第5話 リップ1歩リードまでの話
「てっテメェいつの間にそこに居やがった!?」
Cランク冒険者達はすぐに戦闘態勢に入る。
俺は腕に抱えたリップを見つめる。
顔や腕に魔物に引っ掻かれたであろう傷、そして何かに強く打ち付けられたような打撲と口から流れる血。
痛々しい。
可哀想に。
俺は辺りを見渡し情報を集める。
なるほど。
俺はコイツらがイル達に何をしたのか大方検討が着いた。
「
俺は残った魔力をリップではなくシオンに使った。
シオンの傷が癒えていく。
「シオン、リップを抱えて村の医者の所に連れて行ってくれ、今の俺ではほんの少ししかリップを回復してやれない。」
シオンは少しよろけながら立ち上がる。
「分かった任せて。イルとビエーブは?」
「リップに比べたらまだ大丈夫だ。安心しろもう2人が怪我を負うことはない。」
シオンは頷き俺からリップを受け取ろうと向かってくる。
「んなことさせるわけねぇーだろ!」
リーダーらしき男が指示を出すと屈強な男がシオンに掴みかかろうと腕を伸ばす。
「動くな!!」
俺のその声は村全体に響き渡るほどの大声だった。
その瞬間。屈強な男の脳裏に今伸ばしている手が吹き飛ぶ映像が流れる。
彼は額から大量の冷や汗をかき目の前を通るシオンを何もせず見送った。
「おい、何やってんだよ!俺の命令が聞けねぇのか?」
リーダーらしき男が叫ぶ。
「てめぇ!あいつに何した!?」
「何もしてない。ただアイツは自分の身の危険を本能で感じただけだ。」
本能で戦う生物はより殺気を感じやすい。
あの屈強な男は俺の殺気を感じたんだろう。
実際あいつがシオンに指1本でも触れていたら…
「アレンこれあげる。」
俺の元までたどり着いたシオンが小瓶をくれた。
「これ少しだけど魔力を回復してくれるやつね。本当はさっき使おうとしたんだけど、私が使っても状況は変わらないと思ったから。あとから来てくれる君のために持ってたの。」
俺は驚いた。
「間に合うかも分からない俺を信じて待っててくれたのか?」
俺の問いかけにシオンは不思議そうに返事をする。
「最善を尽くすって言ってたじゃないですか?私はバカだから沢山間違えるけど、仲間を信じるのは大正解って知ってます!!」
「………そうか。ありがとう」
「お易い御用です!」
そう言うとリップを抱えたシオンはアラホラサッサとかいう緊張感の1つもない掛け声とともに全力で走っていった。
「さっきから好き勝手しやがって、テメェもこのロゼッタの仲間か?」
「そうだ。」
俺は混み上がる怒りを冷静に抑え込む。
《魔力効率化》は術式が複雑であるため常に冷静を保たなければならない。
「うっそーじゃあ結局雑魚じゃん。見た感じもう魔力も使い切ってるっぽいし。」
Cランク冒険者の女が少し安心したように口を開く。
「あぁ、だけど今回復するから」
「回復? その小瓶でか?」
「きゃははは!うっそその程度魔力が回復したくらいで私達に勝つつもりなの?頭大丈夫?」
リーダーらしき男と女が俺をバカにして嘲笑う。
その言葉を聞いてイルと俺は少し口角を上げながら同じことを言った。
「お前達(アンタ達)を倒すのには十分だ(十分よ)」
俺は唱える
「
「舐めやがっ……………」
リーダーらしき男がが杖をとり出す直前に俺は軽く男の溝落ちあたりを軽く突いた。
その刹那男は吹き飛んだ。
それはそれはものすごいスピードで。
ドシャッという鈍い音ともに男は地面を転がる。
「え?」
Cランク冒険者の女と屈強な男は何が起きたのか理解出来ず。ただ突っ立っていた。
「なにしたのよ!!その魔法なんなのよ!」
女がかなり焦った様子で俺を怒鳴りつける。
「いや、魔法も何もアイツを軽く小突いただけだ」
「ふざけんじゃないわよ!《筋力増強 小》程度の魔法で小突いたくらいじゃ、あんなに飛んでいくわけないでしょ!?」
女が杖を取り出し、屈強な男に向かって魔法をかける。
「
魔法を受けた男の体はひと周りもふた周りも大きくなった。
「きゃははは!どう?あなたのと比べて私の魔法は数段上なの!私はAランクレベルの魔法を使えるのよ!!」
やっちゃいなさい!という命令と共に男が襲いかかる。
しかし、男が大きく風をきって突き出したその拳は俺の左手に難なく受け止められてしまった。
男はうがぁ!と唸り声を上げ何度も何度も殴りつけてくる。
その全てを俺は片手で受け止める。
まるで赤子と大人が遊んでいるようだった。
「何やってるのよ、そんなやつ早く、、早くやっちやってよ!」
「これがお前らの全力か?」
ぐがぁぁぁぉぁぁぁ!!!
