第6話 家と呼ぶには質素なもので

ドッカンドッカン様々な音を鳴らしながら親方とともに作業に没頭する。魔素が濃い環境のおかげか非常に効率よく人形を動かすことができ、思い通りの作業ができている。鋼鉄そのものといった無骨で大きな鎧が細かい作業を繰り返しログハウスを組み立てていく様はなかなかにシュールなものがある。ドアの表面に彫った工房の文字はご愛嬌だ。

「できましたよエメラダ」

魔素が濃すぎて霊薬エリクサーとなっている滝の水を極々と飲み干してはうっとりとしているエメラダ。なまじ神として存在が確立されているだけに高濃度の魔素を含んでいる瀧の水は甘露なのだという。ほぅと息を吐く仕草が何とも言えません。

「これはこれは主人殿なかなか木の風情が生かされた良い家ではないかえ。」

ふよふよと浮かびながらドアを開けて中へと入っていく。そろそろあたりも暗くなってきたのでとにかく屋根のあるところで寝ようと急ピッチで建てたので広い割に中は空っぽだ。

「今後はここを拠点として周辺の探索、帰る手段を探しましょう。」

室内を覗き込みながらエメラダにそういうと、エメラダはニヤリと笑った。

「妾が直々に修行をつけて差し上げるでの」

今までで一番素敵な笑顔のはずなのに一気に全身に冷や汗が噴き出たのは秘密だ。

その後は木の繊維クズを魔法で加工し大きめのクッションやベッドを作りその日は家づくりの疲労もあってか非常によく寝た。

「深夜に襲撃があったのですね・・・」

朝起きて外へと出るとそこにはエメラルドでできた魔獣の彫刻が複数体聳え立っていた。完成された彫刻は一種の魔除けのように見えなくもない。

「この程度の魔物で主人殿を起こすのも忍びないしの」

あくびをしながら起きてきたエメラダは水辺へと飛んでいくといきなり全裸になり水浴びを始めた。見にいきたい衝動をなんとか押し殺し、血涙を流さん勢いで朝食作りに精を出す。精を出したのだ。

「朝からえらい豪勢な食事じゃのう主人殿」

クスクス笑いながらテーブルに座って食事を取り始める。朝のミーティングは大事だ。

「喜んでいただけたならよかったですよ朝食。さて、今日はどうしましょうかね。」

私も朝食をとりながら今日の予定を考える。必要なものは数あれど、周辺には木しかない。材料が木ばかりではできることが偏ってしまう。

「金属が欲しいですね。割と切実に」

「ふむ、確かに鉱石系は今後の生活環境を考えると必須じゃなぁ」

お茶を飲みながらエメラダも頷く。

「探しにいきますか」

拠点の場所が確保できたので探索に行くというのも悪くはない。ただ周辺に山らしきものは滝が流れているアレしかない上に、円柱状なので鉱石がまともに掘れるかも怪しい。

「宝石にであれば大概のものには魔物を変化させられるのだがのう」

そういうと手のひらの上に色々な色の小さい矢を出現させるエメラダ。え?エメラルドだけじゃないの?

「驚いておるな主人殿。妾は宝石の君ぞ?エメラルドが一番綺麗じゃから多用しておるだけで宝石であればなんでも大丈夫なのじゃ」

スリーハウスの家が興りそろそろ500年を越えようとしていますが衝撃の事実に開いた口が塞がりません。

「そもそもこうやって長時間顕現し続けている状況が以上なのでの。でないとこのように色々しゃべれんよ」

そういうとステーキを口に運びモキュモキュと咀嚼する。

「まぁそれはそうですね。でもルビーやダイヤよりもエメラダは翠が似合いますよ」

私はそう言うとコーヒーを飲みながらぼんやりと今日どうするかを考える作業に戻った。

「・・・そう言うことが言えるところも初代様にそっくりじゃの」

小声で言ったエメラダの呟きは私の耳にはあいにく届かなかった。

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