第3話 ロゼッタ集合&魔力効率化の話


イルの杖は後で必ずもっと良い物をあげるからと約束し何とか怒りを静めてもらった。


改めて俺はロゼッタというパーティーに入ることになったのだが、ロゼッタはイルとリップの他にあと2人いるらしい。


一応リーダーはイルらしいのでイルが加入を認めれば入れるのだが、とにかく1度会って話をしようということになり、俺はイルとリップに連れられロゼッタのメンバーが住む家に向かった。


その家は大人数で住むには十分な大きさだが、貧相で古びていた。


家の居間に招かれ入ってみるとそこには両目を閉じた美しいエルフの女性が座って待っていた。


「あら、あなたがイルが連れてきた新しい人?」


銀髪で包み込んでくれるような優しい雰囲気だ。


「そ、そうですね。」


驚いた。


この人があのチャラ男の言っていた盲目で魔眼が使えないエルフなんだろう。


だが盲目であるはずなのに意識は正確に俺の方向を捕らえていた。


「このエルフはビエーブ。うちではヒーラーを担当してくれてるの。うちのパーティーで1番魔法に長けてるのよ。」


イルは得意げにメンバーを紹介する。


「やだ、イル恥ずかしいわ。私はエルフなのに魔眼が使えないダメエルフよ。」


ビエーブは恥ずかしそうに自分を卑下する。


「一つ聞いてもいいですか?」


「俺がこの部屋に入って来た時から正確に俺の場所をわかっていたみたいですけど、どーやったんです?」


「えぇと、その認識は間違いですね。」


ハッキリと間違えを指摘された。


「あれ?もしかして勘ですか?」


「あ、いえそこではなくて。部屋に入って来た時からではなく、あなたがこの家に入って来た時からあなたの位置は正確に把握しておりました。」


凄いな。


俺も目をつぶって周りの状況を理解することは出来る。


しかしそれはそれに特化した魔法を使った時だけだ。


平常時でもそんな力を使えるのは聞いたことが無い。


「凄いですね。盲目と伺っていたのでかなり不自由なさってる思ったんですが、そこまで周りの状況が分かるなんて。」


この国最弱のパーティーと言われているののメンバーだからどんなものかと思っていたが、何か凄いヤツいるな。


何でそれで最弱なんて……


「ただですね。私が把握出来るのは魔力を持った生き物だけで、しかも把握出来る数も限られているのです。」


なるほど。


「ん?待てよ。てことは魔力持った生き物以外見えてないって事だよな。」


「そうね」


イルが答える。


「とすると今まで街の外でのクエストはどうしてたんだ?馬車を使って行くようなお金もありそうにないし。」


「ああ、それはあのバカが………」


イルが話し始めた瞬間。


バギィ!!!


という大きな音と共に何かが屋根を突き破って落ちてきた。


「噂をすれば…」


イルはため息混じりそう言うと床に突き刺さっているそれを引っこ抜いた。


「あっぶなぁー!もう少しで死ぬとこでした!ナイスだよイル!!」


その少女は黒髪ポニーテールで額にはハチマキを巻いて皮鎧を着ていた。


「アンタねぇ!何回家を壊せば気が済むのよ!ていうかフツー死んでるから。」


「な、なんだ?」


「あ、あなたがうちに新しく入るって話の人ですね!?よろしく!私シオンっていうの!いやーごめんね!!私今日魔法で空飛ぶ夢見たからいけると思って木の上から飛んでみたんだけど、全然ダメだったみたい。窓から登場して君を驚かそうと思ったんだけどなぁ!!」


訳が分からない。


そもそも全部の窓閉まってるから多分成功しても窓に突き刺さっただろうし。


「えっと、紹介してない最後のメンバーがこのシオン。うちでは剣士をしてて、ご覧の通り頑丈な体と馬鹿力でビエーブ抱えて移動してるのよ。」


「イル!バカは余計ですよバカは!」


「じゃあなんなのよ?」


「馬鹿じゃない力です。」


「長いわよ!」


「えっと、じゃあ略して…………馬鹿力?」


「アンタ馬鹿なんじゃないの?」


「あっまた言ったー!!!」


言い争うイルとシオン。


それを微笑ましく見守るビエーブ。


いつの間にか俺の膝の上に座って2人の言い争いを楽しそうに観戦するリップ。


これが俺の新しいパーティー【ロゼッタ】か。






それからしばらく話し合って、ロゼッタの大体の状況を理解した。


イルは魔力弱の拳闘士、ビエーブは魔眼の使えないヒーラー、リップは耳が聞こえないが戦闘及び偵察。


そしてシオンはイルと共に前線で戦う剣士。しかしシオンは魔力が全くないらしい。


驚いた。


魔力を持っていない種族(サイレンスと呼ばれる)に俺は初めて出会ったからだ。


ホントに変わったパーティーだな。


それから俺がどうやってロゼッタに出会ったか、そして店で絡んできたブームス達をどう追い払ったかについても包み隠さず全部話した。


「なんだか、すごい話ね。仲間に裏切られるなんて私達はきっと耐えられない。」


「そのお仲間許せませんね!私が成敗してやりますよ!」


「そんな凄い魔法が使えるのにどうして街の人の誤解を解こうとしなかったのですか?」


ビエーブは尋ねる。


「あぁそれは、その時スキルが残ってるって気づいてないのもあったけど、誤解を解くにはちょっと厄介なことがあってね。」


「厄介なこと?」


「その時が来たら話すよ。今度はみんなの過去を聞かせてくれないか?」


俺は4人の過去を教えてもらった。


イルは有名な貴族ルリルカ家の子供であったが、貴族の血を引きながら魔力が弱かった為、家では存在しない子として育てられた。そんな中近くの孤児院に通うようになりロゼッタのメンバーと出会ったらしい。


孤児院はまだ整備が行き届いておらず人間と他種族の子供も一緒に入ることが多い。だがそうなるとどうしても少数派であるリップとビエーブのような他種族は人間の子供達から差別的扱いを受けていたようだ。



