第6話 冒険者武闘会&オリジナルの杖の話
「ぐがぁぁぁぁぁ!!!」
イルの悲痛な叫び声が木造ボロ平屋に響き渡る。
「んもう、わけわかんない!何でここの魔術式はこうなのにコッチは違うのよ!」
「いちいち怒んな!難しいんだからわかんなくて当然だよ!!」
俺達は孤児院での件からもっと力を付けなければならないという意識が高まった。
魔法を使える組は俺から魔力効率化術式を学ぶため、日夜ユルブレヒド原本を読み明かしていた。
魔法を使えないシオンは剣術を磨くため俺と稽古をつけている。
しかし、これはとても骨が折れる。
ユルブレヒド原本は俺以外理解出来なかった難書だ。
それを学校にすらまともに通えなかった3人に教えるのはとても難しい。
「いいか、魔法=人の意思だ。あらゆる魔法は人が死に肉体から解放された意思が後世を生きる者達に魔法として力を与えるんだ。」
「うーん」
イルは頭を抱えている。
これは学校や一般の本からでは学べないことだから無理もない。
「火炎系魔法の術名は女性の名前っぽいだろ?」
「うん」
「あれは火炎系魔法は燃えるような恋をした女性の意思から生まれるからなんだ。」
「そ、そうなの!?」
「初めて知りました!」
イルもビエーブもこの話に食いついた。
「そう、過去の人間の意思が魔力となり魔術式を通して魔法になる。魔術式ってのは魔力を上手く引き出す回路って感じだな。だからここの式は意思力術式を組み込まないとだから…」
「ああああ!わかんない!!!」
「だあ!もう、またすぐ怒る!!!」
俺とイルがバトっていると部屋のドアが勢いよく開き、リップを肩車したシオンが買い出しから帰ってきた。
「たっだいまぁ!ってまたやってるんですか?」
「今日も長くなりそうです。」
シオンとビエーブは俺達のバトルを呆れたように見つめる。
「私達いつになったらDランクに上がれるんだろね?」
特訓後の夕飯の時にシオンがそう呟いた。
確かに、孤児院の一件からもう半年はたとうと言うのにいまだランクアップをギルドから認められない。
特訓の成果もあってか皆連携力や個々の力も少しずつ上がっている。
下級Dランククエストなら難なくクリアできるレベルだ。
今まで害虫駆除や掃除、ローグゴブリン退治や迷子の猫を探すとかいうFランクのクエストに比べたら随分と冒険者らしいクエストに参加できるレベルになってきた。
しかし未だにランクアップしない。
「流石に遅すぎないか?」
俺はこの話を広げることにした。
「もしかしたら最近冒険者になる人が増えたことが原因かもね」
そう言うとイルは1冊の本を取り出しテーブルに置いた。
「なんだ、この本?」
「これはアレンの元仲間の現勇者レックスが書いた自分達の冒険をまとめた本よ」
そうかアイツはこんなもんも出したのか。
読ませてもらうとそれはもう俺のやった事を自分の功績にするわ、俺は物凄い悪事を働いてるわで散々な内容だった。
「この本の影響を受けて自分もこんなふうになりたいと言う人が増えてね。魔王が倒されて強い魔物が減ったこともあって家族とかからの了承も得やすくなったらしいわよ。」
「その分アレンの嫌われ具合も増してるけどね!」
シオンに遠慮なく現実を突きつけられた。
まぁこんなこともあろうかと、俺がロゼッタという新しいパーティーで冒険者してることは公にしないように対策してきたから大丈夫だろう。
あのCランク冒険者たちは俺と気付く前に倒したし、ブームスの連中にはもし俺の事を広めたら今度は特等席でプリシラの踊りを見せてやると脅しといたので当分は知られないはずた。
「とにかく、冒険者が増えてその対応でギルドは忙しいみたいですね。」
ビエーブがそう言うと
「でもさ私達よりずっと後輩のパーティーなのにDランクに到達してる冒険者もいるよ!」
とシオンが続けた。
そこで俺は1つ仮説を思いついた。
「もしかしたら俺達がロゼッタであることが原因かもな」
「どういうこと?」
イルが問いかける。
「ランクアップはギルドに責任が発生するんだ。もしランクに見合ってないパーティーをランクアップさせてしまった場合、その冒険者が死んだときや大失敗してしまった時ギルドも責任を負うことになる。評判も下がって登録する冒険者も減るかもしれない。」
「なるほど。だから最弱と言われる私達をランクアップさせるのはリスクが高いと思われてるって事ですね。」
ビエーブが俺の意図を汲み取ってくれた。
「つまり私達の最弱ってイメージを払拭しない限りランクアップは難しいってわけね!」
イルが結論づけた。
「でもなんか方法あります?」
ビエーブの問いかけに答える者はいない。
やっぱりクエストを地道にこなしていくしかないのか。
長い道のりだな…と思っていたその時だった。
急に窓の外が明るくなって街が騒がしくなった。
「なんだ?」
そう言って俺が窓を開けると空に街を覆うほど巨大な魔法陣が展開されていた。
魔法陣から術者の声を届ける上級魔法だ。
しばらくして魔法陣から声が聞こえる。
それは懐かしいような忌まわしい様な声だった。
「皆様、私は現勇者のレックスです。本日は皆様に冒険者武闘会を開催することをお知らせします。予選開催日は2ヶ月後の今日、冒険者であればランク関係なく参加することが出来ます。各パーティーからFランクは6名、Dランクは5名、Cランクは4名、Bランクは3名、Aランクは2名、Sランクは1名まで参加することが可能です。優勝者には賞金と私達のパーティーへの加入が約束されます。では、皆様が参加されることを心よりお待ち申し上げます。」
魔法陣はゆっくりと消えていった。
「これだ!!」
という声とともに俺とイルは立ち上がった!
