬間


「ただの愚民が俺に楯突くんじゃねぇーよ!」


と言って男は受付嬢を思い切りビンタした。


彼女は床に倒れ、周りのギルド職員達は騒然とする。


「早く、ギルドマスターを呼んでこい!」


職員達は急いでギルドマスターを呼びに走った。


そして間もなくしてギルドマスターが到着する。


「こ、これはこれはあなたのような方がどうして今こちらにいらっしゃるのでしょうか?」


ギルドマスターは男にへりくだり、手もみしながら話し始めた。


「お前は俺様が誰だか分かってるみたいだな。」


「もちろんでこざいますよ」


ギルドマスターはめいいっぱいの作り笑いで対応する。


「じゃあ、俺を武闘会に出せ。」


「は、はい。では街ギルドの方に連絡してすぐに予選の出場枠を………」


「あぁん?それはこの俺様にわざわざクソ田舎に出向いて予選から出させようってことか?」


墓穴を掘ったと分かったギルドマスターはすぐに態度を改める。


「はっ!大変失礼致しました!すぐに本戦のシード枠をご用意致します。」


「他にも俺様見たいのはいるのか?」


「い、いえ、あなた様のような方は今回登録されておりません。」


「ちっ、つまらねぇーな。ならレックスに言っておけ、優勝したら俺様と勝負しろってな」


「は、はい!」


そう言うと男は一方的に要求を押し付けるだけ押し付けてギルドを去っていった。


周りのギルド職員は受付嬢を介抱しながら、ギルドマスターに問いかける。


「なんなんですかあの人?あんなに偉そうに。こんな一方的な要求飲んじゃって大丈夫何ですか?」


するとギルドマスターは額の汗を拭い、ゆっくりと口を開いた。


「あれは現Sランク冒険者パーティー〝ボレロ〟の剣士ラヴィー。七聖帝と呼ばれる7人の皇帝の1人で〝雷の皇帝(雷帝)〟とも呼ばれている。滅多に街に現れないのだから知らないのもしかたないだろう。」


ギルド職員達はそれを聞いて息を飲む。


「そんな人が武闘会に……」


「あぁ、私も驚いたよ。もう優勝は決まったようなものだ」


後日急遽シード枠としてラヴィーの出場が決定した。



{あとがき}

次回は8月22日曜の日曜日に投稿予定です


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