第15話 魔剣〝不可説不可説転〟の話

魔法を切る。


そんな言葉は存在しない。


いやありえない。


だけど、今この会場でそれは起きた。


その場にいた人達全ての常識が覆る。


「すげ…」


「なに、何が起きたの?」


「なにか特殊な魔法、いやでも魔法使えないし」


「これとんでもねぇことしたんじゃねぇーの!」


徐々に事態を飲み込んでいった観客は1人また1人声を出して興奮する。


「うおぉぉぉ!すげぇぇぇぇ!!」


たちまち観客全員が大いに盛り上がる。


「あの小刀一体何なの!?」


イルはリングに目をやったままこちらに問う。


「あれは魔剣〝不可説不可説転〟所有者が望んだものを1つ、何であろうと斬ることが出来る。」


「何でも!?」


「そうだ、斬るものに制限はない。物体であろうと、概念であろうと斬ることが出来る。」


ビエーブも口を開く。


「そ、そんな神のような力を持った剣が存在するのですか!?」


「あぁ、だけど俺には使いこなすことができなかった。」


俺は頭の後ろで手を組む。


「どうしてですか?アレンはどんな剣も使いこなして来たのでしょう?」


「あれは、魔法を使えるものには扱えないんだ。」


みんなの頭の上に?が浮かぶのが目に見えて分かる。


俺は解説を続けた。


「正確に言えば、所有者が純粋な意思で斬りたいと願わなければ切って貰えないんだ。」


「アレンは純粋な意思がなかったってこと?」


イルがまるで俺が汚い大人みたいな言い方をしてきたので訂正に入る。


「いやいや前も言ったと思うけど、魔法=人の意思だろ?つまり魔法がつかえる俺たちには常に誰かの意思が流れているってことだ。それでの俺たちの意思は純粋とは言えない。」


「じゃあ魔剣使う時だけ魔法使わずに使えばいいじゃない?」


イルが問う。


「それでもダメだ。過去の人々の意思が魔力になるんだからそれが流れてる時点で、俺達はそもそも扱えないんだよ。」


ビエーブが少し前のめりで発言する。


「それじゃまるでシオンの為にあるような剣ですね。」


「そうだな、だけど〝不可説不可説転〟がシオンに向いている理由は他にもある。」


リップがペシっと俺の太ももを叩く。


勿体ぶらずに早く言えということだろう。


「俺はお前達と鍛錬して気付いたそれぞれの良い点が沢山ある。イルは戦闘において常に次の策を考える機転の良さ、ビエーブは多彩な魔法を生かすための作戦を練ることが出来る頭の良さ、リップは《読心術》生かした敵の予想を裏切る攻撃。そしてシオンは戦闘におけるセンスと異常なまでの集中力。」


俺は少し間を空けて話を続ける。


「アイツと鍛錬している時、俺は何度も殺されると思った。もちろん負けたことはないがアイツの戦闘中に放つ殺気はそれだけで人を殺せそうな程だ。そしてその集中力。アイツは最大で8時間俺と戦い続けたからな。そしてその集中力は〝不可説不可説転〟にとって最も大事な力なんだ。」


「どうして?」


「あの魔剣の力を引き出すためにはかなり斬りたい対象に集中する必要がある。それはもうその対象と自分しかこの世に居ないと思えるほどにだ。常人にはそんなことは無理だ、だけどあいつの身体能力の高さと異常な集中力はそれをなしえてしまった。まぁ勿論まだ完璧に使いこなしてい訳では無い。失敗もよくする。」


だから、その集中力が高い内にシャロルを倒せるといいのだが………







「うわっ上手くいってよかった。」


シオンは自分の頭の後ろを掻きながら、照れくさそうに会場の熱に応える。


一方シャロルの仮面の下の美しい顔は大きく歪んでいた。


それもそうだ何年も鍛錬を積んできた魔法が魔法の使えない、ほんの数年生きただけの小娘に叩き斬られてしまったのだ。


雷系魔法シャロン


シャロルは再び杖を取り出しそう唱えると魔法陣から電撃が不規則な動きをしながらシオンに向かって飛んでいく。


魔法を斬る。


確かにその能力は強力だ。


だが剣は1本、人の腕は2本、人の反応速度にも限界がある。


シャロルは複数の不規則な攻撃は対応できないだろうと踏んだのだ。


しかし雷撃がシオンに近づいて行くにつれシオンの顔つきが変わる。


今までの朗らかさは無く、その目にはっきりと殺気がこもっていた。


そして目にも止まらぬ早業でその不規則に動く雷撃を全て切り捨てたのだ。


およそ人間とは思えないほどのスピードと判断力そしてその雷撃を全て捌き切る集中力。


シャロルは確信した。


この娘は強い。


一応ロゼッタの試合は全て見てきた。


その中で何となくそんな気はしていたのだが、対面して確信に至る。


魔法のない純粋な戦闘力でいくとAランクには相当するであろう。


あの人が欲する訳だ。


そして改めて実感する。


魔法というものがどれだけ人間の力を増強しているのかを。


シャロルは数歩後ろに下がるとシオンに向かって深くお辞儀をする。


会場がどよめいた。


「私は失礼な事をしていたようだね。お前さんには本気で相手をしないといけないみたいだ。」


「あ、いやいやそれはどうも……って今まで試されていたってことですか!?」


シオンは相変わらず緊張感のない返事をする。


シャロルは頭を上げるとニヤッと口角を上げる。


そして両腕をバッと広げ、魔力を解放する。


すると爆発でもしたかのような強烈な風がシャロルを中心に吹き荒れる。


会場のあらゆる設備にヒビが入る。


空は急激に曇り、空気が重くなる。







もちろん、観客席までその魔力は伝わってくる。


「す、すごい魔力。肌がピリピリするわ」


イルとリップは自分の両腕の二の腕を掴みさすっていた。


「…………ッウプ」


突然ビエーブが口を抑えて、前屈みになる。


「大丈夫!?」


「大丈夫か!?」


俺とイルはすぐにビエーブの異変を感じ取り、リップは背中をさすっていた。


「皆さんそこに、いますか!?今私の背中をさすっているのは誰ですか!?」


!?


「そうか」


俺は事態瞬時に理解した。


魔力感知で周りの状況を感じ取っているビエーブは、シャロルの大きすぎる魔力に強く当てられしまった。


この魔力はヴァイゼルグの比ではない。


恐らく今かなり感覚が混乱して、パニックを起こしてしまっている。


身体弱体化魔法マラファル


俺は魔法感知能力を一時的に下げるデバフ魔法をかけ、ビエーブを落ち着かせた。


だんだんと落ち着いていくビエーブを見て一安心したイルは俺に尋ねる。


「あのシャロルって人ホントにAランクなの?明らかにヴァイゼルグよりも強そうだけど……」


俺はその質問に申し訳なさをたっぷり含みながら答えた。


「えっと……アイツのいるパーティーが全員で俺1人に挑んで来たことがあってな、それで俺圧勝しちゃって………その時パーティーはSランクだったんだけど、俺に勝つまでAランクで修行を積むとか言いだして……」


それを聞いたイルははぁと溜息をつきながら


「強すぎるってのも問題なのね。」


と言った。







「すごい魔力………」


シオンは魔力を有していないため、魔力感知の力はない。


だが目の前にいるこの人がまとっているオーラは間違いなく魔力だろう。


自分にすら見えてしまうほどの魔力。


かなりの強敵だ。


だが何故かシオンはどこか喜びを感じていた。


こんな強い人とこんなに早く戦えるなんて。


しかもこの人は自分に本気を出してくれる。


アレンは強かったけど、手を抜いているのが丸わかりだった。


この人は本気できてくれる。


「私はまだ魔法しか斬れないけど、殺す気でやる。」


シオンはそう呟くと〝不可説不可説転〟を両手でしっかり握り、構える。


シャロルは自分を見つめるシオンの目にさっきよりも強い殺気を感じる。


「お前さんが私を斬るときそれは私を殺す時だね。」


シャロルがその言葉を言い終えると同時にシオンは物凄い速さで間合いを詰める。


土系魔法古今松富嶽


シャロルも今までとは比べ物にならないほど速さで魔法を唱える。


するとシャロルとシオンの間の地面から突如巨大な土でできたの大波が発生する。


シオンはすぐにそれに反応し、前進する体に足で急ブレーキをかけすぐに後ろに飛ぶ。


しかし波があまりにも大きく飲まれてしまいそうになる。


そこでシオンは空中でバク宙しながら〝不可説不可説転〟でその波を斬りながら後ろに飛んだ。


そしてシオンを飲み込みそうだった波の部分は綺麗に真っ二つに裂けてしまった。


しかし、本気のシャロルの攻撃の手は止まない。


水流系魔法悲流崩地維


シオンが着地した部分の地面が直径1メートルほどの水溜まりと化した。


しかしもちろんただの水溜まりではないその深さは尋常ではなく、シオンはたちまちその水溜まりの中へと沈んでいく。


しかし、シオンは上半身が沈み切る前に〝不可説不可説転〟をすぐに水溜まりに突き刺す。


すると魔法が効力を失いシオンの下半身はたちまち地表へと帰ってくる。


それから幾重もの魔法の連撃が続く。


シオンも何発かくらいながら何とか対応する。


「はぁ……はぁ…ほんとに厄介だねその刀。」


「こんな息をする間もない連撃……正直かなりキツイなぁ」


状況はシオンの劣勢だ。


だがシャロルも致命的な一撃を決めれずにいた。







このハイレベルな戦いを見ていた観客・実況も声を出せずにいた。


予選とは思えないほどの攻防。


俺はその様子を見ながら、ニヤケが止まらなかった。


シオンは魔力がない。


それだけでどれだけ生きにくかっただろうか?


この世界で魔法が使えないなんて、冒険者以外の仕事でも働き手はほとんどない。


でも冒険者になったとしても周りとの力の差は歴然。


魔法使いはシオンにとって天敵。


そうだった。


だから最弱と呼ばれた。


だけど、今はどうだ?


今魔法使いにとってもっとも天敵なのはシオンかもしれない。


しかし、俺はシオンの異常な成長っぷりに目を奪われて、シャロルという魔術師の見境のなさを忘れていた。







「なぁ、お前さん〝オリジナル〟ってきいたことあるかい?」


シャロルは唐突に話始める。


「ううん、聞いたことない。」


「そうかい、じゃあ今日その目に焼き付けるといいよ。もっとも理解できるまで意識を保てていればの話だけどね。」


そう言ってシャロルは仮面をとりその美しい顔を顕にした。


「え、めちゃくちゃ美人じゃん。」


シオンは素直にそう言った。


シャロルはフフッと笑うと1度も目を閉じる。


そして再び目を開くとその目はエメラルドに輝き、血涙を流していた。


「え?何それ……」







「馬鹿野郎、オリジナルを使う気か!?」


俺はシャロルの目を見て確信した。


不味いあのバカ調子に乗りすぎだ、オリジナルなんて大会で出していいものじゃない。




{あとがき}

次回は明日の20時投稿予定です!


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次回予選が終わります(多分ww)

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