第9話 人生はマトリョーシカ
怪異対策機関西方方面本部の観測所にて超高速で飛来する飛翔体が確認された。先ほど狸型怪異を退治した隊員であることは観測所の誰もが把握しているが、あまりの飛翔速度に動揺を隠しきれない。
「強化スーツ来てるけどこの速度って・・・」
「もはやこの隊員が怪異・・・」
などと言われていることは本人は知らない。
「雨宮整備長!あと3分で帰還します!」
観測班からの連絡を元にヘリポートのある場所へと目を向ける。遠くに光を発しながら飛んでくる隊員の姿を捉えながら。
「ったくアイツはもうほんとニネ」
ため息をつきながらも半笑いは崩さない。雨宮と呼ばれたその長身痩躯のロングヘアーの眼鏡男はなぜか大量の撃墜マークが貼り付けられて重そうになっている白衣を纏いながらヘリポートへと向かっていった。
「よっととと」
「お帰りなサイ、帰還報告をどうゾ」
白衣の男は偉そうにふんぞり返りながら眼鏡の奥の笑ってもいない鋭い目を光らせながらそう言い放つ。もちろん手は眼鏡を鼻クイしつつだ。
「おーアマさん!おつかれさまー」
空から降り立ってきたその男は業務用と一目でわかるとても素晴らしい笑顔でそう言うとその場を後にしようとする。
「帰還報告をど、う、ゾ」
先ほどよりも幾分か言葉にとげを増やしながらもう一度聞く。逃げないように肩をつかむのも忘れずにだ。
「ちっ」
悪びれもなく舌打ちすると空から降り立った男は振り向くやいなや居住まいを正し敬礼をした。
「怪異対策機関実務隊戦闘班一木晴真、ただいま帰還いた」
「なぜP粒子を使ったのカネ?貴重なものだと伝えていたはずだシそもそもスーツは持って行っていただロ?」
基本的に人の話を聞く人ではないのは知っていたが、自ら求めてきた帰還報告を遮ってメンチを切りながら聞いてくる。
「うちのサポートメンバーに聞いてください。とくに瑠華にね」
肩をすくめてそう答えると格納庫に向かって歩き始める。
「メディカルチェックをうけることを忘れないようにネ!」
瑠華の名前が出てきたことで興味を失ったのか手をひらひらと振りながらこちらを見もしないでそう叫ぶ。
雨宮の耳にかかっているインカムには怪異の遺骸を運搬しているヘリが到着する旨を伝えていた。
医務室にて簡単なメディカルチェックを受ける。変身後は毎回なので恒例行事だ。
「・・・バイタルも安定しているシ、特に問題ないでしょウ」
タブレット端末を見ながら雨宮がそう答える。
「変身後の装備は資材部に預けて破損の有無を確認してくださいネ」
ひらひらと手を振りながらそう告げると雨宮はパソコンに向かって何かを打ち出し始めた。
「・・・晴真さン?何着目でスカ?」
胡乱げな視線でため息を隠しもせず雨宮は言った。タブレットを見ながらぶつぶつと文句を言いながら晴真が脱ぎ終わったスーツの各部位を点検する。
「以前のスーツの損傷部位用と考えたラ無駄ではないのデショウかね?」
くるんと頭だけこちらに向けて恨めしそうに言ってくる。そろそろ殴ってもいいのではないかとさえ思える。やらないが。
「・・・瑠華に聞いてください。車の件も含めて」
言い捨てて資材部を後にする。部屋の中から私が手塩にかけて改造した愛車に何をしたと叫び声が聞こえてくるが、後のことは瑠華に任せる。隊員服に着替えたのでそのまま食堂へ行きその後は寝ようと心に誓ってその場を後にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます