+ 10 weeks

「……彼方の家に行ったけど、実質空振りだったよ」


 彼方が通っていた高校の近くにある公園。僕は待ち合わせていた有澤に、彼方の母親と話した結果を報告した。


「お母さんが、何か隠してるって可能性は?」

「いや、僕の直感だけどそれはないと思う」


 ブランコに座り、金属の擦れた音を鳴らしながら答える。

 脳裏に浮かぶのは痩せた背中を丸めた母親の姿。彼方に対し厳しかったのは事実だろうが、それが直接の原因ではない、だろう。あの人に、彼方をそこまで追い込む力は感じられなかった。というより、必死にしがみついているように見えた。


「じゃあふりだし、ですか」

「そうだな……」


 目に見えて肩を落とす有澤。恐らく今日で答えが出ることを期待していたのだろう。

 だが、僕はまだ諦めない。


「だから、学校関係の方を調べてみたいと思ってる」

「学校、ですか?」

「ああ。家の方じゃないとなると、やっぱりそっちに何かがあるとしか考えられない」


 有澤は疑問と驚きをはらんだ表情になる。無理もない。学校に原因はないと言ったのに、もう一度そこを調べるというのだから。だけど、


「君の話だとイジメはないってことだったけど、それ以外に原因があるのかもしれない」


 教師、部活、委員会……有澤は彼方と一緒にいたと言うが、彼女の目が届いていないところはいくつもあるだろう。


「それで、僕の代わりに学校を調べてみてくれないか?」

「私が?」

「本当なら僕が乗り込んで聞き取りとかをしたいところだけど、さすがに女子高には入れないし」


 入ろうとしたら、それこそ不審者で通報されてしまう。元々は誰の手も借りないつもりだったが、こういう状況になれば致し方ない。


「いや、それは大丈夫だと思いますよ」

「……は?」


 だが、返ってきた答えはイエスでもノーでもなく、ましてや僕の想像とは全く違うそれだった。


「大丈夫って、そういうわけにはいかないだろう」


 何を言っているのかわからない。僕は慌てて聞き返し、その意味を理解しようとする。対照的に、有澤は至って冷静に、普段の会話と変わらないトーンで続ける。



「だって鳴海さん。あなた――――女の子じゃないですか」

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