男が渾身の力を込めた一撃を放った。
その拳の風圧に砂埃が舞う。
「やっとくらったわね」
女そう言って満足気な顔をうかべた。
しかし砂埃が落ち着いていくとその顔は焦燥に覆われる。
「あ、ありぃぇなぃ………」
女はその場に座り込んでしまった。
俺は男の拳を人差し指で受け止めた。
軽い演出のつもりだったがこれがかなり効いたようだ。
「リップ投げたのは確かこの腕だったな?」
俺は受け止めた腕の手首を掴む。
また本能が働いたのか男は必死に俺の手を振りほどこうとする。
しかしビクともしない引き抜けない。
男の額から脂汗が出る。
その様子は猛獣に噛まれた草食動物のようだった。
その顔はやがて恐怖に変わり、死ぬ、死ぬ、と言わんばかりに何度も何度も何度も振りほどこうとする。
その目には涙が浮かんでいた。
引きちぎられる。
きっとそう感じているのだろう。
「安心しろ。イルやロゼッタのメンバーの前ではエグいことはしないつもりだ。」
俺は男の腕を掴み一本背負いした。
その間わずか10秒足らず。
地面は大きく割れ男は意識を失った。
「うそ…でしょ……そんな、そんなわけない!!こっちはAランクの魔法を使っているのよ!!」
「確かに俺の魔法はDランクがいいとこだ。だけどな、出力される魔力はSクラスに及ぶ。」
「意味が分からないわよ!そんなことAランクの魔法がDランクに負けるなんてあるわけないじゃない!!」
女は半泣きでそう主張する。
「そんなことより俺に構っててていいか?」
俺は村の入口の方を指さす。
「お前らのリーダーこのままだとゴブリンに襲われるぞ」
そう俺が男を吹き飛ばした方向はまさにリップが飛ばされた辺りだ。
ゴブリンの群れはもうすぐそこまで迫っていた。
さぁ、どうする?
「知らないわよあんなやつ。」
即答だった。
あまりにも悪びれもなくあっけらかんと女は言った。
イルはリップのためにこいつらの靴を舐めようとまでしたんだぞ。
なのにこいつらは仲間が危険に晒されても助けようともしない。
イルよりも何倍も強いのに。
こんなことがあっていいのか?
力を持つべき者が持てず、持つべきでない者が持てない。
持たざる者は持つ者と対等ではない。
生まれ落ちたその瞬間から弱者としての運命を歩むしかない。
おかしいだろそんな世界!!
