第2話 俺がロゼッタに加入するまでの話

「よしこの辺でいいだろう」


店で俺達に絡んできたBランクパーティーの男達(パーティー名はブームス)は俺を街の外側へと連れて行く。


<街中における戦闘魔法行使は禁止>という冒険者協会のルールがあるためだ。


俺達は街を出てすぐの何も無い草原にまで辿り着く。


荒くれ者のような彼らだが、冒険者協会には刃向かえないらしい。



「おい、俺とお前のタイマンで俺は土系魔法の傀儡浄瑠璃(くぐつじょうるり)を使うぞ」


驚いた。


古くからある魔術師同士の決闘における正式なルールの1つに術師の間に力の差がある場合は、力のある方が自分の使う魔法を先に相手に告げるというものがある。


正直このチャラ男野郎が決闘における正式なルールを守るなんて思ってもいなかった。


「そんなことしてもらわなくて大丈夫だ。俺は火炎系魔法のプリシラを使う」


俺は折角のチャンスを無駄にした。


力がない側なのに自分の使う魔法を先に告げるなんて普通であれば自殺行為にしかならない。


「お前どれだけ俺を舐めてんだ!!」


当然チャラ男はブチ切れた。


「先に魔法告げる上にプリシラだとぉ?その魔法は最初に習う超初級魔法じゃねぇーか!」


その通り。プリシラは冒険者育成学校の魔法科目で最初に習う言わば誰でも使えるレベルの宴会魔法だ。


炎が30cm程の大きさの踊り子の形になり踊りを踊る。


この魔法を使うことで魔法行使の上で基礎的な力である魔力コントロールと魔力を一定で出力する能力を培うものだ。


正直言ってそれを戦闘で使うなんて白旗を振ることと同じだ。


俺を除いてだけど。


「そうだ。それにやられるんだよ、お前。」


「クソ野郎が!水流魔法【怒号牙竜】!」


チャラ男は杖を4回振りながら呪文を唱えた。


すると杖の先から水の弾が何発も撃ち出される。


その形は龍の頭を模している。


「おいおい、何が土系魔法だよ。思いっ切り水流魔法じゃん。」


俺が火炎系魔法を使うと聞いて普通に性質有利な魔法を使ってきた。


こちらに雷系魔法を使う隙を与えないようにノータイムで撃って来た。


どうやら俺を瞬殺するつもりらしい。


まぁ別にこっちは変える気もないが。


「ハッハッハ!死ねぇーーー!!」


チャラ男が叫ぶ。


だけど、そうはならない。


「愛讃え舞えよ【プリシラ】」


呪文を唱えイルから借りた杖を1振りすると俺の前に半径2mはある大きな魔法陣が描かれる。


そこから出てきたのは美しいドレスを身にまとい誰もが見蕩れてしまう程妖艶な美女だった。


もちろん人ではなく炎がそう形作っているのだが。


彼女はまるでここが自分の舞台かであるように踊りを踊る。


するとチャラ男から放たれた水の弾が彼女に吸い込まれていく。


「なんなんだよ!!クソ!クソ!クソ!クソ!」



何発も何発もチャラ男は撃ち続けるがそれが全てプリシラに飲み込まれていく。


「何やってんだ!お前らもやれ!」


チャラ男の後ろで見ていたブームスのリーダーらしき男が仲間達に声をかける。


直ぐに男達は杖を取りだし各々が魔法を俺に向かって放ってきた。


「おいおい、今度はタイマンですらなくなったのかよ。」


男達のプライドの低さに呆れてしまう。


「今度こそ終わりだ!死ねぇ!!!!!」



無数の魔法が俺に向かって飛んでくる。


しかし、それも全てプリシラに吸い込まれていく。


どんな方向に飛んだどんな属性の魔法だろうが彼女に引き寄せられ取り込まれていく。


まるで魔法が彼女に惹かれているかのように。


「クソがぁぁぁぁぁ!!」


チャラ男は杖を投げ捨てナイフを取りだし俺に向かって突撃してくる。


しかしチャラ男が1歩踏み出した瞬間、その足に履いていた靴が勢いよく燃え上がる。


「ぎぁぁぁぁ!!」


チャラ男は直ぐに後ろに退いて燃えている靴を脱ぎ捨てた。


「なんだこれ!いつ間にか魔法陣が俺達の所にまで広がってやがる!」



「いけませんお客様。この魔法陣は言わばプリシラのステージ。彼女にお客と見なされたあなた方が踏み込んでよい領域ではありません。」


俺は男達をおちょくる様に丁寧な口調で語る。


プリシラは魔法取り込めば取り込むほどその領域を広げる。


客が彼女にどんな罵声や魔法を放っても、彼女にとってそれは踊りに対する情熱に薪をくべる行為に他ならない。


「魔法も効かねえ、物理攻撃も効かねえ、どうしろってんだよ。」


「信じらんねぇ、お前確かにFランクだったじゃねぇーかよ!何だこの魔法こんなのSランクってもんじゃねぇぞ!!」


