人形使いと愛しのお婆さま
@sumiyosiizumo
第1話 目覚めたらそこは知らない場所で
目が覚めたら今まで自分が立っていた場所とは違う場所に居ていたという経験はあるだろうか。
いやない、これはない。
心の中でツッコミを入れつつ現状を打破するために上着のポケットから短杖を取り出す。なぜなら少し離れた場所からこちらに向かって走って来ている魔物がいるからだ。
撃退せねば死ぬ。
短杖を空中で踊らせ魔法陣を描き、力ある言葉を解放する。
「炎の獅子よ!」
飛び込んできていた魔物に向けて魔法陣から生み出された獅子が喰らい付く。一撃のもとに相手の首をへし折り息の根を止めると、空中に霧散して獅子は消えて行った。
「…一体全体どうなってるのこれは」
私は先ほどまで自分が置かれていた状況から一転して変わってしまった現実に頭を抱えるしかなかった。
年に一度行われる迷宮の大規模探索に参加していたはずなのに、何故か一人でどことも知れぬ場所に放り出されている。
全くもって理解できない。
一年に一度行われる迷宮内の大移動。最前線街での駐留軍や駐留者達の交代のために大規模な人の移動があり、それに乗じて迷宮内の深部まで向かう狩人や冒険者が多くなる。安全だからだ。
かく言う私もその口で、必要な資源を得るため最前線に近い場所までついて行く予定だったのだが。
まさかまさかの。
行軍2日目に歩いていたら足元に魔法陣らしきものが光ったことまでは覚えている。あとは気がついたらどことも知れない今の場所に一人で立っていたということだ。
「魔素酔いが出始めたってことはかなり深い場所なのか…?」
見たことない四足獣の魔物から魔石を取り出していた私は急激に身体の中に蓄積されていく魔素に吐き気を覚えた。
魔法の素であり、魔力の素でもあり、この世ならざる現象を引き起こすための源でもある。魔素は世界中の遍く場所に存在しているが、濃度に差がある。一般的に魔素の濃い場所ほど魔物は強く、魔法は使いやすく、人も成長しやすい。
ここまで濃いのは経験したことないが。
魔素は魔物も人も平等に成長させる。ただし、負荷に耐えきれない場合身体を壊して死んでしまう。魔物は変わっていくことで対応するのだが。
このままではまずいレベルで魔素の濃度が濃いため、とあることを思いつく。
意識に濁りが出始めている。やばいと思いながらカバンから宝石を取り出した。その間も空中に無数の魔法陣を書き出しては組み合わせ、立体的な魔法陣を描いていく。最後の一枚を書き出し、力ある言葉を叫ぶ。
「大いなる存在よ、供物を捧げし我が前に現れ出でよ!召喚!」
力ある言葉に反応し光り始めた魔法陣の中心に向けてエメラルドを放り投げる。その瞬間、爆発的な光の奔流と共に魔法陣から1人の女性が現れた。
「契約により顕現したぞ主人よ、我名をエメラダという。以後よろしくじゃ。」
着崩した東方風の装いに、翠の鮮やかな瞳をもった妖艶な中年の女性がにこやかに話しかけて来た。
魔素が私の身体から呼び出したエメラダに流れ始めるのを理解したと共に意識が遠のいて行く。魔素による身体の負担がギリギリのところだったようだ。
そこで私の意識は一旦途絶えた。
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