第5話 人形遊びも楽しいもので
目の前に聳え立つのは無骨な鋼鉄製の3メートルは超えているであろうかという巨大なだ。華美な装飾など一切なく質実剛健、実用一点主義とも言えるその巨大な鎧は静か呼び出した主人を見下ろしていた。
「初めてお見せしますよね?」
エキドナの方へと振り返りそう問いかける。
「そうじゃなぁ、そもそも初代様の時に戦場で共に戦った以外は妾は祭事でしか主人殿の家計とはとんと関わらなんだからのう」
大きいのーと言いながら鎧の周りをフヨフヨ回りながらぺたぺた触ったり叩いたりしている。おもちゃを見て喜ぶ子供のようで非常に微笑ましい。
「では、今日はこの親方を使って家を建てたいと思います!!」
そういうと私は左手の指を複雑に動かしながら魔法陣を手元に描き出す。
「・・・此奴は親方というのかの?名前が親方なのかの?」
こちらを向いて聞いてくるエキドナの顔は微妙な顔をしている。
「そうですよ?万能型作業用鎧 親方 です」
そういうと手元の魔法陣から伸びた魔力糸が背中へと繋がったことで起動を果たした親方は力強いポージングをしてみせる。かっこいいぞ親方!
「初代様もそうじゃったがどうしてこうスリーハウスの家のものは才能に比例してネーミングセンスがポンコツになっていくのかのぅ」
何やらひどく馬鹿にされているような気はするが親方がガチョンガチョン足音を立てながら歩いていくその様に見惚れている私の耳には届かない。うちの家の職人も開発した一般向けの商品の名前だけは私につけさせてはくれないことは黙っておくことにした。
「さあエキドナ!見ていてください!ケイト・DM・スリーハウスの力を!」
魔力糸を通して意思と魔力が流れていく。背中の接続部が淡く発光するとともに親方は動きを加速させる。周辺の木を両手で抱え込んでは引っこ抜き、前腕部が変形して出てきた刃物を使い枝を打ち均等な長さに切り分けては積み上げていく。周囲に作業音が響き渡る中一心不乱に親方を操り地面を慣らし、草を焼き、木を切り、あっという間に半径300メートル圏内は更地へと姿を変えた。先ほど水浴びをした水辺へと道を切り開いたところでエキドナに声をかけられた。
「主人殿!主人殿!もう3時間以上は作業に没頭しておるぞ!一旦休憩してはいかがかの?」
引き攣った顔でエキドナが声をかけてくる。半笑いも可愛い。
「仕方ありません。もう少し操縦したかったのですが。少々お待ちください」
エキドナにご飯の用意をしないとと頭の片隅で考えながら大小様々な形状の魔法陣をさらに複数出現させ、それらを太い魔力の綱で親方につなげると魔法陣から手を離しても親方は作業を続けていた。
「さ、エキドナご飯にしましょう」
タオルで顔を拭きながら先ほど作った広いテーブルの上に保存食を並べて準備をする。まだまだ作業があるので手の込んだものは今日は作れないなぁなどと思っていると椅子に座ったエキドナが呆れたような顔で喋り出した。
「さすがは初代様の再来と言われる現当主なだけのことはあるのう主人殿」
保存食の乾パンの缶詰を開けてポリポリとつまみながらエキドナはそう言ってきた。
「そんな恐れ多いですよ。初代様の再来なんて身に余りすぎますよ」
肉の缶詰を開けてほじりながら食べる。初代様は山ほど大きな石でできた巨人を動かしたとか、城を変形させて操ったとか色々な武勇伝を持っている。
「完全自立で人形を動かしておる主人殿の口からそのような言葉を聞くとはの」
そういうとカラカラと笑い出した。心底楽しそうなエキドナの笑顔は夏の太陽のように輝いて私には見えた。直視できないほどの眩しさだった。
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