第2話 フヨフヨするのはいいものだ
目が覚めるとそこは知らない景色だったのは2回目か。2回目ともなれば慣れたもので、咄嗟に飛び起きると辺りを見回し索敵を行う。
「主人殿よ、妾がそのような愚を犯すとお思いかえ?」
後ろから声が聞こえて振り向くと、正座姿のままからからと笑いながらこちらを見ているエメラダがいた。
「…ありがとうエメラダ。助かったよ」
慌ててた自分が急に恥ずかしくなり顔が真っ赤になるのを自覚する。
「良いのじゃ主人殿よ。しかしまた奇妙なことになっておるな?」
ふわりと立ち上がりながら衣服を直しそう問いかけてくる。目のやり場に困る格好をしてるのは昔からだ。
「あまりに魔素が濃すぎたのでね。エメラダを呼ぶ以外に思いつかなかったんだ」
「妾が常時顕在できておる時点で察しておるわな。さて面妖な。ここはダンジョンのどの辺かいな?」
そう言うながらエメラダは周囲を見渡すがわからんとぼやいて空中にぷかぷかと浮き始める。
見えそうで見えないのはやめてほしい。
「力を貸してほしいエメラダ。パスがつながってるから現状はわかると思う。まずは安心できる場所を探さないと」
地面に置かれていたカバンを背負い直しここからどうしようか思案しながら辺りを伺っていると遠くに滝が見えていた。
「エメラダ!滝がある!一先ず滝を目指そう!」
そう言いながら歩き始めるとエメラダはフヨフヨと浮きながらついてくる。
「のお主人殿よ?主人殿の家を守護してきた妾からするとじゃな。この状況はちとまずいのではないかえ?」
私の前に横向きに寝ながら顔を出して話しかけてくる。
見えるー見えるからその体勢やめてー
恥ずかしくて歩くスピードを早めるとくすくす笑いながら追いかけてくる。
「悪かった悪かった主人殿よ。妾も久方ぶりに常世に顕在できて昂っていたようじゃ」
そういうと横にすっと並んで進んできた。
「本当にもうエメラダは!私が子供の頃から変わってませんね!」
顔を真っ赤にしてそう言う私に優しく微笑みながら横を進んでいく。エメラダの言うことはもっともで、神に等しい宝石の君を常時顕在化させているなんてとんでもないことなのだ。精霊や神や式神、召喚獣など様々なこの世ならざるものを魔素と力ある言葉と供物によって呼び出すが、力や知恵を借りてすぐ帰って頂くことがほとんどである。
保たないのよ顕在化させるためのエネルギーが。
そんな常識をぶち破ってる現状はここが未開の迷宮エリアってだけではないことを物語っている証明になっている。
「こんなに長くお話しできるのは私は嬉しいけどねエメラダ。」
言われたエメラダは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「今代の当主殿は変人と聞いておったがなかなか愛いことを言えるではないか」
機嫌良さそうにそういうと私の周りをフヨフヨと回り出して何かを唱え始めた。
「…これは加護?」
左手の甲が光だして複雑な翠色の紋様が刻まれた。そこから暖かい波動が伝わってくる。
「幾代ぶりかの。当主に加護をさずけるのは」
そういうとエメラダは私の頭を優しく撫でながら微笑んだ。
「催事の時にチラと顕現しまた宝石の国に帰る身ではあったが、おんしらのこれまでの当主も、巫女もすべからく妾に礼儀を尽くしてくれた。ならばこの機に返さぬでは宝石の君の名が廃ろうというものよ」
エメラダはそう言うとゆっくりとうなずいて胸を叩いた。
「ありがとうございますエメラダ。今この時私が平静を装っていられるのは幼少のころより慕い続けている貴方が横にいてくれるからです。」
催事の時に吉兆を占ってもらったり、新しい当主が産まれたらお披露目するなど折につけお会いしていたが、いつもほんの数分で帰ってしまう綺麗なお姉さんに幼少の頃より憧れていた。その宝石の君が今このように慈愛に満ちた目で話しかけてくれることに複雑な想いが胸をよぎり涙が溢れそうになる。
「あ、魔物発見、デストローイ!」
1人感動しているのも束の間、エメラダは遠くでこちらを伺っていた虎型の魔物に向けて攻撃し、一撃で首をはねていた。
甘々な雰囲気台無しである。
繰り返し言うが、台無しである。
気配は気づいていたけれど、来ないから放っておいたのである。私だって気づいていた!
狩った魔物を分解しながらままならないと思う私は悪くない。そう、きっと悪くない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます