第9話 リップ覚醒までの話
冒険者武闘会に向け鍛錬を続ける俺たちの元に新聞が届いた。
「うわっ私たちのこと記事になってるよ!」
シオンがそう言ってみんなを集める。
「゛最弱のロゼッタ優勝宣言!?実力だけでなく判断力も欠如していたのか…゛だって」
「ただの見栄っ張りのように書かれていますね。」
シオンとビエーブが記事を読み上げる。
記事では批判でもいいから注目を集めたかったとか、頭がおかしくなったとかそんな事ばかり書いてあり世間の誰も俺達が本気で言ってるなんて思っていないらしい。
「そんなの言わせておきなさいよ、それよりも私達が見るべきはこっちでしょう。」
イルはそう言って新聞と一緒に届けられた武闘会の対戦表を広げる。
「ついに来ましたね、私誰と戦うのでしょう?」
「うわ!ドッキドキしてきたぁ!」
皆が嬉しさと緊張を交えた表情で対戦表をみつめる。
予選は各地区でAリーグからFリーグまであり、各リーグはトーナメント形式だ。
その各トーナメントで優勝した選手が王都(ロゼッタのいる街)で開かれる決勝トーナメントへ駒を進めることが出来る。
俺達は王都のギルド(都市ギルド)で登録をしたが都市ギルドが主催するのは決勝トーナメントだけなので田舎の街ギルド主催の方へ赴き予選に参加する。
「なるほど大体みんな初戦の相手はFかDランク冒険者ね、この分なら最初は問題なさそう。」
「うわっでもイルがいるBリーグにはAランク冒険者が出場するらしいよ」
「関係ない、勝つだけよ」
イルとシオンがそんなやり取りをしていると
「でもリップの初戦の相手はCランク見たいですよ。しかもリップは私達の中で1番最初に試合があるみたいです」
ビエーブが対戦表に目をやりながらそう言った。
Cランクか…大会の雰囲気とかそういうのがどうなのか不安ではあるが正直今の実力なら問題ないだろう。
「えーその対戦相手の名前は……………ユワン・メイジ」
シオンがそう読み上げた時、一緒に対戦表を見ていたリップの表情が固くなる。
その顔は少し焦ったような恐怖を感じているかのようだった。
「リップ大丈夫か?」
俺の問いかけに気づいたリップはブルブルと頭を横に振って何かの考えを振り払い、いつもの笑顔に戻ってコクリと頷いた。
俺は少し不安を感じた。
そしてその不安は的中してまった。
大会当日予選が開かれる街ギルドは田舎のため普段そこまで人は集まらないのだが、今日はかなりの数のひとが集まっている。
今日はリップが出場するAリーグの初戦が行われる。
「今日一日でロゼッタは何回恥をかくかなぁ」
「優勝宣言がどれだけ分不相応かわかるだろ」
「ていうか今日出場するロゼッタの相手Cランクなんだろ、初戦突破どころか1発も当たんないじゃねww」
「今日は沢山笑わしてもらうか」
そんな声が町中から聴こえる。
どうやら俺達は調子に乗っていると思われているようだった。
いよいよ本番。
試合は特設された円形競技場で行われる。
「さぁ!始まりました冒険者武闘会予選Aリーグ!実況及び解説は私元Aランク冒険者シャイムがお届けいたしまぁース!」
元とはいえAランク冒険者がこんな所に登場し場内はかなり盛り上がる。
まぁAやSランク冒険者なんて一生に1度目に出来れば凄いくらい滅多に会えないからな。
というかアイツこんな仕事も引き受けてるのか。
俺は勇者時代の知り合いの登場に少し驚いた。
まぁ今はそんなことよりリップの試合に集中しよう。
「さぁ!いよいよ選手の出場です!!」
場内内は更に盛り上がりを増していく。
「西口ゲートから登場するのは何と冒険者を初めて僅か半年でCランクまで上り登りつめた才能を持つ、冒険者パーティーレイズ所属………ユワン・メイジ!!」
うわーーー!という歓声と共に西口ゲートから登場したのはサラサラの金髪をなびかせ釣りあがった目に意地悪そうな笑顔を浮かべる少女だった。
「やれーー!ユワン!調子こいてる雑魚に現実を思い知らせてやれー!」
場内の観客はそんなようなことを口々に叫んだ。
「さぁ続いて東口ゲートから登場致しますのは!大会前優勝宣言をして世間賑わせた最弱のパーティーロゼッタ所属……リップ!!!」
東口ゲートから登場したリップはとても緊張している様子で、石畳出できた正方形のリングに上がる段差で盛大に転けてしまい情けない登壇をしてしまった。
会場は笑いに包まれる。
「大丈夫かぁ!?棄権したほうがいんじゃねぇーの」
「優勝みせてくれよぉ!期待してないけどww」
「歩き方から鍛錬した方がいんじゃねwww」
観客はみなリップをバカにするようなことを言った。
だけど俺達はそんな観客の言葉なんて全く気にしていなかった。
この中で俺たちだけがリップの強さを知っているからだ。
「両選手リングにそろいました!1回戦スタートです!」
カンっという大きな音が場内に鳴り響きいよいよ試合が始まった。
ゴングが鳴る数分前、リップがリングに立ち準備を整えるとユワンが話かけてきた。
「リップってあなたあの孤児院にいた゛お漏らしリップよね゛」
リップはドキッとする。
「あぁやっぱりその反応そう見たいね。」
リップは顔を伏せている。
「何あなた冒険者なんてやってたんだ、しかも実力は最底辺。あなた昔から何も出来なかったけど冒険者になってもそう見たいね」
リップは目を合わせようと必至に顔をあげようとするが怖くて出来ない。
リップはアイルが院長を務める孤児院に入る前に違う孤児院に入っていた。
その孤児院でリップをイジメていたグループのリーダーがユワンなのだ。
「私冒険者初めて半年でCランクまで行ったの、凄いでしょ?やっぱりあなたは私の下で生きてる動物なのよ。」
その瞬間試合開始のゴングが鳴った。
試合開始直後早くもリップは押されている。
ユワンから放たれる魔法をただひたすらギリギリで避けている。
「おいおい!避けてるだけじゃ話にならないぞ」
観客からそんな野次が飛ばされる。
俺達もすぐにリップの動きに違和感を覚える。
「何かあの子動き、鈍くない?」
イルのその問いかけにみんな頷く。
「いつもより何倍も動き出しが遅いね、やっぱり緊張してるのかな?」
「いや、でもあの位の攻撃なら緊張してても余裕で避けられるはずだけどな」
何かがおかしい皆そう思った。
そんな中リップは恐怖と戦っていた。
昔自分をイジメていた相手との戦い。
どうしても脳裏にこの人に逆らってはいけない、もっと酷いことをされるとよぎってしまう。
しかしこのまま避けていだけではダメだ。
そう思ったリップは前に詰めようと足に力を入れた瞬間、ユワンと目が合った。
自分を虫としか思っていないようなその目、体が暴力や嫌がらせを受けていた日々を思い出してしまう。
刹那足に入れていた力が抜け体制を崩してしまった。
「不味い!」
俺は思わず言ってしまった。
「ハハ!ダッサ」
そう言うとユワンは
ユワンは拳に炎を纏い一気にリップとの距離を詰め腹に一撃を加えた。
リップは物凄い勢いで飛んでいき場内の壁に壁に打ち付けられる。
「おおーと!コレは強烈な一撃がリップ選手の腹部に命中、やはり最弱は最弱なのか!ここで勝負あったかぁぁぁぁ!」
そんな実況と共に会場は歓声と爆笑に包まれる。
「やっぱりロゼッタは最弱なんだよなぁぁ!!」
「二度と調子こいたことゆうなよ!」
「ユワンよくやったぞ!!」
「あんだけ言っといて1発KOはダサすぎるw」
そんな言葉が飛び交う中ずっと黙っていたビエーブが口を開いた。
「思い出したあのユワンって人」
皆がビエーブに続きを話すように促す。
「おばあちゃんが教えてくれたんですけど、リップは私達のいた孤児院に来る前に違う孤児院に居たみたいなんです。そしてそこでは私達のとこ以上に酷いイジメが起きていたらしいんです。暴力や差別は当たり前、リップがトイレに行くことを邪魔してその場で漏らさせたりして………だからおばあちゃんの孤児院にリップが来た時は暫くお漏らしが治らなかったみたいな事があったとか。」
「ひどい、そんな奴がいまリップと平然と冒険者やってるての!?」
みんな拳を握りしめる。
そしてビエーブが衝撃なことを告げる。
「実はリップは生まれつき耳が聞こえない子ではあったのですがイジメられる前は声を出して自分の意思を伝えようとする子だったらしいのです」
「そうなの!?」
皆が驚く。
