第10話 お買い物その4

「ほら」

「えっ、何?」

俺が右手を差し出すと越崎はまたもや不思議な顔をしてそう言った。

「何って。お前、さっき言っただろ、彼女の振りをしてくれるって」

「ああ、そういうこと」

越崎は納得したような表情を浮かべた。

「安心しろ。今回は手を洗っている」

「それを心配して躊躇してるわけじゃないから。ほら、仮にも私たち異性同士じゃん……分かるでしょ」

なるほど。さっぱり分からん。

「それがどうしたんだ。さっきも掴んでただろ」

「今回とは事情が違うでしょ。」

「一緒だろ。手を繋ぐぐらいどうしたって話だ」

「むぅ。私って、そんなに女の子らしくないの?」

「そんなこと全く言ってないだろ。それにこの前言わなかったか?お前のこと可愛いって。だからっていうのは少し違うのかもしれないが女の子らしいんじゃないか」

嘘だ。顔がよくても中身は淫夢中だぞ。女の子らしいわけあるか。まあだが、そんな事、言うべきじゃない事ぐらい分かる。

「ふーん。ありがと」 

「今回は照れないのか?」

「うん。零斗がどんな子か少しわかってきたから」

こんな少しの間で何が分かるんだ。

それに分かったとしても照れる照れないとの因果関係はないだろう。

「あと、さっき零斗は私があなたの彼女の振りをするって言ったって言ってたけど別にそんな事、口にしてないから」

「でも、そういうニュアンスだったんじゃなかったのか」

「それはそうだけど……」

越崎が少し狼狽えている。

が、それは一瞬のことで

「うん。そうだよ」

語録を言ってきやがった。

これのどこが女の子らしいんだよ。ホントに

「それじゃあ、エスコートお願いね。零斗」

「任せとけ越崎」

もう、文句は言わない。話が進まなすぎる。

「ぶー」

「??」

なんでだよ。せっかく話を穏便に進めようとしてるのに。

「恋人の振りするんでしょ。だったら呼び方♡」

うわーだりぃ。付き合ってられない。

「だったらもういい。一人で行く」

が、俺がそういったらすぐに越崎は自分のスマホを取り出し

「これ、クラスLINEに送るよ」

「勘弁してくれ」

あろう事か越崎は俺を脅してきた。 

まあでも俺が居ないところで言われるだけなら。

「それと、ちょっとスマホ貸して」

急に話題を転換してきた。何か企んでいるのは分かるが取り敢えずは渡した。

「普通に貸すんだ。しかもロックもしてない。借りた私がいうのもアレだけどもうちょと考えなさいよ。何か悪用されるかもしれないわよ」

まあコイツならそんな事しないだろ。それに俺の尊敬できるユーチューバーが深くは考えなくていいんだよって言ってたし。俺が考えなしになる事があるのはその人のせいだ。

そんな誰にしているのかも分からない言い訳をしていると

「はい完了」

そういって越崎からスマホを返された。

「何したんだ」

気になりスマホを見てみると1ー1グループラインファイアと書かれたグループが追加されていた。

「おい。なんでこんな事したんだ」

「言ったでしょ。悪用されるかもしれないって」

「なんでしたのかをきいたんだが」

「ああ。零斗だったら、自分が居ないところでなら何を言われても噂されても大丈夫って言い出すと思って」

コイツ、エスパーか?

「お前、案外頭がまわるんだな」

「ありがと」

褒めてねぇよ。

さて、いよいよ逃げ道がなくなった。どうするか。呼び方だったか。おそらくコイツが言いたいことは自分の事も名前で呼べって事だろう。しかし、それには困った事がある。

コイツの名前がはっきり思い出せない。ユキだった気もするしユカのような気もする。

俺はどうすればいい。

はっ。そうだ。こう言う時こそ「深くは考えなくていいんだよ」だ。

逆の発想だ。こうすれば

「分かった。これでいいか?#えっちゃん__・__#」

我ながら完璧だと思う。あだ名ならより良さげだろ。

「……零斗。もしかしなくても名前、思い出せないから誤魔化そうとしてるんでしょ」

なんでバレんだよ。

くそっ、こうなりゃ2分の1の確率だ。ユカかユキか

むむむむ

「由香」

「えっ」

この反応どっちだ。だが、俺も男だ。賭けたんだから貫くしかない。

「どうしたんだ?由香。早く行こうぜ」

「そっ、そうだね。零斗」

心なしかコイツの顔が赤くなってる気がする。

なんだよ。お前も緊張するならやめとけよ。

そんな事を考えてると

「零斗、顔あかくなってるよ」

越崎いや由香がブーメランをかましてきた。

「お互い様だ。行くぞ由香」

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