第9話 お買い物その3

「いや、違う。違う。俺は何もやましい気持ちはない」

「なら、何でこんなとこいるのよ。私を置いて出て行ったと思ったら、なんで女の子の下着コーナーにいるのよ」

そうだった。コイツとは一緒に買い物をする約束をしたけど、放置してきたんだった。それもあって今コイツからの俺への評価はどん底になってるのだろう。

「分かった。説明するから、だからその目はやめてくれ」

「なんか、言った?変態」

「じゃあ、せめて一旦外に出よう。ここにいたら周囲からの目線が痛い」

「自分から入ったくせに何言ってんの?」

くそっ、埒があかねぇ。

パン

「ちょっと、何勝手に手握ってんのよ」

「いいから、出るぞ」

少々強引にここから出た。


「で、きちんと説明してくれるんでしょうね。放置した女の子に変態行為をみられたら逆上して力づくで連れ出した零斗くん?」

「ああ、する。するから、その言い方やめてくれ」

………

越崎に事の顛末を説明した。越崎にプレゼントとして髪留めを送ること、店員から嫌がらせを受けた事。

「へぇ~。それだけ?」

何でコイツ、まだ怒ってんだ。

「ああ」

「他に言うことないのってきいてんの?」

他に言うこと……もしかしたら

「悪かった」

「思い出した?私、結構ショックだったんだよ」

「ああ、反省してる。でも、なんで気付いたんだ?」

「気付く?何いってんの」

普通、気付かないだろ

「お前、よく俺がさっきトイレ行った時、手を洗ってなかったことに気が付いたな」

「えっ、冗談だよね」

越崎の顔が少し青ざめる。

なんだ、その反応は気付いてたんじゃないのか。

「だからお前、怒ってたんだろ」

「ちがーう。何で分からないの。っていうか、今すぐ洗ってきなさい」

これでもないのか。

ちらっ

「いいから、まずは洗ってきて」

仕方ない洗いに行くしかないのか。


じゃー、じゃー

あっ、ここ乾燥機ないのかよ。しゃあない。

ぶるぶる


「あっ、やっと戻ってきた。零斗、これを……ってなんで手、濡れてるのよ」

「ここ、乾燥機なかったんだよ」

「ハンカチで拭けばいいじゃない」

「そんなもん、常備してねぇよ」

「なんでよ。ほら、貸してあげるから」

「おう」

越崎から渡されたのは赤い花、多分バラだろう、の柄が入っている白いハンカチだった。

「ほら」

「お礼は?」

「お前が勝手に渡してきたんだろ」

越崎が先程と同じ、もしくはそれ以上に冷え切った目でこっちを見てきた。

これは、マズイ。言ったらダメなことだったようだ。

「冗談だ、冗談」

少しは目がマシになった気がする。

「そういうこと、あんまり言わない方がいいよ」

「分かった。善処する」

「あっ、それと」

越崎がポケットからスマホを取り出す。

「どうしたんだ、スマホなんて取り出して」

「これ、みて」

越崎のスマホには淫夢のTシャツ(語録が書かれてる)をきてる俺が写っていた。

「なんで、お前。こんなの持ってるんだよ」

「Twitterに投稿してたでしょ」

そういえば、これが届いた日ツイートしたか。だが、俺のTwitterのアカウントなんかフォロワーもいない、ホントに俺が呟くだけのものになってたはずだ。それに、Twitterにあげたときは顔にモザイクを入れてたハズだ。