男達は1人また1人と攻撃をやめ、口々にそんなことを言いながら呆然と立ち尽くす。


「さて、じゃあ次は俺が仕掛ける番だな?」


俺がそう言って杖を振り上げると


「や、やめてくれぇ!!」


リーダーらしき男が止めに入った。


「お、俺達の負けだ。許して欲しい。」


「お前らは俺のパーティーメンバーの夢をバカにし、嘲笑った。そんなヤツらタダで帰すと思ってるのか?」


「いや、でも考えてみろよ!あ、アイツらは魔法もスキルも半端で今までDランク以上のクエストを達成したこともないんだぜ!」


「だから?」


「魔力やスキルは鍛錬で伸びはするが、結局血筋や種族なんていうどーしよーねぇーもので決まっちまうんだよ!アイツらはそのアドバンテージが使えねぇーんだ。だからこれ以上強くなるわけなんてねぇんだよ!」


「だったらお前らに勝った俺の事をどう説明する?」


「そ、それはあいつの観眼がダメだっただけでアンタは紛れもなくSランクの…」


「オープンステータス」


俺は自分のステータスが男達にも分かるようにした。


ステータスにはちゃんとFの文字が羅列されている


「な、なんでだよ。アンタ本当にFランクなのか…」


「あるんだよ。」


「へ?」


「元の魔力が小さくても、種族や血筋の力を借りなくても強くなれる可能性が」


「そんな、バカな!」


やっと分かった気がする。


この街のいやこの世界の、力のある者とない者の差別意識の根本が。


「見せてやるよ。世界一最弱と言われたパーティーが誰もが認める勇者になる所を。」


「わ、わかったよ。あ、あんたなら出来るさ。だから俺達のことは見逃してくれ!」


男はそんな戯言はどうでもいいと言うように命を乞う。


「そういえばお前らが笑いながら殺したゴブリンの親子も、今のお前らみたいに命乞いしたんだよな?」


「…………そ、それは」


「だったら俺がお前らにすることもわかってるよなァァァァ!!!!」


「ひ、ひぃぃぃぃ!!!」


男達、いや街最強を豪語するBランクパーティーブームスはなんとも情けない姿で逃げていった。


「ふぅー。プリシラには攻撃能力はそんなに備わってないんだよ。」


俺は1人残された平原でプリシラの手の甲にキスをして魔法を解除した。





「ムグっ!」


ブームスを懲らしめて店に帰るとリップがいきなり顔面に飛びついてきた。


「アンタあいつらに何やったのよ!?アイツら店に帰ってくるなり私達に土下座してめちゃくちゃ謝ってきたのよ!」


イルが不思議そうに俺に問いかけてきた。


俺は顔面に張り付くリップをひっぺがし答える。


「あぁ、アイツらを生かす代わりに幾つか条件を出したんだよ。お前達への謝罪もそのひとつ。」


「そ、そう。」


イルはプイッとそっぽを向いて相槌をうった。


「あ、ありがと。」


普段あまり言わないのだろうか?


すごく照れくさそうに言われた。


可愛いなおい。



「じゃ、じゃこれでいいのね?」


「?何が?」


「私達のパーティーに入るのねってこと!」


イルは言わせるな!とでも言いたそうな顔でそう告げる。


「あぁ、一緒に勇者になろう!」


イルはぱぁっと明るい顔になると万遍の笑みを浮かべる。


「うんっ!私達のためここまでしてくれるヤツなんて力づくでもパーティーに入れやるんだから!」


冗談でも入る気はないなんて言わなくて良かった。


「それに、リップもあなたのことすごく気に入った見たい。」


リップはさっきから俺の腕にしがみついている。


そこで俺は突如言わなければいけない重大な事実を思い出した。


「ま、まぁ、あの〜俺という新メンバーが加わってとてもめでたいわけなんですけれど………………」


「何よあらたまって。あ、というかアンタあたしの杖返しなさいよ!」



「その事なんですけど…」


俺は杖を取り出す。


杖は見事に真っ二つに裂けてしまっていた。


「あの〜思った以上に杖に魔力負荷がかかってしまったみたいで」


「…………これめちゃくちゃ高かったのよ。」


よし。


「ほんっっっっとうに申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁ」


俺は究極魔法【土下座】を発動した。


リップはそんな小さくまとまった俺の上にちょこんと座り、きゃっきゃっと楽しそうに手足をバタバタさせていた。



この後30分ほどお説教をして頂いた。




{あとがき}

次回は19時から20時の間に投稿予定です!


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