俺も初めて聞いた。
「はい、でもイジメられていたあの期間院長も含め誰もリップの声を聞こうとしなかった。きっとあの子なりに何度も助けを求めたはずなのに、その声は誰にも届かなかった。あのイジメでリップは自分の意思と声を失ってしまった。」
皆言葉が出なかった。
「あの子の声聞きたいな、私達ならどんな言葉だって聞き逃さないのに。」
シオンのポツンと言ったその一言を聞いた瞬間、全員の頬に涙が伝っていた。
リップの声を聞きたい。
それは俺達みんなが1度は考えたことがある願い。
リップが俺達の会話に交えたら……
「そんなの…私だってそうよ」
「私だって何度もそんな夢みてますよ」
みんな声を震わしながら掠れた声そう言う。
そして俺は考えるより前に体が動いていた。
「リップーーーーーー!!!!!!がんばれ!!!!大丈夫俺達はお前のそばにいつもいるぞ!!!」
それは周りの歓声に負けないほど大きな声だった。
俺に続きイルが立ち上がる。
「リップ!!!そんな奴やっちゃいなさい!」
シオンが立ち上がる。
「やれるよ!!!リップ!!まだ負けてない!!」
そしてビエーブも立ち上がる。
「リップがんばれ!!私達ならいつも一緒ですよ!!」
壁に打ち付けられたリップは飛びそうになる意識を何とか保っていた。
痛い、怖い、そんな感情が頭をめぐる。
何のためにここまで頑張ったのか、自分を支えてくれたロゼッタのみんなごめんなさい。
私はまたみんなに迷惑をかけてしまう。
リップの頭の中は孤児院でCランク冒険者達にやられた記憶が巡っていた。
イル姉ちゃんは私の為に靴を舐めようとまでしてくれた。
私がもっと強かったら皆を助けれたのに……
リップは額から流る血で前がよく見えない。
ユワンが私に近づいてくる、きっとトドメを刺そうとしてるのだろう。
お客さんはなんて言ってるだろう。
ボヤける視界で周りを見つめる。
あぁ、笑ってる。
私の弱さをみんな笑ってる。
私はロゼッタの皆に出会えて少しは強くなれたって思えたのに………
私は昔から何も変わらない。
リップの目から悔し涙が流れる。
ごめんなさい。
しかしそこではリップはたった1人立ち上がっている観客を見つける。
アレン兄ちゃんだ。
イル姉ちゃんだ。
シオンお姉ちゃんだ。
ビエーブ姉さんだ。
ロゼッタのみんなだ。
私に向かって何か伝えようとしてる、なんて言ってるんだろう。
でも不思議だ、周りのお客さんとは違って私を信じて応援してくれてることが分かる。
いつだってそうだった。
皆は耳の聞こえない私が会話に入れるように毎回伝えてくれた。
みんな決して私という存在を諦めなかった。
信じてくれていた。
だからみんなと勇者になりたい、それが私の夢になった。
みんな席を立っちゃいけないのに、立ってるし。
聞こえないのに声援を送ってるし。
あぁみんなの声が聞こえたらどんなに幸せだろう。
どんなに楽しいだろう。
みんなはどんな声してるんだろう。
聞きたい……………………………………
みんなの声が聞きたい!!
その時だった
スキル
自分の中で何かのスキルが発現したことに気づく。
「……………っれ」
あれ?
「…………………ばれ!」
なに?
「がんばれ!!リップ!!!!」
聞こ………える。
みんなの声が聞こえる。
他のお客さんの声は聞こえないけどみんなの声ははっきり聞こえる。
ありがとうみんな。
私みんなの声聞こえるよ!
「死になさい!!」
リップはハッと前を向くとユワンが目の前で殴りかかろうとしていた。
リップは心の中で念じる。
スキル
「こいつの顔面を右から殴りつけて終わりよ」
ユワンの心の声が聞こえる。
{あとがき}
次回は20時頃に投稿予定です!
小説のフォロー、評価して頂けるとすっごくうれしいです!
次回はユワン戦決着です、そして続きも
※読者様より矛盾している点を指摘して頂いたので編集し改善させて頂きました。
このように設定上の矛盾点がありましたらレビューやコメントなどでお知らせいただけるととてもありがたいです。
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