「イル。新しい世界を見せてやる。」
俺は女の両足をつかみ地面にめり込ませた。
「何これ足が抜けない!!」
そしてスグにゴブリンの群れの方に向かう
その速度にイルは目が追いつかない。
「火球の渦へ
俺は走りながら呪文を唱える。
すると魔法陣から数千の火の玉がゴブリン達を襲う。
1匹また1匹とゴブリンが燃え上がる。
ゴブリンの群れはその影も見えないほど完全に焼失してしまった。
「お前何者なんだよ…………」
リーダーらしき男は脳震とうで立てないためか、這いつくばりながらその光景を見ていたらしい。
あ、こいつ意識あったのか。
「お前生きてたのか」
俺は男を睨みつける。
「ヒィッご、ごめんなさい!殺さないで!」
「許すと思うか。お前らは俺の大切な仲間を傷つけリップを殺そうとした。」
「そ、それは済まなかったよぉ、アンタみたいな化け物が仲間にいたなんて知ってたらこんなこと…」
「そうか、俺がいなかったら…いなかったら殺してたって言うことか。」
「あ、いやちがっ」
「もういい。死ねよお前」
俺は男から角笛をとり大きく息を吸う。
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
男は何とも情けない姿で情けない声を出し失禁した上で気絶した。
もちろん角笛は吹かずその場で踏み砕いた。
数日後
俺達は怪我が重いメンバーもいたためしばらく村で療養していた。
そして数日がたってやっとアイルさんの意識が戻ったらしい。
孤児院に行くと俺以外のロゼッタのメンバーが集まっていた。
「お、あの子が噂の彼かい?」
アイルさんが嬉しそうにそう話す。
「そうよ!凄かったんだからおばぁちゃんを治しちゃうし、物凄い数のゴブリンも一瞬で倒しちゃうんだから!」
イルがアイルさんに向かって話すその姿は学校であった楽しことを話す子供のようだった。
「私もそのお姿見たかったです!!」
ビエーブが残念そうにそう言った。
「私はアレンならやってくれると分かってましたから!見てなくても平気です!」
シオンがフンッと胸を張る。
「嘘つき!私にアレンの様子を1番聞きに来たくせに!」
また始まった言い争いにアイルさんの膝の上にいたリップは嬉しそうに手足をバタバタさせる。
リップはまだ包帯が外れていないが元気そうだった。
和やかなその雰囲気。
俺は自分が守りきれたこの瞬間に心が満たされる。
しかし、アイルさんの次の一言で空気が凍りつく。
「で、アレン君は誰が好きなんだい?」
「またまたご冗談を。。。」
……………………………。
え?何この雰囲気。
さっきまでの雰囲気とは一変して凍えるような空気が部屋を覆う。
「あら?誰もいないの?」
何故か誰も喋らない。
そこには一触即発、剣士が相手に隙を見せまいとするような沈黙の攻防がくり広げられているような気がした。
まずい、この沈黙に耐えられそうにない。
ここは軽く受け流す場面じゃなかったのか?
その沈黙を破ったのはリップだった。
アイルさんの膝から降りると孤児院の黒板の方へトコトコと歩いていった。、
そしてそこに
「アレン兄ちゃん、大好き」
そう書いた。
「ええええええええええええええええ!!!!」
ロゼッタは驚きを隠せない。
そんな中微笑ましそうにアイルさんが
「あら、リップが1歩リードね」
と言った。
《あとがき》
次回は明日の20時くらいに投稿予定です!
小説のフォロー、や評価して頂けるとすっごくうれしいです!
すいません!
今回もっと話を進める予定だったのですが、長くなっちゃって話をあまり進めれませんでした。
次回は冒険者対抗戦の話が始まります。
{描写不足な点があったので付け加えます}
・どうやって孤児院まで行ったかと言うとアレンの転移魔法を使いました。でも行ったことある場所では無かったので村の10キロ前に転移してしまいそっから走りました。
・アレンは身バレ対策のため基本顔の下半分を布で隠しフードを被って行動してます。
・Cランク冒険者達は街ギルドという田舎の方のギルド所属なのでアレンの話は知っていても顔を見たことはありません。
・アイルさんに会う時アレンは素顔で会ってます。
・アイルさんの誰好き発言はリップにも紙に書いて伝えています。
今後?が浮かぶような描写をしないように頑張って行きます!
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