「なんでって顔してるね。Twitterで画像みつけて、零斗って分かったからモザイク解像したんだよ」

そんなことできるのか。今度からツイートするときは気を付けるか。もう、いっそ辞めるか。

「これをクラスLINEに広められたくなかったら言わなきゃいけないこと言いなさいよ」

まずいですよ。こんなのばら撒かれたら俺の高校生活が終わっちまう。

「勘弁してくれよ、越崎。ホントに全くピンとこないんだ」

「なら、死ぬ気で思い出しなさい」

それは、ホントに死ぬ奴だ。社会的にこれはガチで思い出さないとヤバい。

「ヒントくれ」

「ダメ」

なにか、なにか。

思い出せ。コイツとは会ったばかりであったことなんて限られてる。

学校の事で怒ってるなら、さっき会った時にも怒ってたはずだ。でも、そんな素振りは全然みせなかった。ということは、その時か。あったこと、あったこと

「あっ!お前を放置したことか」

「ようやく分かった?」

越崎の表情が少し柔らかくなったような気がする。

「お前、ああいうプレイ好きっぽかったから

痛い痛い。悪かった反省してる」

「私を置いていった理由は?」

「ある人に、女にプレゼントを渡す時に他の女の力は借りるべきじゃないって言われたのを思い出したんだ」

「うーん。まあ、そうね。たしかに男の子からプレゼントもらって、ときめいてたけど実は他の女の子が選んだものだったとかだったら、ちょっとガッカリしちゃうか。なら一声かけなさいよ」

「それは悪かった反省してる」

あの時、ちょっとくらいは申し訳ないと思った。そうちょっとくらいは。

「ほんとに」

「……ああ」

「あやしいなあ。

まあ、いいわ。これからどうするの?」

そりゃ、また髪留め買いに行くしかな行くしかないだろう。また、あそこに行かなきゃならないのか。うっ、またあの視線を浴びないといけないと思うと気病みする。

「また、さっきのところに戻る」

「周りからあんな目で見られてたのにまた戻るって、あんたドM?」

「ちげぇよ。仕方ないだろ」

「仕方ないっか。なら私も仕方ないか」

何言ってんだコイツ

「私も一緒に行ってあげる。そしたら、周りは勘違いしてあんたの事を変な目でみないハズよ」

「勘違い?」

「……ねぇ、ワザと?」

ん?どういうことだ。コイツと一緒にいて勘違い?

………

「なるほど、そういうことか。つまり、俺とお前が」

「いいから。口に出さなくていいから。まあ、ここにあんたを呼び出したのは私で、責任の一端があるわけだし」

「そうだな」

「はあ?」

なんだよコイツ、めんどくさいな。自分で言ったんだろ。

「ジョーダンだって上段」

そういって、俺は拳を越崎の顔の前に持っていく。

「えっ、なに」

バン

当てるつもりは毛頭なかったが、越崎に手を叩かれる。なんでだよ

「いてぇじゃねぇか」

「あんたが悪いんでしょ」

「なんで怒られるんだよ」

ホントに

「そりゃ、そうでしょ。急に人の顔を殴ろうとしたら誰でも怒るわよ」

「もしかしてお前。この冗談通じないのか」

「冗談?」

「上段突きの上段と冗談をかけたやつ」

「?」

越崎が何言ってんだコイツみたいな顔をしている。

やはり、そういうことか。

「悪い。わすれてくれ」

「いや、忘れられないから。

殴られかけたんだからそれぐらい話される権利あるでしょ」

権利だとか面倒なことを言う奴だ。しかも、当たってないから別にいいじゃねぇか。

「俺の友達?に引道ってやつがいるんだがソイツが空手やってた時、確か小五の時ぐらいだったかに俺がやられてキレそうになった奴だ」

「キレそうになったんだったらしないでよ。それにその子、急に殴ってきたの?」

「ああ、そうだが」

「今みたいに?」

「そうだって言ってるだろ」

「その子も中々、変わってるね。ちょっと会ってみたいかも」

「そうか?なら今度、会わせてやるよ」

良かったじゃねぇか淫夢。人気者だぞ。

「ジョーダンだって上段」

バン

「ぅ」

痛い。まさかコイツ、当ててきやがるとは

「お前、なにしてくれてんだ」

「これでおあいこで言いでしょ」

勿論、納得なんてできるわけないがこれ以上時間を無駄にしてられないので言わないことにする。

「じゃあ、行くか。今回は世話になる」

越崎は少し不思議そうな顔をしたあと

「うん」

元気にそう返してきた。

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