第25話


 この世界に平穏が戻った。

魔族はまだいるけど、魔王が消えた。そのニュースだけで人類は歓喜に沸いた。


 半魔族やクォーターなど、魔族の血が通っている者はあまりにも多かった。どんな形で生まれ落ちるかなど、誰も決めることはできない。よって、魔族の血が入った人間も、少し特殊な人間として認められるようになっていた。


「‥‥平和だな」


「久々な休息だよ本当」


 ノアが魔王を倒してからは、暫く世間が煩かった。何度も何度も王宮に呼ばれ、ノアはあっという間にまるで知らない人のように崇められていた。


 その度に‥というか、何処へ行くにもノアは私を連れて歩いた。おかげで私まで有名人だが、私が何かをやり遂げたわけではないのにいいのだろうかと毎日思う。ノアの隣に並ぶと権利があるのだろうか?と。


「昼寝でもすればいい」 


「‥そうしようかな」


 そよそよと生温い風が私たちを包む。ここは、真新しい屋敷のテラスだった。目の前には真緑の丘が広がっている。広い土地に広い屋敷。すべてノアが手に入れたもの。


 当たり前のようにノアは私の膝の上に頭を乗せた。私は危うく手にしていた書物を落としそうになった。落とせばノアの顔面にドンだ。恐らく眉間。危なかった。


「‥‥まさかここで寝る気か?」


「いいじゃん」


 ノアの綺麗な銀の髪が揺れている。私たちを包む、生温い風。使命感を抱えて追われるように生きてきた私には、こうして心が凪いでるのは初めてのことだった。


 それもこれも、綺麗な顔をして目を閉じているノアのおかげだ。


 サラッとノアの髪に指を通すと、ノアは私の太ももに頬をすりすりさせてくる。懐かれている‥と心から思う。

 ノアは私が持つ勇者の力に惹かれて私の元へやってきた。勇者の力を持つのが私ではなかったら、ノアとは巡り会えなかったのだ。


 胸が苦しくなる。この愛らしい少年を、縛り付けてしまった自覚はある。だけどまた生まれ変わっても、私は同じ選択をするだろう。


 第一、ノアが私を離さない。父に似て、本当に重い愛情を持っているのだ。毎日何度も何度も愛を囁かれ、何度も何度も抱き締められる。アデルは俺のもの、絶対離さない、死んでも俺のもの、とずっとずっと囁くのだ。


 そんな私にはひとつ不安がある。

私は人間、ノアは半魔族。確実に私の方が先に逝くだろう。その時ノアは耐えられるのだろうか、と。


「‥‥アデル」


「寝てなかったのか」


「‥アデル、大好き‥」


「‥」


「愛してる」


「わ、、私もだ」


 何回囁かれても慣れるものではない。顔を真っ赤にした私を、ノアは膝の上に頭を置いたまま見上げていた。目と目が合って、ノアは嬉しそうに笑う。


 そして、起き上がり私の唇にキスをするのだ。


 その度に私の反応を見て、幸せそうに笑うのだ。



「明日が楽しみだね」


「‥‥ああ」



 明日、私たちは夫婦になる。親子でも、師範と弟子でも兄弟でもない。

夫婦になって、残りの長い道のりを2人で歩んでいく。手を繋いで、どこまでも一緒にーーーーーーーー。




 ちなみに、ノアが勇者の力を敢えて私に戻し、先に逝った私がまた勇者の力を持ったことで生まれ変わり‥ノアが探しにきてまたもやひたすらに愛される、というのはまた別なお話である。




ー完ー


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前世は勇者の母だった 江田真芽 @eda_mame

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