第16話 シャロルのオリジナルの話
〝オリジナル〟聞きなれないその言葉にシオンは困惑していた。
そうしてる間にもシャロルの頭上3mくらい上に巨大な黒いなにかができあがっていた。
そしてそれがクルクルと回り始めると、ものすごい勢いで黒い何かを飛ばし出した。
あれに当たっては行けないと本能的に理解したシオンは回避行動に移る。
しかし無数に飛んでくる黒い何かを避けきれずシオンは〝不可説不可説転〟で斬りつける。
本当はその魔法自体がなにか分かっている状態で刀を使いたかったけど仕方がない。
しかし黒いそれはシオンの刀を貫通し左手に命中した。
そしてスゥーっとシオンの左手に入っていった。
「斬れない!?」
その黒い何は〝不可説不可説転〟で切り捨てることが出来なかった。
「やはりこれを斬ることは出来ないみたいだね」
シャロルは口角を上げながらそう言った。
「これは一体何な……!?」
シオンがシャロルを問い詰めようとしたその時、自分に起きている異変に気付く。
「気が付いたようだね。」
シオンは自分の左手を見つめる。
左手は見る限り変わった様子はないのだが、シオンにはハッキリと異変が分かる。
「感覚が………ない」
一瞬左手を失ったかと思うほどだった。
「こいつは〝淀み〟と言ってね、当たった対象を淀ませ意思が通じないようにするのさ」
つまり、左手に当たったということは、左手に意思が通じないようになってしまったということだ。
シオンは敵の技の恐ろしさを実感する。
「あなた、絶対Aランクどころじゃないですよね?」
「いや私はしがないAランク冒険者さ。」
いくよっというシャロルの掛け声とともにまた〝淀み〟が回転を始める。
「クソ、あのバカ調子乗りすぎだ!」
俺はとても焦っていた。
〝淀み〟なんてもん使われたらいくらシオンでも勝てる見込みはない。
俺はすぐシオンの助けに入ることを決めた。
試合中にそんなことをすれば勿論、シオンは失格となってしまう。
だがあの〝淀み〟はシャロルが解除しない限り、一生当たった対象を淀ませ続ける。
それだけ恐ろしい技なのだ。
「アレン、大丈夫!?」
俺の様子に気付いた3人が心配そうにこっちを見つめていた。
そうだ、早く対策しないと観客全員が危ない。
「ビエーブ今からシャロルのとんでもない攻撃がこっちまで飛んくるかも知れない。だから観客席を守ってくれ!」
全員が困惑する。
「どういうことです?観客席にはそもそも魔法障壁がはられて……」
ビエーブがそう言いかけた瞬間
「ぎぁぁぁぁ!目が、目が見えない!」
「なに!?何が起きたの!?足が動かないわ!?」
観客たちが少しずつ〝淀み〟に犯され始めていた。
「シャロルのあれは魔法を侵食し崩壊させる。だから障壁1枚くらいじゃ意味ないんだ!?」
ビエーブ、イル、リップは事態を完璧には飲み込めてはいなかったが、深刻さは理解出来たようだ。
「分かりました、やってみます!」
ビエーブはそう言うと杖を出し呪文の詠唱を始める。
「シオンは!?」
イルが俺の肩を掴み問いただす。
事態の重さを鑑みてイルもシオンを助けに行くべきだと踏んだんだろう。
「シオンは俺に任せろ、イルとリップは観客の避難を優先してくれ!」
イルとリップは頷くと、すぐに避難誘導を開始した。
俺はリングを飛び出し、空中で右手に持っていた小瓶を握り潰す。
すると右手に手のひらサイズの魔法陣が展開されそこから数十本のナイフを取り出した。
そして杖を取りだし
「
と唱える。
するとナイフがアレンの周りを飛びまわり飛んでくる淀みからアレンを守り始める。
シオンは無数に飛んでくる〝淀み〟をいつも自分が使っている剣で受けていた。
「流石の対応力の速さだね、この〝淀み〟は意思を無に返す力。つまり意思の無い物で受ければいいってことなのさ。」
シャロルは平然と自分の技の弱点を語った。
それが出来るのも当然だ。
こんな数の攻撃は分かっていても魔法無しで防げるものじゃない。
シオンも剣で防げる限界を迎え、足や肩、目や耳に〝淀み〟をくらってしまった。
視覚と聴覚を失ってしまったシオンはその場に立ち尽くす。
何も見えない、何も聞こえない。
何も分からないという、恐怖が突然シオンを襲った。
足も感覚がない、どうしよう、怖い。
敵は今どこにいるのだろうか、自分は何をしたらいいのか。
分からない、怖い。
「だ、誰か助けて!」
シオンは生まれて初めてその言葉を口にした。
「そろそろ終わりかね」
そう言ってシャロルが〝淀み〟をシオンに集中砲火させたその時、アレンがシオンを抱き抱え周りに飛ぶ15本のナイフで全て受けきった。
「なんだお前さんは……………ア、アレン!?」
「調子に乗りすぎだぞ、シャル」
「お前さん………まだ冒険者を……」
シャロルは目を見開き驚きを隠せないでいた。
そしてシオンを抱える俺を見て、腑に落ちたような顔をした。
「そうか、そうか、そうか!だからロゼッタはこんなにも力を付けたんだね!?お前さんが入ったから!」
「お前にバレるのは嫌だったんだけどな。」
俺は肩を落としてやれやれといった仕草をする。
「ていうかなんだその魔力、虫の息程しかないじゃないか?」
驚いていたシャロルだがすぐに冷静になり俺を見つめ、少し落ち込んだようにそう言った。
「宝剣シャーリー、これだけ言えばわかるか?」
「!?……なるほどね。お前さんが何故ロゼッタにいるのか分かった気がするよ。」
シャロルはふぅと息を着くと、杖をこちらに向ける。
「のぅ、お前さんがどんな事情であろうが、私の前に現れたということは戦うということでいいのだな?」
シャロルは隠しきれない喜びで肩が小刻みに震えている。
「いや〜、俺は世間話をしてはいサヨナラが望ましいんだけどな?」
俺は頭の後ろを掻きながら、ヘラヘラとそう言った。
「臆せずとも良い。お前さんはいま力が弱っているからね、殺さないでいてあげるよ。」
シャロルは余裕ぶった顔でこちらを見つめる。
だが違う、俺はそういう意味で言ったのではない。
「いや、お前のために言ってんだけどな?」
「どういうことだ?」
「いや、流石にFランクまで落ちた俺にまで負けちゃったらお前次何ランクになるつもりだよ?」
シャロルの眉間に渓谷のような皺がよる。
{あとがき}
次回は8月20日金曜日の20時に投稿予定です!
小説のフォロー、評価して頂けるとすっごくうれしいです!
予選終わんなかったw
作中アレンがシャロルのことを〝シャル〟と呼んでいますがあれは間違いではなく、アレンはシャロルのことをシャルと呼びます。
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