そんな中魔物に村を襲われ親や親族を亡くしたシオンが入って来たらしい。


シオンは魔物に村を襲われたが異種族であるリップやビエーブにも人間と何ら変わることなく明るく接した。


ハミ出し者だった4人だったからこそ、そこには家族のような絆が生まれた。


そしてそこに仲間、国からもハミ出した俺が入るって訳だ。




次はいよいよ魔法効率化について教えるためにみんなで庭に出た。



「話は分かった!このパーティーの状況も。けど1つ質問いいか?」


俺はイルに向かって質問を投げかける。


「お前達はどうやって魔法を学んだんだ?」


話を聞く限り学校に通い学べる状況には思えない。


「あぁ、それは私が独学で勉強して3人に教えたのよ。ま、シオンは魔力なかったんだけど。」


「なるほど。じゃあ取り敢えず3人の【プリシラ】を見せてくれないか?」


「私達の基礎力見ようってわけね。」


イル、ビエーブ、リップがそれぞれが【プリシラ】を発動する。


イルのは小さく弱々しい。ビエーブは1番安定して大きさも問題ない。リップは大きさは十分だが形が不安定だ。


「なるほど分かった。独学でこのくらい出来れば良い方だ。」


そうでしょ!と言わんばかりに3人は得意げだ。


「だけどこれじゃ勇者になんかなれる訳ない。」


3人は下を向く。


あ、ちなみにシオンは修行だぁ!とか何とか言って走り去って行った。


「ただこれはお前達が悪いんじゃない。教科書が悪いんだ。」


「教科書?でも私みんなが使ってるていう漣(さざなみ)ユルブレヒド著の本で勉強したのよ。」


「そうだよな、みんなそれから学ぶよな。3人ともちょっとこの魔術式を暗記してくれないか?」


俺は紙に魔術式を書く(ビエーブには点字で書いた)と3人に渡した。


すると3人とも難しい表情になる。


「なんですかこれ。とっても複雑な魔術式ですね。」


「何これ!なんかすっごくややこしい。」


3人は懸命にそれを理解しようとする。


「理解はしなくていい。ただそれを見たまま覚えてくれ。」


3人は頷き瞬間記憶にその術式を叩き込む。


「よし。じゃあさっきと同じように【プリシラ】を唱えてくれその時杖は1回上下に振るだけでいい。」


3人は俺に言われた通りに唱える。


すると今までの約2倍の火力で【プリシラ】が発動される。


「きぁ!」


「うわぁ!!」


イルとビエーブは尻もちをつき、リップは高速で尻尾をフリフリしながら目を輝かせていた。


「なにこれ。今のが私達の【プリシラ】?」


「みんなが使っている教科書を書いた漣ユルブレヒドという学者は生涯で何千という魔術式を発見した。」


俺は魔力効率化に必要な前提知識を話し始めた。


「そんな天才である彼は早速その術式を皆に広めるために、術式をまとめ、解説を書いた本を出版したんだ。」


「それが私達が使ってるやつ?」


「いや違う。それには俺がさっき渡したような複雑な術式が書いてあったんだ。【プリシラ】ですらあんなに複雑なのに上級の魔法になってくるともう訳が分からないほど難しい。」


「え、でも私達が使用している教科書もユルブレヒドさんが書かれたのですよね?」


「そう、それはいわば改良版なんだ。最初に出した方は難しすぎて他の学者も理解できないほどのものだったんだ。当然そんなの一般人には理解出来ず本は全く売れなかった。論文も理解されず、本も全く売れずユルブレヒドは大発見をしたのにも関わらず誰からも認められなかった。」


「学者でしょ?論文認められないなんて生活は大丈夫なの?」


「当然彼もボランティアでやっている訳では無いから論文が認められなくては困る。だから彼は長い年月をかけて発見した魔術式に、他の人でも理解出来るように改良に改良を加えた。そして亡くなる数ヶ月前に今の教科書の元となる論文を発表しやっと世間に認められたんだ。」


「そんな過去があったなんて。知りませんでした。」


「そう、そしてその過程で彼はやむなく魔術式を簡単にする代わりに魔力効率を悪くし、杖を振る回数を増やしたんだ。俺が杖を振る回数を1回でいいって言ったのもそういうことだ。そして俺はユルブレヒドが最初に書いた本を理解しスキル(魔力効率化)を得た。」


「なんだかすごい話ね。んーでも疑うわけじゃないんだけど」


イルが訝しそうな目で俺を見る。


「そんな学者でも理解できないような複雑な魔術式をどうしてアンタが理解出来ているの?」


「そうですね。正直自分の常識を覆すようなことが多すぎてなんだか嘘のような気もしてきます」


まぁ、【プリシラ】教えたくらいで本当にそんな都合よく強くなれる方法があるなんて思えないよな。


そっか考えてみれば誰も俺が戦っているところを見てないんだよな。


ならとりあえずDランクくらいのクエスト受けて、魔力効率化の力がどんなものなのか皆に体験してもらう方がいいかもな。


そんなことを考えていると


「イル!ビエーブ!リップ!!」


シオンが大きな声で3人の名前を呼びながら全速力で帰ってきた。


その表情にはさっきまでの明るさはなく、かなり焦っているようだ。


「どうしたのよそんな顔してアンタらしくない」


イルはいつもと違う顔をしているシオンに動揺する。


そしてシオンの口から衝撃の一言が放たれる。


「さっき街で聞いたんだけど、オリーブが……私達のいた孤児院が……昨日魔物に襲われたって……」


それを聞いた瞬間。


「シオン、ビエーブをよろしく。みんな行くわよ!」


イルの号令でロゼッタは孤児院へと向かった。




《あとがき》


次回も19時から20時の間に投稿予定です。


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