他のメンバーはポカンとしている。
「何がですか?」
ビエーブはどうしたと言わんばかりの表情で問いかける。
「これよ、この武闘会で勝ち進むの。そうすればきっと最弱のイメージを払拭できるわ!」
俺とイルは顔を見合わせて喜ぶ。
「そっか、アレンが居れば優勝だって目じゃ無いもんね」
シオンも理解したようでそう言った。
しかし俺はしばらく考えた後、首を横に振った。
「悪いがそれはできない。大会にはレックス達が噛んでることは確実だ。そんな中で俺が目立てばヤツは必ず気付く、そして大会は中止になるだろうし何より全力で俺を消しに来るだろう。そうなったらロゼッタが危ない。参加できない分俺はみんなを強く出来るように最善を尽くす。だから…」
俺は一人一人に目を合わせ言った。
「ロゼッタの強さを見せつけてやろう!」
おぉ!掛け声と共にロゼッタの目標が決定した。
その後シオンが紙に書いてリップに話を伝えてくれた。
俺はまたリップに飛びつかれる。
「そうなればそろそろアイツが欲しくなってくるな」
俺の発言にメンバーは首を傾げる。
「それぞれの杖だ。」
それを聞いたイルは待ってましたとばかりに頷く。
「そうよ。今までは安物の杖で我慢してあげたけど杖壊したことまだ許してないんだから。」
「わかってるよ。俺もう安物を使っては壊し使っては壊しの生活におさらばしたかったんだ。」
「では明日みんなで杖を買いに行きましょう」
ビエーブがそう提案する。
「いや、売り物を買いに行くわけじゃない。」
俺の発言にまたもやメンバーは首を傾げる。
「メイクウィズに作ってもらう。」
「うそでしょ!?」
イルは信じられないと言うように俺を見る。
メイクウィズは魔具と呼ばれる魔力の籠った道具を人口的に作るスキルを持った職人の事だ。
とても希少なスキルなので世界でも数百人しか使えないと言う。
その中でも杖を作ることの出来るメイクウィズは別格だ。
その存在自体が国同士の力の優劣にかかわってくるほどで、世界でも両手で数えられる人数しかいない。
「杖作りのメイクウィズなんて宮廷か、大貴族に雇われて専属でやっているでしょ?そこら辺でお店構えてるメイクウィズなんて私聞いたことないわよ。」
「それがな…いるんだよ。金を稼ぐことに興味ないそこら辺に店構えてるおかしなメイクウィズが。」
実は今までも何回か探しに行ったが見つけれなかった。
しかしやっとヤツが店を開いている場所をつきとめたのだ。
「私がオリジナルの杖を持つことになるなんて…」
ビエーブは嬉しさのあまり少し震えていた。
自分オリジナルの杖を持つことは魔術師なら誰でも憧れる。
それは単純にステータスってだけではなく自分の魔力にあった杖を使うことで力が覚醒するからだ。
俺は今までの話をまとめて紙に書きリップに伝えた。
また飛びつかれるかと思って身構えたが、リップはビエーブの方へ向かい震えるその手を握って良かったねと言うように微笑んだ。
リップとビエーブは1番一緒にいる時間が長い。
だからリップはビエーブがいつかオリジナルの杖を持つことを夢見ていたのを知っていたのだろう。
翌朝俺達は早朝に庭に集まった。
みんなまだ寝ぼけた様子でボーッとしている。
シオンなんて枕を抱えて来てるし。
「なんでこんな時間に集まるのよ」
イルが目を擦りながら訴える。
「しょうがないだろ。アイツの店は早く行かないとスグ閉めちまうからな」
「そうですね!早く行きましょう!」
ビエーブが元気いっぱいにそう言った。
その目の下にはクマができている。
楽しみで寝れなかったのだろう。
「いいか、これから行くところは治安が良くない。店に行ったら寄り道せずにすぐ帰るぞ!」
リップおいでと言って俺は眠そうにうつらうつらするリップと手を繋いだ。
「行くぞ!」
俺は転移魔法を使った。
{あとがき}
次回は明日の20時頃に投稿予定です!
小説のフォロー、評価して頂けるとすっごくうれしいです!
前回の話を読み返して少し描写不足な点があると思ったので編集してあとがきの部分に付け加えました。
気になる方は是非チェックしてみて下さい。
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